見た目

『子供が困ってたら手を差し伸べるのが大人だろ?』


少年は抜け抜けとそんなことを言ってみせたが、まるで困ってるようには見えない、しかもどこの誰とも分からない、そもそも本当に少年こどもかどうかもその太々しい様子からは分からない相手に手を差し伸べる必要がどこにあると言うのか。


この状況では、少年の親でもなく事情も知らぬ通りすがりのサラリーマンにはそんな義務もない。


どこで入れ知恵をされたのかは分からんが、ネット辺りで拾った悪知恵かも知らんが、実にくだらん戯言だ。


「はあ……」


赤島出姫織あかしまできおりも当然、呆れ顔である。


なので、もう一度心臓を止めてやった。


「う…え? あ…が……」


少年の顔色はまたも一瞬で尋常じゃない色になり、地面へと突っ伏した。


「ひ…い……っ?」


気弱そうなサラリーマンは異様な状況に小便さえちびりそうになりながら、やっとの思いでその場を立ち去る。


なるほど本当に困っている状態にはなったものの、恐喝の加害者を助けようとするようなお人好しもそうそういないだろうし、こうなるのも当然だな。


地面に突っ伏した少年の脳はデタラメに情報を探り、必死で生き残る術を探した。が、当然、そんなものは見つからず、ただただ<走馬灯>と呼ばれるものを映し出したに過ぎなかった。


しかしこいつの記憶もロクなものがない。こんなロクでもない人間に育つのも無理はないという内容だった。


赤島出姫織にはそこまでは見えていなかったが、本当に命を奪うつもりはなかったので、完全に事切れる前に心臓を再び動かしてやる。


非常に地味でカタルシスもないが、人間相手には極めて効果的なやり口だな。


むしろ私よりもよっぽど邪神的な陰険さではある。


やられた方はさぞ恐ろしかろう。


ほんの数時間の間に二度も死にかけた少年は、さすがに自分の体に何か恐ろしい異変が起こっているのでは?と感じ、うずくまったまましばらく身動きも取れなかった。


それを通りがかった者達が訝し気に僅かに視線を向けるものの、いかにも不良然とした身なりのそいつの身を案じてくれる者はおらず、厄介事に巻き込まれるのはごめんだとばかりに見て見ぬふりでただ通り過ぎていく。


これが普通の格好をした普通の子供であれば、確かに誰か一人くらいは手を差し伸べてくれただろうにな。


それがないのは、こいつが<見ず知らずの相手でも手を差し伸べたくなるような子供のなり>をしてないからだし、そんななりを選んだのは他でもないこいつ自身だ。


見た目で人間を判断するなとはよく言われるものの、素直に助けなければと思えるかそうでないかくらいの差がある程度のことは、さすがにあって当然じゃなかろうか。


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