食事
『アリーネさんは頼れない…あの怪物は信用できない……私がみほちゃん達を守らなきゃ……!』
今、綾乃の思考の大部分を占めているのはそれだった。加えて、今回の被害がいったいどこまでになるのか、世界はどうなってしまうのか、そういう諸々が絶え間なく頭をよぎり、彼女を
それが寝付きを悪くし、眠りそのものも浅くした。ちょっとした物音で目が覚めてしまい、一度目が覚めるとなかなか眠れない。
実質、二時間か三時間くらいしか眠れていなかっただろう。
まだ若いから少々そういうことが続いたとしても大丈夫かもしれないけれど、長くなればさすがに深刻な影響も出てくるに違いない。
黒い獣も、彼女の異変には気付いていた。気付いていながらも自分には何もできないと考えていた。
病院跡に行けば、もしかしたら睡眠導入剤くらいは手に入れられるかも知れない。しかし彼女は自分が持ってきたそれを決して飲もうとはしないと容易く想像できた。食べ物すら、パッケージが破れた物、既に開封されていた物は決して口にしなかったし、みほちゃん達にも与えようとしなかったくらいだから。
『どうすればいいんだ……』
黒い獣は、少し離れたところから、彼女達の様子を、赤い瞳で見守っていた。
そこには、以前には見せていた悲しそうな光は既に見えない。感情と言えるものが失われていってるのがそこからも分かる。
もう、彼は
それでも、綾乃達を守りたいという欲求だけは健在だったらしい。
彼は、つい、と視線を逸らし身を翻して、自らが拾い集めてきた資材を使ってマンホールの上に作った<トイレ>を開けて、触角を器用に使って掃除した。別にトイレ掃除を頼まれた訳ではなかったが、自主的にそうしただけだった。
もっともそれは、手作りのトイレだから上手く扱わないと壊れてしまうというのもあったらしい。
掃除を終えた後、別のマンホールの蓋を開けて、風呂の残り湯をそこから流した。トイレの下に溜まったものを押し流すためだった。
下水道も一部が破損していて処理場までは流れないものの、少なくともそのままにしておくよりはマシだろうと考えて。
それから、バスタブを風呂場のテントに戻して新しい水を張る。湯を沸かすのはもう少し後になるのでそのままにして、彼はスッと公園からいなくなった。
かと思うと、公園から五分ほど歩いたところに彼はいた。何かを食べているようだった。
その黒い獣が食べているモノ……
それは、およそ人間の形はしていなかったが、明らかに人間の遺体と思われるものだった。
彼は、人間の遺体を貪っていたのだ。
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