対になる存在
とまあ、こうして今回の件は終わりを告げた訳だが、これではいろいろ納得できん人間も多いだろうな。
『結局あの世界は何だったんだ?』
とか、
『あの二人はどうなったんだ?』
とか、
『屋敷のすべてを探索してないんじゃないか? それでゲームクリアってどうなんだ?』
とかな。
今回の件を仕組んだのが誰かということも判明しとらんし。
だが、人間共は勘違いしている。そんな人間共の『何故?』に我々<超越者>が親切に応える訳がなかろうが。我らは<理不尽>であり<不条理>であり<不可解>なものなのだ。
もし人間の手で何か<明確な答え>が得られたのであれば、それは意図的に掴まされた、<用意された答え>だろう。そのようなものを掴まされて満足してるようでは、まだまだだな。
なにしろ、その奥にさらに別の答えが潜んでいるだろうし。
故に、
『明確な答えは何もない』
のが、むしろ自然なのだ。
そんな訳で、今回の件は、これでもう終わりだ。
ただ、いくつか分かっていることがあるから教えておいてやる。
私と入れ替わっていたゴキブリは結局、日守こよみの体を動かすことができずに、いや、そもそも目覚めることすらできずに、ただ眠っていたということと、あの<地球>は、やはりこちらの地球と同時にこの世界に存在している、<別の地球>であったということを。
と言っても、そちらとの距離は、人間の力では物理的に辿り着けないほど離れていて、観測すら不可能な位置にあるがな。
例の<魔法使いの惑星>よりも、距離という意味ではさらに遠い。
物理的な距離など意味がない私(クォ=ヨ=ムイ)が、自らが存在していた痕跡を辿ればこそ知覚できたものだ。
あの男と小娘は、変わらずあの屋敷で淡々と毎日を送っているようである。
まあ、人間の一生など私から見れば一瞬だ。その短い一生を、共に依存しあって生きればいい。
なお、日守こよみとしては、呼吸や鼓動は正常なもののまったく目覚める気配がなかったことで、山下沙奈が私と自分の法律上の<後見人>である弁護士に連絡、病院に救急搬送されたが、身体的にはまったく異常がなく、ただ眠っているだけと診断され、一ヶ月の期限付きではあるが入院することになったそうだ。
いやはや、迷惑をかけてしまったな。
というわけで、山下沙奈にはお詫びも兼ねてたっぷりと抱き締めてやった。
しかも、私がいない生活がよほどこたえたのか、ついにトラウマよりも自身の欲求が上回ったらしく、
「一緒にお風呂に入ってもいいですか…?」
と自ら訊いてきおった。
「ああ、もちろん」
で、一緒に風呂に入って気付いたのだ。
『あの男と小娘は、あちらの地球における<日守こよみ>、いや、<月城こよみ>と<山下沙奈>であった可能性があるな……』
姿形はおろか性別まで違っていたりしたものの、地球が全球凍結するほどの差異が生じていたのだ。私達と対になる存在にその程度の差異が生じていたところで何の不思議もあるまい。
とはいえ、あの男は<人間として生まれたクォ=ヨ=ムイ>ではなかったし、小娘の方も山下沙奈のような<特異点>ではなかったがな。
あくまで単純に、
<人間として対になる存在>ということだ。
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