食料の確保
コードと床の隙間を通り抜け部屋に入り込むと、そこはやはり変電および配電用のシステムのようだった。
しかも設備そのものが熱を発しているので、暖房は行われていないようだが若干温かい。
このゴキブリの体には都合がよかった。
が、他にも都合がよかった奴がいるようだ。
この部屋に入った瞬間に気配と匂いを察知していたのだがどうやら<先客>がいるらしい。
私が現れた途端にあちらも察知したのか、明らかに接近してくる。
明かりは点けられていないので、計器類のパイロットランプくらいしか光はないものの、私には見える。
ゴキブリに比べると明らかに巨大な影。
いや、ゴキブリから見れば、まぎれもなく恐ろしい<怪物>だな。
ネズミだ。大きさ的にはせいぜいハツカネズミ程度ではあるようだが、それでもゴキブリから見れば十分に大きく、そして脅威である。
なにしろ天敵の一つだし。
さすがに相手が悪い。ここは逃げるが勝ちだ。
私は全速でその場を離脱し、機械の隙間に逃げ込んだ。
まったく、こうして逃げ回らなければいけないというのは本当に業腹極まりない。
ゴキブリは通れてもネズミは鼻先しか入らない隙間にもぐりこんだことで、奴は鼻先を捻じ込むもののおよそどうにもならない。
「ジィッ! ジィッッ!!」
という忌々し気な鳴き声だけが届いてくる。
とはいえ、変に侮って油断するとまたロクでもないことになりそうなので、からかってやりたくなるのを我慢して、私はさらに奥へと進んだ。
そのまま隙間を移動して、機械の上部に出る。そこにはネズミの毛や糞などが落ちていた。奴らもここを通るのだろう。しかも機械が熱を発していて温かい。
取り敢えずネズミの気配は近くにはないので、毛や糞を片っ端からもりもりと食った。
人間であればいくら自分がゴキブリになっていてもネズミの糞など食えんだろうが、私には関係ない。
糞などに含まれる菌などは人間には有害でもゴキブリには関係ないということが、私には感覚的に分かる。
人間の思う不潔や清潔など、私にはまったくどうでもいいことなのだ。
肉体の持つ感覚に影響を受けるから日守こよみの体でいる時にはもちろん避けるがな。
とにかくせっかくのチャンスなのだ。今のうちにしっかりとエネルギー補給をさせてもらうとしよう。加えて、今後の食料の確保だ。
ネズミの糞を頭で押して、機械の隙間へと落とす。こうしておけば、今後も安全にエネルギー補給ができる。
もちろん他の場所でも食料探しはするが、念の為だ。
とにかくこれで少しは余裕もできただろう。
そして私は、再び探索へと戻った。取り敢えずはこの部屋をさらに探索する。
なにしろこの部屋は情報の宝庫だ。どういうシステムで動いている機械なのかを見るだけでもかなりのことが分かるからな。
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