生命力
「む…ぬ……?」
私は、自分の体がゆっくりと浮かび上がるような感覚の中にいた、眠りから覚醒する時のあれだ。
さて、地球はどうなっているかなあ……
などと思いながら周囲に意識を向けると、そこはあの物置の中のままだった。しかも私の体もゴキブリのそれのままだ。
「どうやら辛うじて死は免れたらしいな……」
言いつつさらに周囲を窺うと、私の背後に小さな黒い塊が落ちていた。
糞だ。ゴキブリの。と言うか、私の。
食べた欠片が小さかったことで、ギリギリ致死量ではなかったのだろう。それに加えてゴキブリの体が驚異の生命力を発揮し、取り込んだ毒を糞として排出したのだろうな。それによって私は辛くも生き延びたのだ。
「まったく……危うくすべてを御破算にするところだったな」
この体が死ねば果たしてどうなるのかは実のところ分からない。もしかすると日守こよみの体に戻るだけだったのかもしれん。
しかしそうじゃなく、<本来のクォ=ヨ=ムイ>に戻ってしまってはそれこそお終いだったかもな。
とは言え、それはこうして回避されたのだ。運が良かったと感謝しろ。
こんなことでクォ=ヨ=ムイは死なんし痛くも痒くもないんだが、ここまで見てきた地球が台無しになるのは非常に気分が悪い。
もっともそれさえ、本来の私に戻ってしまえば些細なことだろう。だが、もしこれがショ=クォ=ヨ=ムイの仕業であれば、『私自身が地球を台無しにした』という意味で最高の嫌がらせになる。それをもし狙っていたのだとすれば、相変わらず最高に性格が捩じくれているな。
さすがは私。
が、それは今はいい。いずれ機を見てまとめてお返ししてやる。
どれくらい気を失ってたかは分からんが、取り敢えず生きているなら探索を続けよう。
私はこのくらいでは懲りないからな。
とにかく先ほど見付けた隙間まで戻り、慎重に気配を探りながら中へと潜り込む。
するとそこは、断熱材がみっちりと詰まった、ゴキブリの体から見ても少々手狭にも感じる空間だった。
まあ、ゴキブリ自身は狭いところが好きなので気にはならんだろうが。
断熱材と構造材の間の僅かな隙間を潜り抜け、私はさらに奥へと進んだ。すると、どうやら床下に抜けたらしい。少し広い空間へと出た。
しかし、一般的な建築物であれば、床下は湿気が溜まらないようにする為にもっと広い空間を取り、風通しを良くしそうなものなのだが、この屋敷のそれは、わざとそうしているのか非常に小さな空間しかなかった。その殆どを、断熱材と思しきものが満たしているのだ。
明らかに、換気よりも断熱を優先していると見られる構造なのであった。
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