加見淵緒琥羅の我儘
などという騒動があった少し前、一組のカップルが言い争いをしていた。
二人ともそれこそ<今時の中学生のカップル>といった風情だった。
「なんでいっつもいっつも遅刻すんの!? 七時三十分に駅にって言ったよね!?」
「あ? せっかくの冬休みにこんな早くから待ち合わせとかやってられるかよ!」
「は? 休みだから早く起きれるんでしょ! 今からじゃなきゃいい席取れないじゃない!」
「知るかよ! ライブとか一人で行けよ! 中二にもなって、子供じゃねーんだからよ!」
「私に<ショコラベイブ>のこと教えてくれたのアっくんじゃん! だからアっくんと一緒に行きたいっていう
「知らねーよ! なんでそんなの分かんなきゃいけねーんだよ! だいたい俺は、お前の名前と同じバンドがあるぜって言っただけじゃんか! 誰も追っかけしろとか言ってねー!」
などと、実に稚拙で不毛な言い合いだった。
ちなみに余談ではあるが、この二人が通っているのは公立の中学校で既に冬休みに入っているものの、ハイヤーで送られていた少女が通っていた私立の一貫校は今日が終業式だった。
とは言え、それは本当に今回の話とはまったく関係のないことなので、脇に置く。
とにかく二人は、今日の夕方から隣の県のコンサートホールで行われる<ショコラベイブ>というバンドのライブに行く行かないで揉めているという状態なのだった。
「アっくんのバカ! もう知らない!」
埒が明かないとキレてしまい、そう言って少女は駅へと入っていってしまった。
「あーあー、勝手にしろ!」
少年の方もそう吐き捨てて踵を返し、その場を立ち去ってしまう。
どうやら家に帰るつもりらしい。
が、ケンカ別れのようにそれぞれ別行動となってしまった二人だが、この程度のケンカはいつものことなので、おそらく少女がライブから帰ってきた頃にはまたこの時のことなど忘れ、またイチャイチャとするのだろうが。
少女の名前は<
蝶よ花よと大切にされたのが少々過剰だったのか、彼女はやや我儘な性格に育っていたようだ。他人が自分の思う通りに振る舞ってくれるのが当然と考えるようになっていたらしい。
だからそうじゃないと癇癪を起してしまい、今回のように相手にきつく当たってしまう。
相手の少年も、彼女の我儘を完全には受け止め切れないので、彼女がきつい物言いをするとつい言い返してしまうのだ。
だが、基本的には彼女に対して甘いので、結局は許してしまうのがいつものパターンなのである。
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