クリア
通常は防御役の私だが、攻防一体化したこの攻撃は、一回しか使えないものの、対ボス用の必殺攻撃だった。
と言うか、ザコ相手に使うと一撃で終わるので私だけが経験値を獲得してしまうという、初心者向けのお助けユニットだったのだ。
しかし今はもうそんなことはどうでもいいからな。
これでボスの方も大きくHPが削れたはずだ。
ボスが怯んでいるうちに玖島楓恋が私達に回復をかけ、月城こよみがボスに必殺攻撃のラッシュをかける。
ボスもなお反撃し、再び私達のHPが大きく失われるが、もうこれで大丈夫。勝ち確だ。
私の一撃で大きくHPを削ったことで、こちらがやられる前に倒しきれた。
「ぐぅおおおおおおおお!」
断末魔の声を上げながら身をよじり、ボスの姿は消滅した。
と、それと同時に私達の姿も元に戻る。
よし、クリアだ。めでたしめでたし。
「終わりなの? ああよかった」
玖島楓恋が月城こよみの方を見てホッとしたように言う。私の方は見させない。
「ああ、これで終わりだ。お前達は先に戻っておけ。私はこの指し棒を職員室に届けてから戻る」
そう声を掛けつつ、月城こよみに目配せする。玖島楓恋を連れて行けという意味だ。
二人が立ち去り、一人になった教室で、私は言った。
「さて、余興も終わったことだし、本題に入ろうか?」
その瞬間、ふわりとした気配が私の背後に立ち上がる。
ボスとして倒されたはずの女子生徒が、再び、そこに立っていた。暗い穴ぼこになった目を私に向けながら。
<スーパーケモケモ大戦ブラックΣ>はクリアしたが、こいつの意識はそれだけではなかった。体当たり攻撃を加えた際にこいつの意識が私に流れ込んできて、全てを察してしまった。
二重構造になっていたのだ。まあ、悩みや惑いというやつは複数が同時に存在することも珍しくないということだな。そしてこちらの方がより深い位置にあったのだろう。
「なんだその目は? そんなに現実を見るのが嫌か? お前の想い人がお前をいいように利用していただけの下衆だったことを見たくないか?
だが今時、生徒に手を出すクズ教師など珍しくもあるまい。それに、中学生ともなれば男女のその辺のことくらいは多少は分かるだろうが。にも拘らず一方的に被害者面か?」
「……」
女子生徒は応えない。だから私は勝手に続けた。預かった指し棒を掲げる。
「この指し棒には、私も見覚えがある。数学の教科担任のものだ」
何の変哲もないごくありふれた量産品の指し棒だが、私の目には細かい傷まで見えるからな。授業中、暇だったからその傷の位置を覚えていたのだ。それにわざわざ指し棒まで使う教師も少数派だ。
「!」
私の指摘に明らかに動揺する気配が伝わってきたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます