愛ゆえに… その1
入学式の日、初めてあなたに会った時から惹かれていた。
整った顔立ちも素敵だけど、それ以上に、つい先日まで小学生だったとは思えないくらいに優しくて気遣いができるところが素敵だった。
「こんにちは。よろしくね」
小学校の時、いくら同じクラスだからって、席が隣同士だからって、女子に対してこんな風に挨拶できる男子なんていなかった。だから私はあなたのことが好きになった。
だけど彼は、家庭の事情でいろいろ問題を抱えてたらしくて、毎日、お弁当じゃなくて惣菜パンを持ってきてたりしてた。
だから私は、彼の為に自分でお弁当を作ってきてあげた。お母さんに、
「今日から、お弁当は自分で作る」
って言って。
そして今日も、彼の為に朝の六時前に起きて作ったお弁当を差し出す。
「いつもありがとう。感謝してる」
って彼は笑ってくれた。
なのに、そんな私と彼の間に余計なのが割り込んできた。
隣のクラスの、いかにも女子女子した可愛い可愛いっていう、あざとさが強烈に鼻につく女だった。
本来なら私がいる筈の彼の傍にまで、その女はぬけぬけと居座ってた。しかも、お弁当まで差し出して。
彼は笑顔でそれを受け取るけど、私には分かってるよ。その女がしつこいから仕方なく受け取ってあげてるだけなんだって。
いかにも媚びまくってる猫のキャラ弁なんて、中学生男子の彼がありがたがる訳がない。
「伊藤君。大変だね。あなたが優しいから勘違いする女の子もいて」
そう言う私に彼は、
「あはは、そうかもね」
って、すまなさそうに苦笑いを浮かべる。彼が本当は困ってるんだっていうのがすごく分かった。
なのにその女は、毎日彼にまとわりついて、鼻にかかった媚びた声で話しかけたりもした。ものすごく耳障りな声だった。それが聞こえてくるたびに、私の心の中で何かがギリギリときしむ。
本当にイライラさせられて、やっと治ってた筈の爪を噛む癖がまたぶり返してきてしまった。子供の頃から両親に何度も注意されても怒鳴られても叩かれてでもやめられなかった<癖>。
六年生に上がる直前、あることをきっかけにそれは収まった。私の中にある<あれ>に気付いてそのおかげで自信がついてイライラすることが減ってきて、たぶんそのおかげで治ったんだと思う。
それなのに、あの女の所為で。
どうしてくれよう。あのクソ女。彼が気遣ってはっきり言わないからって、彼のそういう優しさを大切にしたい私が何も言わないからって。
『本当に、調子に乗りすぎ』
そして夏休み前、私は彼に付きまとうあの女を追い払う為に、決意した。
私に秘められていた<力>を今こそ使う時だって。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます