6-3【せめてここを使わないと、な】

 ☆ギャンブラー


「パペッター……か」


 ラスボスと言うべきか。それとも黒幕と言うべきか——パペッターは突如自分たちの前に現れた。彼女を倒さない限りは、この世界から出る術はないという。


 そうなのだろう。今までジョーカーを倒せば良いと思っていたために、少しだけ気が抜けている自分がいる。


 しかし、切り替えないといけない。ここからが勝負なのだから——死にたくはないのだから。


「……しかし……戦える者は……ファイターのみ……!」


 ファイターが弱い。と言うことではない。あのジョーカーを相手にして膝をつかないことから、彼女の戦闘力の高さは簡単にわかる。


 しかし今の彼女にはためらいがある。躊躇がある——本当にパペッター相手に、さっきまで味方だったものを相手にしていいのか?と言う疑問が。


 セイバーと戦ってはいるが、時期に彼女のが負けることは目に見えている。ならば早くなんとかしなければならない。


「……ギャンブラー。きみは、頭はいい方か?」

「……残念ながら……私は小卒……!!」


 こんなところで恥ずかしい過去なんてバラしたくなかった。けれどガードナーはその言葉を聞き、首を横にふる。そして改めて口を開けた。


「頭の回転ははやいほうか?」

「……まぁ、少しは」

「ならばよし。僕らは戦うことはできないからな……せめてここを使わないと、な。生きてる意味がない」


 ガードナーは自分の頭を指差してそう言う。つまり頭を使って、戦えと言うことか。なるほど、確かにそれしか選択肢がなさそうだ。


 カチャリ。ガンナーの銃に触れてみる。冷たい感触が手の中に広がっていき、少しだけ心が落ち着いた。


「……まず、議論を始めていこう。あぁ、大丈夫。キミの頭のレベルに合わせてやる」

「……バカにしてるか……?」

「はっ。むしろ僕に対等に見られると思っているのか?そのおめでたい頭は、早く取り替えた方がいいぞ」

「いや何……ふふっ。そう言う感じが、まさしくお前らしいのか」

「何がわかる?」

「さぁね……ただお生憎様、人間の心を読むのは多少慣れてる……ということさ」

「はっ!無駄口を叩く暇があるなら、知恵を絞れ!そして答えを出せ。パペッターのスキルの秘密にな」


 こんなところで終わるわけにはいかない。お互いの共通の考えを確かめた二人は互いに頷きあう。


 二人の答えは、結局仮説の域を出ないだろう。しかし彼女たちは、探すのだ。自分ができる最善の選択肢は、それなのだから——


 ◇◇◇◇◇


 ☆ファイター


(セイバー……正気に戻らないのか……!!)


 セイバーと対峙しているファイターは、いまだにあれ以降一撃を打ち込まずにいた。近くにいるアーチャーに格好悪い姿は見せたくないのに。


 未だにファイターはセイバーが正気に戻ってくれることを期待していた。あの時みたいに、キスでもしたら元に戻るのだろうか。


 しかしたとえ元に戻るとしても、キスはしたくなかった。何か他の手を考えたいところだが——


 しかしその間にとセイバーの攻撃の手は止むことはなく。次第に防御に回っている自身の腕から血が飛び散り、だんだんと痺れが来ていることに気づく。


 このままではやられる。覚悟を決めろ。俺……兄ならきっとここで逃げ出したりなんか、しない。


「はぁ!!」


 セイバーの肩に拳を叩き込む。こぎりと音がなり、セイバーの上体が右に少しずれた。そのまま、ファイターはセイバーの腰に回し蹴りを打ち込んだ。


 セイバーは吹き飛ぶが、剣を支えにして耐える。そうされる予想はつけていたファイターは一瞬で間合いを詰めて、セイバーを殴り飛ばした。


 ……いつも以上に手が痛む。まだ、割り切れてないからだろうか。ここは殺し合い。気を抜いたら死ぬのは、わかりきっているのに。


「……行くぞ、セイバー。次は全力の一撃を——!」


 拳に力を込める。そして、走り出す。地面を蹴り、そのままセイバーに向かって拳をつき出そうとした。


 その時だった。


「た、助けて……!」

「……なぁっ」


 ファイターの一撃はセイバーから逸れて空を壊すことだけにとどまった。確かに聞こえたセイバーの声。もしや正気に戻ったのだろうか。


「……ばーか」


 パペッターの声が聞こえた。声を返そうとした瞬間、彼女の体はまるで縄に縛られているかのように動けなくなった。


「な、く……離せ!」

「無理ですよ。離したら、死にますもん」

「セイバー……!お前は正気に戻ったのだろう!?」

「なわけ。セイバーさん、もうやってくださ——」


 その言葉ともにパペッターは後ろに大きく飛んだ。すると、ファイターの体の周りには薄い結界のようなものが貼られていた。


「これは……」

「気を抜くな、ファイター」


 声が聞こえてきた。これは正真正銘……自分の味方の声が。


「……一つ、頼みがある。ファイター」

「頼み……?」

「あぁ、危険だが……これしか勝てる道がないんだ」


 ガードナーはそう言って、ファイターに耳打ちをした。その言葉の意味を理解するのに時間はかからなかったが、なぜこうするという疑問は湧いてきた。


 けれど、これしか勝てる道はないだろう。ファイターは手を握り、また開き。それを繰り返して、目を瞑る。


 イメージ。勝利への布石を頭の中に撒いていく。そして、目を開けて、ゆっくりと頷いたのだった。

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