1-12【黙祷だけで許してや】
☆ブースター
「ついたで。ここが、ガースー黒光り病院や」
「…………」
「突っ込んでくれへん?なぁ、なぁ!?」
ブースターはゆっくりと病院の前に降り立つ。そしてセイバーを背負いながら、中に入っていく。
病院の中はある意味予想通り。見たことはあるが使い方がわからない機材ばかりだが、とりあえず包帯などは見つかる。
そして薬棚の中には明らかに毒薬であろうものと、明らかに治療薬であろうものが、置いてある。毒薬を見た後ブースターは、それをとりあえずゴミ箱に投げ捨てる。
「おっ、ベッドあるやん。寝かせるから痛かったら言ってや」
「…………」
「お姉さんどこまで無口キャラ通すねん。そろそろ礼の一言くらいくれてもええやろ」
「…………」
「はぁ。ま、ええわ。うちのスキルで空飛べるけど、これかなりきついねん。なんか、食べ物みたいなのあるか探すわ……って、ん……?」
その時、外から騒ぎ声が聞こえてきた。ゆっくりと病院から顔を出すと、どこか遠くから声が聞こえてきた。
【みんなー!私、シンガーだよー!】
………………
「ひどい……」
シンガーの処刑の様子は、言葉だけでしか聞き取れなかったが、それでも悲惨極まるものであった。
一瞬、考える。もしかしたら、シンガーより先にブースターとセイバーが死ぬ可能性があったのだ。
「シンガーはんには悪いけど、黙祷だけで許してや」
死んだシンガーのことを考えると、その場までいって埋葬などをする方がいいだろう。しかし、ブースターだって死ぬわけにはいかないのだ。敵がいるかもしれないところには、いけない。
そう考えると、この病院も危険かもしれない。怪我をした人を狙うものが出てきてもおかしくないのだから。
「セイバーには酷な話やけど……怪我が治ったら、早めにここをでらなあかんな」
ブースターは病院の中に入ろうとした。その時だ、草木を掻き分けて、一人の少女がブースターの前に転がりこんでくる。
「っ!?な、なんや自分!?」
「あぁ……ようやく人に会えました……!!」
修道服を着た少女は顔を涙でぐしゃぐしゃにしながら、こちらに駆け寄って着てブースターの手を握る。
「私、キャスターと言います……よろしければ、少しお話ししません?」
◇◇◇◇◇
☆ファイター
「シンガーが死んだ、か……」
ファイターはそう呟き、目をゆっくりと閉じて両手を合わせる。そして湧いてくる後悔。もしシンガーが強者だったらと考えて、自分にイラつき舌打ちをする。
確かに自分は強いものと戦いたい。が、そこまで堕ちたつもりはない。拳を握り、息を整える。
この商店街。たまにいる黒い怪物を倒し、美味しい飴を回収するだけだ。店には食料などは置いてはあるが。
ファイターは料理など作れない。カロリーメイトにかぶりつきながら、道を歩く。このままここに居続けるのは、あまりにも進展がないだろう。
誰かに会えるか。そして、このままどうしようかと思いながら、彼女はふと足を止め、後ろを振り向く。
そこにはもちろん誰も居ない。が、ファイターはスンスン鼻を動かしてニヤリと笑う。なにか嬉しいことを見つけたように彼女は、少しだけ気分を上げて歩き出した。
「血の匂いは簡単には消えんからな……」
彼女のつぶやきは風に乗って飛んでいく。この声は誰かに届くのだろうか。そんなことは、この言葉にしか、わからなかった。
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