第二話「準備」

 旅行というものには、準備がつき物ではあるのだが、正直言って面倒なので僕は好きじゃあない。あとのことを考えれば圧倒的に今少し苦労しておいてそのあとパーッと遊ぶってのが一番ではあるのだろうが、どうしても面倒だ。

 とはいえ、一度決まったことに文句を言うのもどうかと思うというのもあるので、しっかりと、準備は済ませておきたいところだ。

『八野君、何もって行く~?』

鳥海さんから連絡が入った。

『うーん、必要最低限の予定だけど、一応なんか計画表に「肝試し」とかいう不穏な文字列があったから、懐中電灯とか持っていこうかな、とは思ってる。』

これでいいや。

 肝試し、杉原のことだから男女で組んでワーキャーする気だろう。一人余るが、まあ、その人はお疲れ様でしたということで。

 かつての僕ならばその枠に入りたいと願ったことだろう。しかし、今、僕は一人とか恋愛とかそういうのじゃなくて、怖いものが無理、というそれに尽きる。

 あんまり遊んでなかったもんだから、すっかり忘れていたのだが、僕は怖いものが苦手だった。それは今も変わらない。そういえば、といった感じで、この間思い出した。

 案外何もないと自分のことも覚えていないものなんだな、なんてのんきに考えてはいたが、これは結構重症なんじゃなかろうか。

 とりあえず、神社だかなんだか知らないが、とりあえず懐中電灯があればいいだろうか。

 あとは、何か芸の一つでも持っていったほうがいいだろうか。落語くらいならできるかもしれない。高座用の扇子が何故かあるのと、手ぬぐいもあるな。よし、時そばでも覚えていくか。


* * *


 優一くんはどうやら、怖いものが苦手らしい。ここで上手いこと杉原に細工をさせて、そして…ふふふ…。

 というか、肝試しって懐中電灯使うものだっけか。なんだろう、んん…。いや、でも使わないと前も見えないしあぶないのか。

 そういえば、肝試しとは言うものの、どこでやるのだろうか。肝試しの金字塔といえば神社だが、行く予定の場所の近くに神社なんてあるのだろうか。あるなら、恋愛成就のお守りでも買おうかな。


* * *


 そういえば、そういえばだ。ちゃっかり海に行くなんて表記がなされている。水着が、水着が、あった。よかった。

 適当に着てみたのだが、まあまあ着れそうなので鞄に突っ込む。

 着替え、水着、あと金が必要なのか。

 土産もどうやら売っているようなので、まあ余裕を持った額を持っていくとしよう。

 が、しかしだ。余裕があるといって調子に乗って沢山買おうとしてほとんど買えなかったなんてことが昔あった。もう少し余裕に余裕を持たせるくらいで…。

 旅行なんていうと、本当に自分が必要なものを全部持ったのか、とても不安になるものだ。

 不安になって、結局どうってことはないのだが、万が一何か重要なものを忘れているかもしれないと考えると胃が痛くなってくる。


* * *


 水着…。水着…。ああ、少し憂鬱だ…。

 たしかに、たしかに、結構前だが、優一くんがアクシデントで私の胸を触ったことはある。でも、でもだよ。だからといって形を見られるとかそういうこととはまた違うんじゃ…。小さいというのは前提条件で…。

 考えると憂鬱だ…。あきらめて適当にあんまり形の見えなそうな奴を…。


* * *


 なんとか準備が終了し、無事床に就くことができた。計画表には、駅に4時集合なんて書いてある。そう考えると、全然なる時間ないじゃないか。

 誰か、モーニングコールでもしてくれないものだろうか。

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