18-9 時は決着へと向かう
リベールを埋葬した場所に大剣を突き立て、一つ礼をしてからレオが飛び立つ。
向かった先にリーナが空を見上げて待っていた。
「お疲れ様。何だか良い戦いだったみたいね、スッキリした良い顔を顔してるわよ」
ニンマリと言った笑顔でこちらを出迎える。
「そんな顔してるかな?……でも確かに良い戦いだった、リベールの全力に僕も全力で戦えた。あの湖畔での戦いで僕に対して言った「負けるな」って言葉に、ようやく応えられた気がする」
最期のリベールの言葉を思い返しながら、自分が打ち倒し、託された思いを熱い拳に握り締めた。
「そう、それは良かったわ。それで、とりあえずリョウを運びたいから手伝って頂戴。死にはしないけど、ちゃんとベッドの上で寝かせてやらないとね」
レオとリベールの間に何があったのか、イマイチ良く分かっていないリーナがちょっと適当に相槌を打ってリョウの元へと歩いていく。
「うん、リョウも大変だったみたいだし、早く休めるところに移動しよう……それと」
レオもそれに付いて行こうとしたが、一つ気になる事があった。
「イヴァンってどうなったのかな?」
その言葉にリーナの足が止まる。
「……そうね、リョウが倒したみたいだけど、夜が明けたら探しに行きましょうか。色々と酷い事をしたけど、それでも最後位は村に帰してあげないとね」
「うん、うん……」
変わり果てて敵となった嘗ての友人の事を思いながら、二人は並び歩き手を繋いだ。
その後一同は飛空艇が機竜と共に沈んでしまったこともあり、近くの村へと泊めてもらう事になった。
もっとも村はそれ程大きい物ではない為、軍の人たちの大多数は村の近くに野営している。
涼は村に着いてもその日は目を覚まさなかった。
日が昇り、魔神が降り立ったイザレスの情報が入ってくる。
現在魔神は神の塔があった場所に謎の黒い空間を作り出して陣取っており、そこから動く気配が無いそうだ。
何をしているのか不気味ではあるけれど、涼が起きない事には空間転移も出来ない。
なので渡航手段の確保の間に、イヴァンの捜索を軍の人に手伝って貰い行った。
イヴァンは一人荒れた山に倒れていた。
彼を見つけるまでは何か伝えておこうと思っていたけど、実際に物言わぬ遺体を見ると何も言葉として出てこない。
リベールとの戦いと違い、彼が何を思いこんな戦いを行ったのか理解も出来なかった。
ただ、その顔に最期まで浮かんでた表情を見れば、僕に対してどんな感情を抱いていたのか、それだけは理解出来た。
「レオは悪くない、絶対に悪くない」
リーナが僕の手を握りそう言ってくれる。
何が、何に対して悪かったのだろう。
もしも、僕が力を持っていた事がそうなのだとしたら、この力で世界を救う事が報いる事になるのだろうか……
イヴァンの遺体は軍の人に村へと帰してもらう事になった。
それを見送った次の日、僕達はイザレスへの移動準備が整ったので船へと乗り込んでいく。
船もまた大きい物ではないので乗るのは僕達と、バルトロさん達やアンセルムさん等の現場に急ぎ向かう必要がある人達だ。
「あー……リョウが起きてれば乗る必要なんてなかったのに」
これから二日間の船旅に案の定リーナがげっそりしていた。
「嫌ならロンザリアに任せてくれれば~、良い夢を見せてあげるよ~?」
「うー……いや、アンタに任せると碌な事無さそうだから止めとく」
「え~、遠慮しなくて良いのに~」
べったりとくっ付いてくるロンザリアをリーナが引き剥がす。
「あ~もういいったら。ほら、レオは一緒に来てアタシの看病しなさい」
まだ元気な状態でそう言われ、僕は船室に引っ張られた。
その後の海の道中は特に何も起きなかったが、涼は起きては高熱を出してまた倒れるというのを何度も繰り返していた。
愛莉ちゃんが話してくれた涼の力の代償は、その体に重く圧し掛かっている。
エイミーが回復を続け、アンナさん達が愛莉ちゃんの協力を受けて、未だに安定しない涼の魔力を正常な状態に戻そうと努力しているが、涼が元気になるまではもうしばらく掛かるだろう。
船は無事にイザレスへと着き、無事な姿の都市サンロメアへと向かった。
新たな脅威である魔神の襲来により恐怖に怯えていた都市の人々は、僕達の到着で少しだけ活気を取り戻していた。
勇者が魔神の作り出した途方も無く巨大な機械の竜を打ち倒した情報もまた、人々を勇気付けている。
多分それは他の国の人達もそうなのだろう。
彼が伝え皆が広めた勇者の名は、混迷渦巻くこの世界に文字通り勇気を与えていた、
涼はエイミー達と一緒に宿に残し、僕達は魔神が居る場所へと向かう。
天に届くほどの大きさの桜が咲いていた綺麗な場所は、黒く異質なドーム状の空間が広がっていた。
「これって呪いの影響下なのかな?」
それを見て最初に思ったのは、夜が広がる呪いの空間だった。
「それとは違うでしょ、あれと違って暗い所か真っ黒だし」
が、あっさり否定されてしまう。
「ふーむ」とアンセルムが髭を撫でて空間を杖で突いてみる。
すると特に問題は無さそうに杖は通り抜けた。
杖になんの変化が無い事を確かめてから、アンセルムが袖を捲くって手を空間に突っ込もうとする。
「ぐぬぬぬぬ……」
しかし、手は何かの力に押し戻されて阻まれてしまった。
「……かーっ、なんじゃこの空間は?ワシらを入れないつもりか」
「これが何かの時間稼ぎとすれば厄介ね。無理やり突破するのは難しいだろうし、何か方法を考えないと」
アンナも空間に幾つか魔法を放ったりして調べていく。
皆が調査を始めた横で、特に意味も無く、何となく空間に手を伸ばしてみる。
押し返される感覚ってどんな感じなのだろう?
そんな程度に伸ばした手は簡単に空間を抜けた。
「わわっ!」
慌てて手を引き抜き戻す。
まさかあんな簡単に通れそうになるとは思わなかった。
「え、ちょっと待って、アンタどうやったの?」
調査していたリーナが突き抜けた僕の手と空間を交互に見ながら聞いた。
「どうやったって、普通に?」
そう答えると「ちょっと貸しなさい」とリーナが手を掴み空間に入れてみる。
するとやっぱり簡単に僕の手だけが空間を通った。
「どうなってるの?」
信じられないと言った感じの顔をリーナがしていると、他の人達もこちらに集まってくる。
そして僕の体を使った検証が始まった。
結果としては僕は何の問題も無く空間に入ることが出来るものの、他の人は僕と手を繋ごうが、抱きつこうが、魔力による防壁に守ってもらおうが通れない事が判明した。
空間の向こう側はと言うと、僕が見た限りでは何とも言えない殺風景な世界が広がっていて、記憶にある神の塔周辺とは全くの別物となっている。
「ふむ、という事はこれは異空間を魔神が作り出してる、という事で良いかの?数日でそこまでの破壊をした可能性もあるが」
アンセルムさんが報告の内容を聞いて、一応の結論を出した。
「でもどうしてその空間をレオ君だけが通れるのかしら?」
皆がその理由を考えていると、リーナがその理由らしき物を思い出す。
「そうだ、あれじゃない?アンタって前にもヘレディア様が封印してた空間に入ることが出来たし、今回のも似たような理由で通れたとか」
リーナの言葉にアンナさんもアンセルムさんも成る程と頷いた。
「そうか、レオ君は魔王にこの世界の理を超える存在として作られた。それで私達が通れないと決められた場所も通ることが出来るって訳ね」
「報告書にその様な事は確かに書いてあったの。となるとこれは魔神が見落としていたって事になるか?」
良く分からないけど、兎に角僕は通れると言う事なんだろう。
でも、魔神がそれを見落としていたか……
「なに?なにか気になることがある?」
ちょっと疑問に思った表情にリーナが気付いて聞いてくる。
他二人も何だろうとこちらを見た。
「えっと……これは僕の、何と言うか勘なんですが。魔神が僕が通れるような空間を作らないと思うんです」
「ふむ、その心は?」
「魔神はヘレディア様の力も超えて、この世界の理も越えた力を手に入れたと言ってました。なら、僕も通れない空間だって作れる筈です。……それに、あの空間の向こうにある気配は、何と言うか僕達を待っている感じがしました」
「待っているねぇ……」
アンナさんが腕を指で叩きながら考える。
「そうね、ここは実際に空間に入ってみたレオ君の考えが一番正解に近いと思うわ。でもそうなると魔神はレオ君と、もしかするとリョウ君の二人を待って、ここで決着を付けるつもりって事かしら」
アンナが空間を自分の無力さを恨みながら見上げた。
「全ては二人の勇者任せか……いや、諦めるにはまだ早いの。よし、ワシ等はここでこの空間の調査を引き続き行う、レオ君達は先に宿に戻っておいてくれ。どうなるにせよ、お主には大きな仕事をして貰わねばならんのでな」
アンセルムさんが今後の事も考えそう言ってきたので、それに従う。
「はい、分りました。何かありましたら何時でも呼んで下さい」
「ありがとね、ゆっくり休んできなさい」
他にも調査を行っている人達にも頭を下げ、僕とリーナは宿へと帰っていった。
アンセルムさん達はどうにか一緒に戦う術はないかと知恵を絞ってくれるだろうけど、それはどうしようもないとして終わる気がする。
多分、最後の決着は僕と涼で付ける事になる、そんな気がした。
「ごめんね、力になれそうになくて」
帰りの途中に手を握るリーナがそう謝ってきた。
謝るリーナを抱き締めて、それは違うと答える。
「謝る事じゃないよ、それに力にはなってる。僕はリーナが帰る場所を作ってくれているから戦えるんだ。それがあるから人として、勇者として、僕は僕の戦いが出来る」
抱き締められているリーナが顔を上げた。
「負けちゃ駄目よ」
「大丈夫」
「死んでも駄目よ」
「わかってる」
「ちゃんと帰ってきなさいよ」
「約束する」
紅い瞳に涙が浮かんだリーナが一度顔を俯かせ、顔を上げる。
その口が何かを言おうとする前に「絶対に」と言って、唇を重ねた。
しばらくキスをした後リーナが唇を離し、邪魔され先に言われた言葉を言う。
「絶対だからね」
そう言って今度は向こうからキスをした。
それなりの時間が経った後、僕達は宿へと戻ってきた。
宿の一階は誰も居らず、静かな時間が流れている。
涼はまだ起きられないのだろうか?
そんな事を思い、心配していると。
二階の部屋から下の階まで聞こえるほどの、誰かのお腹の大きな音が鳴り響いた。
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