15-3 手にした力

 レオがイヴァンを掴み外へと追い出した。


 イヴァンが掴む腕を振りほどき、共に島に降り立つ。


「まさか、貴方達がここに来るとは」


「その声は、ストレッジ!?そんな、お前は僕があの時」


 イヴァンから発せられた声にレオが驚きの声を上げる。


「そうです、私です。確かに私は貴方に消滅させられましたが、打っていた保険が役に立ったのですよ」


 ストレッジの声に合わせてイヴァンの体の半分を占める赤黒い肉体が蠢く。


「しかし、貴方だけではなくサナダ・リョウまであれ程の力に目覚めるのは予想外でした」


「この力があのガキのだと……?」


 その言葉に今度はイヴァンが驚き、歪んだ瞳で空を見る。


「そうだ、あれはヘレディア様が託してくれたリョウの力だ!」


「神が、力をだと……」


 嫉妬と怒りに歪むイヴァンがレオの方へと向き直った。


「あいつも選ばれた側だと言いたいのか!」


 怒声を上げるイヴァンにレオが聞き返す。


「前の時から何なんですか?選ばれた側がどうのと」


「お前だよ、お前みたいな存在だよ。何もせずに力を持って、俺が手にする筈だった物を全部奪って!」


 イヴァンが怒声を上げる謂れの無い恨みの言葉に、レオは困惑するしかなかった。


「それにあのリョウもだ。異世界から来たってだけのガキがそれだけで周りから持ち上げられて」


 怒りのままにイヴァンの魔力が増大していく。


「それに神から力を貰ったなんて理由で、俺がこんな姿になってようやく手に入れた力を、何の苦労もせずに手にしただと……?ふざけるな!!」


 強力な闇の波動をレオに向かって撃ち放つ。


 しかし、レオはレオで友への罵倒で頭に来ていた。


「リョウが手にした力を、託された力を、貴方みたいな逃げて手にした歪んだ力なんかと一緒にするな!」


 雷鳴が鳴り響き、力のぶつかり合いの衝撃波で土煙が舞う。


 その中からイヴァンが飛び上がって叫んだ。


「生意気なんだよ、何の努力もなしに力を得てるガキ共が!」


 イヴァンの手に今までとは違う魔法陣が浮かび上がり、ストレッジが使っていた高圧の水流が放たれる。


 水流に島の木々が両断されていく中をレオは臆せず前に出た。


 振るう拳が水流を叩き割り、嵐を纏ってイヴァンに突撃する。


 イヴァンの周りを包むように球体状の闇が生まれ、それに殴りかかったレオの拳が消滅していく。が、それを構わず再生力と魔力量で無理やり闇を抉じ開けた。


「チッ、化け物が!」


「貴方だけには言われたくない!」


 眩い雷光と深い闇が至近距離でぶつかり合い、衝撃に二人が弾き飛ばされた。


 イヴァンが海の上へと水飛沫を立てながら着地する。


「どうだ……今の俺は、お前なんかに負けはしないんだ」

 

 風を纏って島から迫ってくるレオに対してイヴァンが手を構えようとする。


「盛り上がっているようですが、ここは引きますよ」


 そうストレッジが言って、体のコントロールを奪ってきた。


「なにを、逃げるって言うのか!?」


 イヴァンが必死に抵抗しようとするが、自身の物だった体は言う事を聞かない。


「はい、神器は回収され、あのレオとリョウをこのまま相手取るのは分が悪いだけですから」


 魔法陣が光り、水がイヴァンの体を包み込んだ。





 空では涼とグライズの高速戦が繰り広げられている。


 もっと、もっと速く!


 更なる気迫と共にこちらと戦う相手に向かって、心が思うままに加速し続ける。


 こちらの攻撃を避け、防ぎ、幾つもの必殺の一撃を放つ敵を追っていった。


 大技の連発をしていた最初の状態から、ここに来て基本に立ち返っていく。


 自分が鍛え続けたのは攻撃の速さと正確さ、強大な力を手に入れたからってそれを捨てては意味が無い。


 貰った力を自分の技に上乗せしていくんだ。


 魔力任せにバラ撒くだけだった炎が、徐々に正確性が増す狙いでグライズの行く先を阻んでいく。


 今まで教え込まれても体が付いて来なかった物が、凄まじい勢いで噛み合っていくようだ。


 頭がフル回転し始め、グライズの動きに食らい付き追い込んでいく。


 その中で再び炎の威力が増し始めた。


 神が託した力が涼の力へと、本当の意味で手にしていく。


 苛烈さを増して行く炎の嵐の中を駆け抜けながらグライズは涼との闘いを楽しんでいた。


 一手、一手と進む毎に相手の成長を感じる。


 最善の一手を上回る一手を目指し少年が成長していく。


 それは最初から強者として作られた自分には無い物。


 出来る事ならこのまま闘いを楽しみ続けたい。


 ですが、敵として魔王様の前に立ちはだかる以上、貴方はここで仕留める必要があります……!


 狙いは炎となって逃げ、実体化する瞬間。炎の一瞬の隙間を刺して暴風を纏った全力の蹴りが涼へと向かって跳ぶ。


 街規模の防壁すら打ち砕き、常人なら欠片も残らないような威力の蹴りに、反射的に炎となって避けようとするが、意を決して手を前に出した。


 怯えるな、俺ならやれる!


 魔力による防壁を作り出して敵の攻撃を受け止める。


 空を揺らす程の衝撃が突き抜ける中、四天の全力の一撃を確かに防いだ、防ぎ反撃の瞬間を作り上げた。


「貫け!」


 高速で打ち出された灼熱の槍がグライズの身を貫く。


「ぐぅぬ!」


 腹を焼き貫かれたグライズが呻き声を上げて距離を開けようと後ろに跳んだ。


「今!逃がすか!!」


 今がその機だと炎を滾らせて炎剣を作り出しグライズを猛追する。


 涼の手から絶え間なく放つ炎によって、グライズとの距離が詰っていく。


 逃げ切れないと判断しグライズが反撃に出た。


 炎剣と風拳が幾度と無く交差する。


 腹に風穴を開けられたダメージが重い、回復させるまでの時間が欲しい。


 引き剥がす為にグライズの拳の回転が速くなっていく。 


 剣戟をすり抜け拳を打ち込まれ、涼の体勢が大きく崩れた。


 これならば!と、踏み込んだ蹴りを薙ぎ払うように振り上げる。


 だが、体勢を瞬時に立て直していく涼の目を見て、蹴りに引かず前に出る涼を見て、グライズは誘い込まれた事に気付いた。しかし、もう止められない。


 直撃の瞬間、涼の体が炎と化した、蹴りを避ける為の最低限の部分だけが炎となった、残った右半身部分だけでグライズへと切り込んでいく。


 残った右目がグライズをハッキリと捉えている。


 勝負をはやりましたか……!


 蹴りの勢いのまま回転し右拳を振り下ろすが、それを涼の炎剣が両断した。


「見事!」


 炎が集まりこちらに追撃する涼に敬意の笑みを見せて回避を図る。


 涼の魔力が燃え上がり、トドメの一撃が放たれようとしている、これはもう避けられないとグライズは判断した。


 それでも回避を試みるのは相手の全力に答える為に。


 しかし、その二人の間に水の渦が生まれ、闇の波動が涼を押し返した。


「なんだ!?」


 驚きの声を上げる涼の前にイヴァンが出現した。


「邪魔立て申し訳ございません。ですが、よろしいですね?」


 涼を無視してストレッジがグライズに尋ねる。


 よろしくは無い、全力で戦い敗北したのを文字通り水を差される等。


「……ええ」


 しかし、この結末に不服な顔をするもグライズは頷いた。


「待て!」


 涼が追うが、二人は水に包まれて消えていく。


 放った炎が水を蒸発させるが、そこにはもう敵は居ない


「くそ、取り逃がした……」


「リョーウ!」


 敵にまんまと逃げられた事に拳を握っているとレオがこちらに飛んで来た。


「そっちは大丈夫だった?」


「まぁ何とかな、最後逃げられちまったけど」


 悔しい思いに頭をかく。


「いいさ、僕も逃げられちゃったし決着は次の機会に着けよう。今はフレージュの方が先決だ」


「そうだな、急ぐか」


 二人で島へと飛ぶ。


 島ではエイミー達が神器を持って待っていた。

 

「神器は無事に貰えたみたいだな、それでアデルさんはまだ下に居るのか?」


 俺の質問に少し俯くも、顔を上げてエイミーが答える。


「アデルさんは自分の使命を終えて、魂はあるべき場所へと帰りました。この世界の事を頼むと私達に告げて」


「そうか……なら、頑張らないとな」


「はい」


 エイミーが印を抱きしめて深く頷いた。


「それで、これがレオの新しい剣ね」


 鞘に収められた剣をリーナが渡す。


 それをレオが丁寧に受け取り、鞘から抜いてその剣を軽く振った。


「これが星の剣か……」


 その剣の美しさと出来栄えに思わずレオから感嘆の息が漏れる。


 前に過去の世界で見た武器も一部そうだったが、この剣と杖は機械的な見た目をしていた。


 星の剣は柄部分が何らかの装置になっているように見え、刃の部分も何かギミックがあるように思える。


 リーナが持つ星の杖は先に天球儀のような物が着いており、リーナの魔力に反応してくるくると回っていた。


 エイミーが持っている印は逆にシンプルな見た目をしているが、とても強い力を感じる。


「あ、マスター、この状態は一応時間制限があるから気をつけ下さいね」


 俺の口から愛莉の声が飛び出した。


「え、さっきのアイリちゃんの声ってアンタの口から出た?」


「はい、皆さんともこの状態でも会話できるように頑張りました!」


 意図は分るが俺から可愛らしい愛莉の声が出る光景にリーナが微妙な表情を浮かべる。


「そんな顔するなよ、俺が出してる訳じゃないんだから」


「まぁそうなんだけど……それで、時間制限ってどれ位なの?」


「何もしなければ大体後1時間ぐらいです。戦っても無茶をしなければ30分以上は持つと思います」


「成る程ね」とリーナが頷いた。


「じゃあ後20分ぐらいがアンタの今の所の限界時間ってわけね」


 地味に大分無茶をする事前提で計算されてるな。


「なら急いでフレージュに飛ばないと。レオとリョウはアタシの肩に手を置いて魔力をアタシに頂戴、結構滅茶苦茶な事を今からやろうってんだから遠慮はしなくて良いわ。後は出来る限り皆でくっついて」


 リーナの指示通りに転移の際に失敗しないように身を寄り添う。


「ちなみにこれって失敗したらどうなんの?」


 ロンザリアの疑問にアンナさんが答える。


「そうね、出る場所を間違ったら体が地面とくっ付いて死んじゃったりとか、バラバラになって死んじゃったりとか。今回はまた上空に飛ぶから地面とはないと思うけどね」


「うえ~、そんな魔法をぶっつけ本番だけど大丈夫なのー?」


「うっさいわね、アタシの腕前をアンタは黙って信じてれば良いのよ。じゃあ、行くわよ!」


 リーナの言葉に合わせてロンザリアが笑顔でリーナの背中に抱きついた。


 俺とレオの魔力も受け、星の杖の天球儀に幾つもの細かい魔法陣が展開して更に魔力を増大させていく。


 島を覆う程の巨大な魔法陣が空に展開された。


「飛べーーーー!!!」


 リーナの叫びと共に空間が捻じ曲がり、俺達は光に包まれて空間転移した。

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