13-1 イザレスへの道

 日も変わり昼を食べ終わった頃、空に飛空艇がやって来た。


「それじゃあ、行ってきます」


 エイミーが出発の挨拶をし、母親がそれに答える。


「気を付けてね、怪我とかしないように。リョウさんもね」


「はいっ」


 エルザさんに見送られ飛空艇を目指して空を駆け上がった。


「つうか遠くないか?」


 飛空艇は結構な上空で止まっている。風を踏み台に駆け上がっていくには大分遠い。


「リョウさん大丈夫ですか?」


「……いや、頑張る」


 根性込めて登っていくと、途中で飛空艇から出る風に巻き上げられた。


 その風に吹かれて一気に飛空艇の上へと辿り着く。


「おかえり」


 飛空艇の中へと入っていくと、何やら嬉しそうな良い顔をしたレオが出迎えた。


「おう、ただいま。さっきのはレオの風の魔法か?」


「僕の魔力ではあるけど、使ったのはロンザリアの方かな」


 その言葉にロンザリアが「えっへん」と胸を張る。


「そうか、助かったよ」


 俺が頭を撫でると甘えるように手に頭を預けてきた。


「にしても良い顔してんな」


「そうかな?」


 そうは言うもレオは笑顔をたたえたままだ。……リーナは横に座ってぐったりとしているが。


「ああ、良い顔してる。帰ってみて良い事があったんだろうなって誰だって分るぐらいには」


 その俺の言葉にレオが深く頷いた。


「そうだね、帰ってみて本当に良かった、嬉しかった、僕は父さんと母さんに出会えて本当に良かった」


 晴れ晴れとした笑顔。そうか、レオの両親達も凄く良い人達なんだろうな。


 エイミーの両親も良い人達だったが、機会があればレオやリーナの両親にも会ってみたいな。


「さて、そろそろ出発しましょうか」


 何処か浸ってしまっていた俺達にアンナさんがそう言って、俺達はそれに「はいっ」と返事をした。


 飛空艇が風を生み出し空を翔けて行く。




 飛空艇は順調に進んで行き、今日二度目の休憩と寝る場所として海の近くの平原に着陸した。


 もう空は夜になっている。


 久々の星空の下での夕食を皆で食べていく。


「そういやさ、イザレスってどんな国なんだ?」


「そうねー……まずは王様がトップじゃなくて、大司教ってのがトップね。でも国の政策にはあまり口を出さないとか何とか……その辺ってどうなんですか?」


 肉を口の中でもごもごさせながらリーナさんがアンナさんに聞いた。


「うーん、何か象徴みたいな感じだって聞いたけど私もあんまり詳しくはないかな、あそこってあんまり他の国と関わらないし、今回の会議だって来てないしねー。エイミーちゃんの方が詳しいんじゃない?」


 話を振られてエイミーが口にある物を飲み込んでから話していく。


「えっと、大司教様はあくまで教会のトップになります。ですが、その中心であるサンロメアがイザレスにありますので国への影響力は大きいそうです。あくまで教会は教会として、政治は選挙で作られた議会でやっていますけど」


 成る程、一応分離はさせてるけど実質的なトップはその大司教なのか。まぁガチ神様が居るんじゃそうなるよな。


 でも他の国はヘレディアって神を信仰していても、それ中心の世界にはなってない様だし、別に権威を振りかざしている感じではないのだろう。


「そのサンロメアってのは何かあるの?」


 興味あり気にリーナが聞いた。


「サンロメアは聖職者の巡礼の最後の場所となっていて、そこで聖典と言われる本……の様な物を見る事で、人によって様々ですが多くの知識を得る事が出来ます。その神の教えを知ることが私達聖職者の目標でもありますね」


 神から得る知識か……エイミーの村に居たキーンさんは農作物の研究をしていると聞いた。それもその神様からの知識を活用して選んだ道なのだろうか。


「そこが目標って事は、ラウロさんは行った事があるのかな?」


 レオの言葉に「まっさかー」とアンナさんが手を振る。


「ラウロがそんな殊勝に見える?」


 大斧を担いで笑うラウロさんを思い出す……いやー、やっぱりあの人聖職者じゃないって。


 レオとリーナもラウロさんの姿を思い浮かべたのか微妙な顔をしている。 


「ま、まぁ神の声を聞いたからと言って、全員が目指さなくてはいけないものでは無いですから。それにラウロさんの様に軍属になる方や、子供達の先生になったりとか色々と道はありますし」


 そんな反応の俺達にエイミーがそうフォローを入れた。


「他には何かその国で知ってる事とかはある?」


 俺の質問にエイミーが頬に手をやり考える。


「そうですね……後は木造の建物が多いとか、何かピンク色の花が咲く大きな木があるとか、後はそうですね、イサベラとは言語が違いますね」


 そうか、使う言葉は違うのか。


「へー、まぁ外国だしな……あれ、フレージュではどうだったんだ?」


 俺は結局どんな言語でも日本語に聞こえて見えてしまうが、街中を歩いてる時に皆も別に言語の違いを気にしていなかったように思える。


 その疑問にリーナが答えた。


「フレージュはうちと似たり寄ったりの言語だしね。お隣ってのと、昔から文化的にも交流があったし。フレージュでも遠くの方だと結構言葉が違うみたいだけど」


「成る程な……となると向こうの言葉が分るのって俺と他は?」


「アタシは分るわ」「私も大丈夫です」「私も一応ね」


 女性陣三人がそう返事をした。


 その横でレオが申し訳無さそうな顔をする。


「ごめんなさい、勉強不足で」


「はいはーい、ロンザリアもわかりませーん」


 先程までちょっと興味なさげに話を聞いていたロンザリアも手を上げてそう答えた。


「まぁ他4人が分るから問題はないか、と言うかレオは兎も角お前も分らないのは意外だな」


「行った事ないし、行くつもりも無い場所だったし、遠いしね~」


 椅子から地面に着かない足をプラプラとさせながらロンザリアが事も無げに語る。


 遠くの国の言葉だから分らない。それもそうか。


 何となく魔物は他の国の言葉でも喋れるような気がしたが、そもそも人と関わりが少なくないオークのマニンガー達はイサベラの言葉すら話せなかったんだし、やはりその辺は魔物も勉強してるのだろう。


 ……何となくストレッジが真面目に教科書を読んでいる様を想像してしまった。


「うーん、少なくともストレッジはそんな感じじゃないんじゃない?それとロンザリアも勉強したって言うより、そこで暮らしてる内に自然と話せるようになったって感じだしね~」


 そうだよな、ストレッジみたいなのが本を片手に勉強とかしないよな、いやそうであってほしいな。


「てかさっきからアンタ達時々頭の中で会話を始めてる時があるけど、変だから普通に喋りなさい」


 そのリーナのお叱りに俺は返事をするも、ロンザリアは答えなかった。


 夕食も食べ終わった後は寝る準備に入る。


 俺とレオは二人で外に寝袋を出して、女性陣とロンザリアは飛空艇の中だ。


 ロンザリアは俺と一緒に寝たいと駄々をこねていたが、エイミーに引き取ってもらった。


 雲の合間の星空を見ながらレオとこれまでの事を語らいながら眠りへと入って行く。


 予定では明日の昼前には海を渡りイザレスへと到着する。


 どんな国なんだろう、どんな人が居るんだろう、何も問題が起きなければ良いけどな……


 そんな事を考えながら夢の中へと入っていった。

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