12-10 捕えられた仲間
宿へと戻ったラウロは、気絶したままの涼に向かってバケツの水をぶっかけた。
「ぶげっ……ここは……えっと……」
冷や水を掛けられて目を覚ますも、頭がくらくらするし記憶が中々呼び起こされない。
大の字で転がったまま周りを見ると、目の前には空のバケツを持ったラウロさんが立ち、エイミーは落ち込んでいるリーナと一緒にベッドに座っていた。
それで……なんで、ここに……
「そうだ!レオが!!」
頭に電流が走ったかのように跳ね起きる。
そのまま走っていこうとする俺の肩をガシッとラウロさんが掴んだ。
「おいコラちょっと落ち着け」
「なんですか!?」
「なんですか?じゃないだろバカ」
その手を振り払おうとした俺の頭にラウロさんのゲンコツが落ちる。
痛みに視界に星が舞った。
「あのな、ダチが滅茶苦茶に言われて腹が立ったのは分る。分るけどな、そこで手を上げちまったらこっちの負けだろうが。レオの立場は悪くなる、お前だって捕まる、それ位は分るよな?」
頭の痛みで少しだけ血が上っていた頭が冷めてきた。
「すみません、俺の勝手な行動で……」
「分ったなら良い、それにあそこまでダチの為に怒れるのは良いことだ。」
そう言って俺の肩を叩く。
「さてと、とりあえずお前達に聞いておかなくちゃいけない事として、あのレオの正体とか、あの魔物の協力者とか、なんで隠してた?」
睨みながらも優しい声でそう聞かれた。
「レオのは、俺達にも確証はなかったので……。ロンザリアの方は……すみません、言ったらあいつが捕まったりするんじゃないかと思って言い出せませんでした」
俺のその返答にラウロさんが深く息を付きながら頷く。
「まぁ確かに相談し難い事ではある。だけどな、それでも頼ってくれるとこっちとしては助かるんだ、今回だって、そのロンザリアの方は前もって言ってくれたら何か出来ただろうしな」
「ロンザリアの方が?」
「ああ、何かお前達前にも魔物と交流があったんだろ?それがあったから皇太子様が魔物との共存プランみたいなのを今回の会議で出す予定だったみたいでよ、お前等がロンザリアの事を話して居てくれたら、その辺使って前もって他の国に紹介できたんじゃねぇかって。まぁたられば何て言ってもしょうがないけどよ」
そうか、あの食事の時の話をイサベラはキチンと考えてくれていたんだ。
それなのに、俺は魔物のロンザリアは他の人に知らせないほうが良いって隠して……
俺も結局人と魔で分けて考えてしまってるんじゃないか。
そう思い落ち込んでしまっている俺の頭をラウロさんがぐしゃぐしゃにする。
「過ぎちまったもんは仕方ねぇさ。ちなみに他に何か隠し事はないよな?何か面白い事を隠してるならとっとと言えよな」
笑いながら言うラウロさんは恐らく他に隠し事はもうないと思っているんだろう。
だが実際は、後一つ過去の島の秘密が残っている。
「実は後一つ秘密と言うか、言えない事が」
「何だよ言えない事って、それはどうしてもか?」
「はい、どうしてもです。それに俺達はその秘密の答えを知る為に、神様に会いに行く必要があります」
そうラウロさんに言って、エイミー達の方へと向く。
「今がその時だと俺は思う」
「ヘレディア様に会いに行くんですか?」
「ああ、レオの生まれの秘密を知った今、他の事も全部知っておいたほうが良いと思うんだ」
俺の言葉に落ち込んでいたリーナも顔を上げた。
「そうね、いい加減答えを知りに行くべきかもね」
そんな会話で仲間外れとなっているラウロさんが「あー、お前等」と割って入る。
「なんか色々あるみたいだが、結局その内容は俺達には話せないんだよな?」
「すみません、言ったら不味い事になるみたいなんで」
「だけどお前等はヘレディア様が居るイザレスに行かなくちゃいけないんだよな?」
イザレス、それは神に会えると言われている神の塔がある国の名前である。
「はい」
決意ある真っ直ぐな目で答える涼を見て、ラウロがガシガシと自分の頭を掻いた。
「頼れって言ったのに直ぐこれだよ……だーっ仕方ねぇ、イザレスまでってなると大分遠いし、何か移動の手段が確保出来ないか他に聞いてやるよ」
腕を組んで鼻息を強くしながらそう言った。
「良いんですか?」
そう聞いた俺に対して、ラウロさんの鼻息が更に強くなる。
「それ位やらせろ!レオも今は捕まっちまってるが、俺達の方で抗議も擁護もやって直ぐに連れ戻してやるよ!ラウロ様のお陰で助かりました、このご恩は一生忘れませんって言わせてやるから覚悟しとけ!」
その怒り気味の状態で宿からラウロさんは出て行った。
「怒らせてしまったな」
「まぁ後で全力で感謝の言葉を贈るとして、今はラウロさんが言うように信じて待ちましょう」
リーナの言うように俺達は宿で待った。
レオへの面会は許されなかったというのもあって、ただ待つことしか出来なかったとも言える。
事が良く運ばれ、イザレスへの道が開けれればと願ったが、そうは上手くはいかない。
その日の夜に、もう一人の魔王レオ・ロベルトの裁判が明日行われる事が発表された。
「まさかこれ程までに性急に事を進めるとはな。これは恐らく裁判とは名ばかりの物になるじゃろう、本当にお前さんたちには申し訳ない」
その事を伝え謝りに大賢者アンセルムは俺達の元に来ていた。
「名ばかりって事はもうレオの有罪は決まってるんですか?」
リーナの問にアンセルムが目を伏せて答える。
「恐らくな。カジミールも他の王達も恐怖に取り憑かれてしまっとる、今の状態では正常な判断は下せまい」
「そんな状態なのにレオを裁くだなんて!」
怒りを露にしたリーナへとアンセルムが深々と頭をさげた。
「許してくれとは言わぬ、言えぬ。だが分って欲しい、わしらはやはり彼が怖いのだ、あの狂気の中で告げられた真実が」
頭を下げるアンセルムに対してリーナは怒鳴り散らしてしまいたかった。
しかし、あの身も心も裂くような狂気の場を自分自身も味わったが為に、その気持ちが理解できるが故に、それをする事は出来なかった。
アンセルムが頭を上げ、拳を握り振るわせるリーナを見て語る。
「もし、お前さんたちがあのレオを逃がすのなら逃走手段はわしに任せてくれんか?お前さん達が向かう所への手助けにもなる筈じゃ」
そう言って逃走手段をアンセルムが説明していく。
成る程、それが本当に出来るのなら俺達のイザレスへの旅の大きな助けになるな。
その説明が終わった後、もう一度頭を下げてアンセルムは帰っていった。
「よしっ、ぱぱっとレオを助けて出発するわよ」
急ぎ足で準備を進めるリーナにエイミーが待ったを掛ける。
「あの、私思うんですが、レオさんは今助けを求めてないんじゃないですか?」
そのエイミーの言葉にリーナの手が止まった。
「は、そんな訳無いでしょ。今レオは捕まってるのよ、このまま放っておいたら一方的な裁判で裁かれるのよ」
「ですがレオさんは自力で脱出していません、今のレオさんなら簡単に出来るはずです」
捲くし立てるリーナに対して強く言い返すエイミーに、リーナの言葉が詰る。
「確かに、それは、そうだけど……」
目を逸らすリーナの手をエイミーの手が包んだ。
「不安なのは私も一緒です。でも今はレオさんが何をしたいのか確かめませんと」
「でも、今のアタシ達はレオと会うことも出来ないし……」
リーナが俯き、顔が泣きそうになってきている。
レオに会いに行く手段、それを考えると、はっと一つの手段が思いついた。
「いや、会いに行く手段はあるな。それも多分誰にも気付かれない方法で」
「何よ、何か名案でもあるわけ?」
泣きそうになってエイミーに抱き寄せられているリーナがジト目でこっちを向いた。
「ちょっと待ってろ」
そう言って目を閉じる。
多分、上手く行くはずだ。
頭の中でロンザリアに呼びかけた。
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