11-5 集う思惑
ロンザリアと別れ、俺は宿へと戻ってきていた。
あれからロンザリアの気配は特に感じてはいない。
また突然現れてビックリさせないで欲しいが、そこは願っても無駄な気もするから諦めるか。
部屋へとに戻るとエイミーが出迎えてくれた。
「お帰りなさい。突然散歩に行くという事でしたが、何かあったのでしょうか?」
心配そうに聞くエイミーを見て最初は誤魔化さそうかと思ったが、正直に喋る事にした。
「……実はな、ロンザリアに会ってきたんだ」
「えぇ!?大丈夫ですか?何か酷い事されませんでした?また何か危険な目とかに」
エイミーがあたふたしながら何かロンザリアから攻撃を受けていないか、俺の頭に手をやり顔を近づけ確かめていく。
「いやいや大丈夫だから、ていうか顔が近い近い」
俺の目を覗き込むようにしていたエイミーが我に帰り、顔を赤くしてぱっと離れる。
「すみませんっ、でも本当に大丈夫でしょうか?」
「本当に大丈夫だよ、今回は……というよりもう、ロンザリアは俺達と戦う気が無いみたいだしな」
部屋の中へと入って行き、中に居たレオとリーナにもロンザリアに会ってきた事を話していく。
「ふーん、で、アンタはそれを信じて帰ってきた訳ね」
俺から話を聞いて、はっきり言ってロンザリアの事を欠片も信用してないリーナが訝しげに聞いてきた。
「信じるも何も向こうは本当に何もして来なかったしな」
「何もしなかったのもアンタを油断させる為の罠かもしれないじゃん」
「あいつは多分そんな事はしないさ」
俺の言葉にリーナが腕を組んで眉をひそめる。
「妙にアイツの肩を持つじゃない」
「あいつの心を見たんだ、あいつは嘘を付いて無かったよ」
ロンザリアの心は良くも悪くも真っ直ぐに自分の好きな事へと向いていた。
単に自分がやりたい事をやりたい様にする、とてもシンプルな心。
そしてその中には俺に対する非常に分りやすい好意も混ざっていた。
別にそれを受けたからって訳じゃないと思いたいが、あれを見たらロンザリアを疑う気持ちは無くなっていた。
「リョウってもしかしてもうサキュバスの魔力に負けてたりするんじゃないの?」
「いえ……それはないと思いたいですが……」
女性陣二人の疑いの目が痛い。
「なぁ、もしかして俺って信用ないのかな?」
レオの方へと近付き、そう小声で聞く。
「うーん、今回は単に相手が悪いだけじゃないかな?普段はリーナだってリョウの事を信頼してるし」
「そうかな……だと良いけどさ」
二人に目を向けると、リーナとエイミーも二人で話し込み始めていた。
どうする、どうすると、何やら意見を交し合ってるようだ。
これはどうした物かと思っていると、レオが俺に聞いてきた。
「ロンザリアは僕達の事を一応は応援してくれてるって事なのかな?」
「一応な、勝っても負けても楽しむスタンスだと思うけどさ」
呆れ笑いながら言う俺を見てレオも手を口にやり笑った。
「それじゃあ勝って喜んで貰える様に頑張ろうか」
「どうせだし、あいつの鼻を明かしてやろうぜ」
二人で談笑しているも、女性陣二人はまだ何かを喋っていた。
「えっ、でもそんな事を」
「他に方法も考え付かないしやっちゃいなさいよ、アンタも別に嫌じゃないでしょ」
何かを企んでる様だが、何をするつもりなのだろうか?
そう思っていると、なにやら目がぐるぐるしているエイミーがこちらにやって来た。
「リョウさん!」
「え、なに?」
顔を赤くしてエイミーが俺の頭を掴み、
「失礼します!」
自分の胸へと思いっきり抱きしめた。
「!?」
「これはサキュバスの力に支配されてないか確かめる為のものであって、サキュバスの力でリョウさんの嗜好が幼児体型になっていないのかを確かめる為にどちらかと言うと違うと思う私が抱き締める事でそれが確かめられますので、決して何か他に理由があるなんてそんな事はなく……」
抱き締めながら早口で何を言っているのか本人にも分かっていない事をエイミーが捲くし立てていくが、殆ど耳に入っては来ない。
柔かな感触、甘い匂い、包まれる温かさ、生まれる多幸福感。
ああ、ずっとこうしていたい……
「それで、どうでしょうか!?」
ぎゅうっと俺の頭を抱き締めながらエイミーが聴いてきた。
「結構な……お手前で……」
顔がふにゃひにゃに緩みながら、だらしの無い声でそう答える。
「よし、とりあえずサキュバスの影響は受けてないみたいね」
抱き締められている涼を見て、うんうんとリーナが頷く。
「こんな確かめ方で良いのかな?」
「いいのよ、これが一番確実なんだから」
本当に大丈夫なのか確かめる為と称して、その後しばらくの間涼はエイミーに抱き締められていた。
ロンザリアと会ってから2日が経ち、予定通り連合国会議が行われるアルビに到着した。
会議までは後3日あるので、俺達はそれまでは観光でもしながらのんびりと過ごすことになった。
俺のマントも無事完成し、皆でぶらぶらと街を歩いていくが、あの抱き締められ事件以降ちょっとだけエイミーとの距離があやふやしている。
目を合わせると二人して目を逸らしてしまったり、近付きたくとも距離をちょっと離してしまったり。
二人並ぶ馬車の中は二人してそわそわしていた。
リーナからは「じっとしてなさいよ」と言われたが、そもそもこれはリーナが囃し立てた事である。
でも最後はちょっと調子に乗ってしまってたな、そこは反省しよう。
まぁ嫌われてしまった訳ではないようだし、時間が経てば元に戻るだろう……多分。
街の様子は各国の重鎮が集まるという事もあり、街は大きな盛り上がりと共に厳重な警備体制が敷かれている。
お祭りとして盛り上げたい商売の心と、魔王軍に対する緊張がひしめき合ってる、そんな空気を感じた。
会議が前日に迫り他の国の人達が集まった後、それは巨大な影に反して優雅にやって来た。
知らせを見た街の人や、俺達を含めた各国の人々が空からやって来たそれを驚きの歓声を上げながら見上げる。
空からやって来たのは巨大な翼を有した空を飛ぶ船だった。
翼に風を受けて、船が空を渡っていく。
フレージュが創り上げた世界初の空を飛ぶ船は、大きな音を立ててアルビの近くの平原へと降り立った。
魔王の城にてストレッジは魔王の前に跪いていた。
「現在の計画は問題なく進行しております、それにあの人間の実験も報告したように予想以上の物となりました、あの物と同時に運用する事で封印を解く鍵となれると断言出来ます。どうか私めの提案をご検討下さい」
頭を下げるストレッジを見て、魔王が威圧するように問うた。
「死が怖いか、ストレッジよ?」
「はい、無意味な死とは何と恐ろしいことでしょうか」
その返答を聞き、魔王は声を上げて笑った。
「はっはっはっ、無意味、無意味か。我の為に作られたお前が意味を考えるのか?」
「その様な意思を私に下さったのも魔王様のご意思かと、私はそう思います」
ストレッジの言葉に魔王の笑いは更に大きくなった。
元はと言えば世界に対する遊戯の為に創り出した者達、それが思惑以上に我を楽しませてくれるとは。
実に愉快。
「よい、許そう。お前の思うように動くと良い」
「はっ、ありがとうございます」
頭を上げてストレッジが宣言する。
「レオ・ロベルトを捕え、我が魔王軍の物としてみせましょう」
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