11-3 歩いてきた道
昼食を食べようとエイミーを呼んで下に居るレオと合流する。
「お昼何処で食べようか?」
汗を拭きながらレオがそう尋ねる。
「折角なんだしヴィットーリアの美味しい所とかにも行きたいけど、今の状況だと目立ちすぎてなぁ」
四天を倒したレオはヴィットーリアでは一躍時の人になっている。
今何処かに食事に行ったら目立ちすぎて食事どころではなくなりそうだ。
「何時も通り軍の食堂で良いでしょ、あそこ結構美味しいし」
「意外と言ったら失礼な気もしますが、ああ言う所は美味しくないものだと思ってました」
「首都だし食事面でも気合入れてるのかもしれないわね」
確かに何となく軍の食事って不味いイメージがあるけど、ここの食堂のは普通に美味しかったな。
そんなこんなを話しながら食堂へと向かおうとしていると、衛兵の人から呼び止められた。
「あー居た居た、レオさん方ー」
「はい?」
呼び止められてレオが振り返る。
「突然呼び止めてすみません。皆さん方は昼食はこれからですか?」
「はい、そうですが」
「それは丁度よかった。クラウディオ陛下が皆さんとお食事を一緒にしたいとの事でしたので、皆さんこちらへ」
「え、でも僕はさっきまで体を動かしてたせいで汗とか汚れが」
そう言うレオを少し意外そうにリーナが見る。
「アンタって一応そういう所も気にするのね」
「流石に僕だって今回は気になるよ。でも今からお風呂に入るのも……」
レオは確かに先程まで運動していましたといった具合の様相だ。
軍の食堂なら別に問題はないが、今から王様に会うとなると相応しいとは言えないかもしれない。
「今まで兵に訓練を付けてくれていたのは陛下も知っておりますし、そこまで気にしなくても良いと思いますよ。今回は時間の無い中どうしても皆さんとお話したいとの事でしたから」
「ささ早く」と急かす衛兵に連れられて王の下へと案内されていく。
着いた部屋でクラウディオ陛下に歓迎されて横に長いテーブルノ中央に座る。
横に並び座った俺たちの正面には陛下と、精悍な顔立ちの青年が座っている。青年の名前はアンドレアス、この国の皇太子だ。
座る机に非常に豪華な料理が並べられていくが、正直味を楽しむ余裕がない。
チラリと隣に座るレオとエイミーを見るも二人も似たような感じだ、多分レオの向こうに居るリーナも同じだろう。
「そう緊張しなくても良い、私は食事をしながら君たちの話を聞こうと思っただけなのだから」
王様はそう言ってはくれるものの、この空間で緊張するなってのが無理なものだ。
その空間の中で旅の思い出を皆で話していく。
「話に違わぬ大変な旅だったようだな。しかし、話の中でリョウ君は魔物と話したと言う事だったが、これは君は魔物の言葉が分るという事なのかね?」
「はい、何故かは分りませんが、この世界に来てから基本どんな言語でも読めたり聞けたりするようになりました」
俺の回答に2人が信じられないといった不思議そうな顔をする。
「不思議な事もあるものだね。もっとも君が異世界から来たと言う時点で不思議しかないけれど」
皇太子アンドレアスが楽しそうな口調でそう語る。
「魔物との交渉は怖くなかったのかい?」
「怖いとかそういうのはあまり、多分俺が異世界から来て話が出来るから同じこの世界の住人と思えたんだと思います。それでなんですが、この世界は魔物の言葉を研究して話し合ったりとかはしないのでしょうか?」
俺の言葉にアンドレアスが「そうだね」と手を組み考える。
「古来から人と魔物は戦い続けてきた、だが人と関わらず人を襲わず、ひっそりと暮らす魔物が居る事も又事実である。しかし人の生活圏は日に日に拡大してる事を考えると、その時に必ずその様な魔物達とも衝突が起きる、君たちが見たようにね。それを魔物達を知る事で戦いでなく話し合いで解決出来るようになれば、それは両者にとって良いことかもしれないな」
「それは実現可能な事なのか?」
「はい、リョウさんの協力もあれば恐らくは」
父の疑問にアンドレアスが答えていく。
「魔物の言葉の研究はそれを理解できるリョウさんが居れば飛躍的に進むと思います、それに彼に直接交渉の場に立ってもらうという選択肢もあります。そして重要な事が一度彼らは魔物と手を取り合い、友好的な関係を一時的に築けたという事です」
今、小さくだが確かにこの世界の中で常識が変わっていこうとしている。
「村の件は結果としては失敗に終わりましたが、それは村と魔物の仲を取り持てる者がおらず、両者共に不安の中での短い話し合いだった為に起きた事でした。もしも、国が働きかけ公正な場を設け実行すれば上手くいく可能性は非常に高かった、そう私は考えます」
あの村の村長の意見は「村を危険に晒す訳にはいかない」その一点に尽きた。
魔物に悪意が無いと分っていても、もしもの可能性を賭ける訳にはいかないと。
その判断は正しいものである。なにせ交渉の仲を持ち魔物を安全だと言えるのが、ふらりと現れた旅人の子供達しか居なかったのだから。
しかし、それを国が責任を持てるようになるのなら話が変ってくる。
村の安全を保障できると、危険が及ぶような事がないと、責任ある者が言えるのなら村長は首を縦に振っていた可能性は確かに高い。
「彼の言うように私達同じ世界に生きる物として、人も魔物も共に歩む道を創りだせれば、彼ら魔物達の力は非常に大きな利益をもたらします。父上も一つ乗ってみませんか?」
アンドレアスの提案にクラウディオが深く考える。
「……この件は簡単には答えを出せないが、前向きに考えよう。しかし、君たちの話を聞いていると文字通り世界が広がる、そんな気がするな。今回の話はとても良く楽しませてもらった、惜しむべきは時間が食事の時しか取れなかったことか、また時間が許せば話を聞かせてはくれないか?」
「いえ、俺達も陛下と話す事が出来て良かったです」
「それは何よりだ、では私達は職務へと戻るが君達はゆっくりと食べていってくれたまえ」
そう言ってクラウディオとアンドレアスは部屋から出て行った、二人が残した皿も給仕の人が片付けていく。
給仕の人も居なくなった所でようやく緊張の糸が切れた。
「ふへー……緊張した」
そう言って椅子から少しずれ落ちた。
「その割には口は良く回ってたじゃない?」
ぐったりする俺を見てケラケラとリーナが笑っている。
「緊張しすぎて逆に口が回るってのはあると思うんだ」
そう答えて目の前にある料理を食べていく、ようやく料理の美味しい味を楽しめた。
時間が無いのも分るし、話を聞いてくれたのは滅茶苦茶嬉しい事だけど、やっぱり飯は普通に食べたいな。
「魔物との共存の話は上手く進むのでしょうか?」
「どうでしょうねー、前向きに考えると言ってたし、国としての利益もあるからやるような気もするけど今は魔王軍相手に忙しいから何ともって感じじゃない?」
「そんなもんか、いや考えてくれるだけ良いことか」
料理を口の中でモグモグさせながらあの魔物達のことを思い出していく。
マニンガーとか元気にしてると良いけど。
昼食を食べ終わり、俺達は部屋に戻ってきていた。
今は4人で机の上にある水晶を見ている。
「これを使うのを見るのは何気に初めてだな」
今置いてある水晶は対応している水晶と会話が出来る魔法の道具で、旅の始まりの際にレオ達が使っていたが、俺が見たときは丁度使い終わった後であった。
「色々不便だからね、一回しか使えないし、そんなに長い間喋れないし、対応してる物を相手が持っておかなくちゃいけないし、アンタの言う所の電話が早く発明させると良いんだけど」
そんな不便な道具ではあるが、やはり生の音声と顔が見れると言うのは大きい。
という事でレオの出世(?)の話や、何か色々と進んでしまった事をレオとリーナの両親に話す為に通話を繋げている。
「エイミーの方にも連絡出来れば良かったんだけどね」
「確かに久々に声は聞きたいですけど、手紙は送っていますので大丈夫です」
エイミーは言われて少し寂しそうではあるが、大丈夫だと笑顔を向ける。
シエーナ村もあれからどうなったのだろう?
エーテル採掘場が偶々出来上がったお陰で復調の兆しは出来ていたが。
「あ、繋がった」
そう言ったレオの声を聞いて、水晶を覗き込む。
そこにはレオとリーナの両親たちが映っていた。
金髪夫婦と、金髪と茶色の髪の夫婦が映っている。
金髪夫婦はリーナの両親だろう、顔の雰囲気も似てるし。
でも、このもう一組の夫婦がレオの両親か?まぁ何となく母親が似てるように見えなくも無いが……
考えている間に久々にあった両親にレオとリーナが元気に話していく。
「それでこっちがリョウで、こっちがエイミーね」
リーナの紹介を受けて二人で挨拶をした。
その後は時間が無いので少し早口でリーナが現状と今後の予定を喋っていく。
そんな慌しい中でも水晶の向こうの両親達が、本当に心の底からレオとリーナの事を心配しながらも、歩む道を応援しているのが伝わってくる。
似ていない。そんな事を気にしてしまった自分が少し情けなくなった。
「これで最後になっちゃうけど、今が使い時でしょ」
リーナがもう一つだけ残っている水晶を取り出し、通話を続ける。
その残りの時間もあと少しとなってきていた。
リーナが最後の会話を終えてレオに替わる。
「それじゃあ、そろそろ時間になってきたから」
「そうね、お母さんからは何度も言うけど怪我をしないように、無理をしないように、後は……お父さんよろしく」
レオの母親が「帰ってきて欲しい」との本音を飲み込み、父親へと替わる。
「母さんも言ってたように気をつけてな。父さん達はここから応援しか出来ないけど、何時だってお前達皆の無事を祈ってるからな」
「うん、大丈夫。絶対に勝って帰ってくるよ」
「ああ、頑張れ、頑張れっ!」
「気をつけてね、いってらっしゃい」
「はい、いってきます」
両親の言葉にレオが力強く答えた。
同時に水晶の光が小さくなり消えてなくなった。
「これ後100個ぐらい作れば良かったかしら」
魔力の無くなったただの水晶珠をを片付けながらリーナがそうぼやく。
「100個もあったら持ち運びも大変じゃないかな」
そのぼやきを笑いながらレオが返していく。
「戻れる時があれば補充しとかないとね、その時は序でにエイミーの所にも寄って置いておきましょうか」
「ありがとうございます、その時になったらお願いしますね」
そんな3人の会話えを聞きながら、一人俺は考えていた。
両親か……ああやって心配して応援してくれる人が居るのは良いことだな。
俺の両親も、あんな感じの人だったんだろうか?
幼い頃の遠い記憶にすら残っていない、亡くなった両親の事を考えていた。
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