11-2 この世界の事
バルトロがこの世界の地図を持ってきて机に広げる。
もっとも世界地図と言っても探索や測量がキチンと終わってないせいか、アバウトに大陸の形と国の位置が書かれている地図だが。
この世界の形としては、元居た地球からアメリカ大陸らへんを無くした形と言えば良いだろうか、厂の様な形をした大きな大陸と幾つもの島が存在している。
「今自分達が暮らしているイサベラはここ、そして向かうフレージュはここであります、それとこちらが嘗てドニーツェと呼ばれ今は魔王軍が占拠している国になります」
イサベラは大陸の中央より下、フレージュはその北東に、ドニーツェはフレージュを挟んで更に北に位置している。
「このデカイ国が滅んだんですか?と言うかデカイですねこの国」
そのドニーツェと書かれている国は大陸上部の横に伸びる部分の大半を占めていた。
「そうですね、えー……最初から話しましょうか。事は起こったとされる大災害から国々が立ち直った時期に始まります」
バルトロがこの世界の記録に残る歴史を語っていく。
「大災害についてはご存知ですか?」
「一応は、何か神様から与えられた教典に世界が滅びかけた災害があったと書いてあるとか」
旅も初めの頃にそうリーナから教わっている。
「その通りですね。その大災害から人々は立ち直り国の機能は復活していきますが、事は簡単には進みません。当時は魔物の軍隊と言える物が複数存在し、同じく大災害から立ち直った魔物達との戦争状態になったとなっております」
「それは魔王軍とは?」
「関係はないと思われます」
さっきから説明の割には何と言うか不明慮な言い方だな。
少し首を傾げる俺にバルトロが気が付いた。
「申し訳ありません、今と違い昔にあった戦いの資料は殆ど残っておらず、伝聞でそうらしいと言う情報しかありませんのでこの様な言い方に」
「あっいえ、俺は大丈夫ですので、説明の続きお願いします」
リーナも言っていたが何故か昔の記述はやけに少ない、と言うより「記録を残す」という文化が無かったように思える。
あの過去を見た島からしても、神様が過去の何かを隠してるのは事実だ。
この昔の記録を何故か残していないというのも、神様が仕組んだのだろうか?
うーん……そろそろ神様には会いに行った方が良いのかもしれないな。
「では続けまして、その魔物達との戦いは人類側の勝利となり、魔物達の大半を大陸の果てへと追いやる事に成功しました」
そう言って指差した位置はドニーツェの東、大陸の横に伸びている部分の果てになる。
「その戦いで多くの戦果を残したのがドニーツェとフレージュ。両国は魔物が住んでいた土地へと領土を広げて行き大国へと成長していきます、これが200年ほど前の話になりますね。その後世界は成長を続けていきますが、今から64年前にドニーツェが隣国に戦争を仕掛け占領した事が問題となります」
バルトロが地図に元のドニーツェの領土と、他の国の領土を書き込んでいく。
「元々ドニーツェは隣国を吸収し徐々に大きくなっていましたが、当時はまだ情勢も不安定であり寧ろ望んで庇護下に入る国も多くありました。しかし、その戦いで占領された国は庇護は求めておらず、完全なる侵略行為でありました。その後もドニーツェは隣国との戦争を繰り返していき」
次々とバルトロが地図上のドニーツェを肥大化させていく。
「そして31年前に、ここウカジナへとドニーツェが侵攻したことで、フレージュがイサベラや他国と同盟を結びドニーツェへと宣戦布告をします」
「フレージュが戦争をしたのは何か理由があるんですか?」
「まぁ……端的に言えばウカジナにエーテルの大きな採掘場があったからであります。フレージュはそこから多くのエーテルを輸入してましたので、それを守る為に。勿論それまでのドニーツェの蛮行に対する反感もありますが」
成る程、見逃せないほどにその国はフレージュにとって大切だったわけか。
「何はともあれフレージュが率いる連合国はドニーツェとの戦争状態になりました。その時に前にラウロが話していたようにイサベラの槍の初代が就任し、自分達もその後の戦いで功績を挙げていきました」
その話は前にラウロさんから聞いたな、初代の人はもう病気で亡くなっているとも後で聞いている。
「ドニーツェとは何度と無く衝突し、戦乱と膠着を繰り返す様になっておりました。ですが事態は魔王軍の出現により一変します」
バルトロが嘗て魔物を追いやった地に〇印を付け矢印を幾つも伸ばしていく。
「3年前に突如として出現した魔王軍はその凄まじい力でドニーツェを瞬く間に蹂躙していきました。ドニーツェは連合国側に停戦を申し込み魔王軍との戦いが始まりますが、救援が間に合う前に首都は陥落し、魔王軍出現からたった一月でドニーツェと呼ばれていた国は滅びました」
バルトロがドニーツェへと×印を付けた。
「以降は連合国と元ドニーツェの軍の混合軍と、魔王軍との戦いとなりますが、ご存知の通り人類側は劣勢を強いられており、戦線は徐々に押し込まれドニーツェがあった土地の殆どは魔王軍が占拠した状態となっております」
そう言ってバルトロはフレージュ近郊のドニーツェの土地に一本の線を引いた。ここが今の最前線なのだろう。
こうして地図で見ると、ここまで巨大な国を押し潰した魔王軍の力を再認識できるが……
「何でこれで済んでるのか不思議よね?」
アンナさんが俺に後ろから寄りかかりながら地図を見て、可視化させた魔力で指差していく。
「四天が出てきた戦場は必ず魔王軍が圧勝してる。それなのに実際に四天と名乗る魔物が出たのはドニーツェが滅ぶまでと、あとはこことか、こことか、あとこっちとか」
アンナが幾つかの地点を示していくが、3年間も戦っていると言う割りには四天との交戦回数は少なく思える。
「ドニーツェを滅ぼした後の魔王軍は妙に遅い、それこそ虱を潰すように丁寧に進行しているわ、しかも時折四天が前線以外に出没して街が消えたりしてる。これがどうしてなのかは私たちも考えた、そして出た結論は魔王軍は時間を掛けてでも何かを探しているって事」
「それが……レオ?」
「多分それも一つ。後はボアフットが向かった場所にあった莫大な魔力を発していた物も」
ボアフットが向かった所にあったモノ……
「あー……それ、俺の事です」
小さく手を上げる俺を見てアンナさんが驚きの声を上げた。
「え?でも君、何と言うか普通じゃない」
まぁ確かに現状普通ではあるんだが。
「えっと、俺がこっちの世界に移動した際に莫大な魔力がくっ付いた状態だったんです。それは全部流れ出ちゃったので、今は別に変なところはあんまりないですけど」
「成る程~」とまたアンナさんが俺の顔をむにむにしていく。
「やっぱり君の事は色々と知らなくちゃいけないみたいね。元から全部聞くつもりだったけど、もう我慢できないからお話しましょう。良い?」
首を傾げて聞くアンナにバルトロが「好きにしてください」と諦めたように了承する。
「それじゃあ私の部屋に行きましょうか」
そう言われてズルズルとアンナさんに引きずられて行く。
「でも、フレージュに行くって事を皆に言わないと」
「なら君達の部屋で話しましょう」
アンナさんに連れられて部屋に戻ってきた俺は、元居た世界の事を話していく。
リーナも会話の中に混ざり、俺がこの世界に来た時の魔力の流れや、俺の居た世界の技術の話をアンナさんと共に楽しそうに語っていた。
話の中でテレビや車等、過去の世界にて見た技術の話も出たが、リーナは知らない体で喋っている。
「リョウ君の居た世界は一度直接見てみたいわ~。もしくは君がその技術を持っていれば良かったのに」
遥か遠くの世界にアンナが思いを馳せている。
「すみません、力になれなくて」
「あ、良いの良いの別に責めたい訳ではないから。でもあれね、リョウ君の言ってる飛行機?はフレージュで似たようなのが開発されてるらしいわ」
「飛行機が?」
「話ではね。名前は違ったはずだし問題点があり過ぎて実用的ではないらしいけど、空を飛ぶ機械が開発されているそうよ」
何でもフレージュは元から魔法、科学問わずに研究開発が盛んな国であったのが、ここ最近の戦乱続きで更に技術が進歩している国らしい。
「もしかすると今回の会議ではお披露目してくるかもね」
「未完成なのにお披露目ってするものですか?」
そう言う俺の疑問にはリーナが答えてくれた。
「レオが四天を倒しちゃったからね、これは向こうとしても嬉しい事だけど、同時に国を挙げても勝てなかった相手を倒した人が居るって事だから、フレージュ的にはここで一つ面子を保ちたいって思うかもしれないって事よ。未完成と言えども本当に飛べるなら大発明だしね」
「そういう事、だから私は今回の会議は実の所そっちが見れるのかもってのが本命なのよ。ちなみにリョウ君ってもし失敗作を見たらここが駄目だー、とか分ったりはしそう?」
「それも難しいと思います、仮に知識があっても俺の世界と同じ技術で飛んでるとは限りませんし」
と言うか多分まったく違う方法で飛んでそうだ。
「そうかー、そうね期待しない程度に期待しておくわ。それではお昼の良い時間になってきたし私はお暇しようかしら、また君の世界の話をじっくり聞かせてね」
アンナはそう言って手を振り部屋から出て行った。
「過去の世界の話は出さないんだな」
アンナが部屋から出たのを見送ってからリーナにそう聞いた。
「言ってどうすんのって話しだしね、言わない方が良い気もするし」
あの島の出来事が何らかの手段で無かった事にされて居る事が分った後、封印の事を気にして俺達はその事を他の人には喋っていない。
でも、そろそろ謎は解いておいた方が良い気がする。
「でもさ、神様には会って話は聞いたほうが良いと思うんだ。多分魔王と戦った事がある力があの島には眠ってるし、それも魔王軍は探してたりするんじゃないか?」
「そうね……近い内に神様の所には行ったほうが良いとアタシも思う。一先ずはフレージュの会議で今後の方針も決まるだろうし、その時に行っても良いか掛け合ってみても良いかもね」
「さてと」とリーナが立ち上がる。
「会議はアタシ達が出ないことには始まらないし、そこまでは予定通りにするとして、レオとエイミーと呼んでアタシ達もお昼にしましょう」
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