10-6 首都決戦

 ヴィットーリアにイサベラ国史上最大規模の軍隊が展開されている。


 バルトロとラウロは城壁の上からそれを見ていた。


「もうそろそろでありますね」


 偵察部隊から報告は来ている、もう敵は間近に迫っていた。


「単純な戦力で言うなら、向こうがドラゴンで空の有利を取っても五分五分って所か。だが問題は四天と、あのデカイドラゴンだな」


 ドラゴンの群れの中に一際巨大なドラゴンが一体存在している。


 要塞が飛んでいるかの様な正に規格外なドラゴンは、間違いなく脅威となるだろう。


「かー、この相手を見ると逃げ出したくなってくるぜ」


 ラウロが腰を下ろして頭を抱える。


「逃げるのでしたら、前に出たほうが良いですな。自分に追われずに済みますから」


 ラウロにバルトロがしれっと答えた。


「あー、バルトロに追われたら勝ち目ないし、頑張るかー」


 何処となくやる気がなさげに言うも、ラウロの目は正面を向いていた。




 俺とレオは剣の調達の為に、軍の人に案内されて城へと来ていた。


「これがこの国で一番の剣だ」


 レオがちょっと派手な装飾の付いた鞘に入っている剣を渡される。


 それを抜いて剣を触り確かめた後、何度か振るった。


「これ、僕が貰っても良いんですか?」


「お前が勝たなければ、どの道誰も使えなくなるんだ。気にせずに使ってくれ」


 言われて「はー」とレオが剣を眺めている。


「そんなに良いやつなのか?」


 まぁ多分良い剣なんだろうなー。とは思うが俺には正直分らなかった。


「うん、アルフレードさんに貰った剣も凄く良い剣だったけど、これはもっと凄い」


 そういやあの鉱山の街で貰った剣は結構長持ちしてたな。


 いや、戦う度に炭化させたり粉々に砕け散ったりするレオの戦い方がおかしい気もするが。


「でも鞘のほうは、ちょっといいかな」


「確かに派手すぎるな」


 ゴテゴテと装飾が付いた鞘を見て二人で笑う。


 適当な鞘を見繕ってそれに仕舞い、城壁へと向かった。


 城壁から見た光景には空を埋めるかのようなドラゴンと、地を踏みしめる魔物の大群が迫っていた。





「それではリョウ殿達は自分達と共に迎撃の準備を、レオ殿は後方にて待機し四天の襲来に備えてください」


 敵の内容などの説明が終わった後に、バルトロさんがこちらに指示を出してくれる。


「僕は前に出なくて良いんですか?」 


「お前は俺達の切り札なんだから、後ろで構えてたら良いんだよ。寧ろ前に出て疲れて四天に負けて死にましたってなったら俺がぶっ殺すからな」


 そう聞くレオにラウロがレオの頭をペシペシと叩きながら答えた。


「ま、あのデカ物が何ともならねぇ時はお前にも手伝ってもらうかもしれねぇが。あいつ図体だけってオチにならねぇかな」


「アタシはあのドラゴンと目の前で対峙した事がありますけど、そんなオチは無いと思いますよ」


「だよなー。んで、俺が加護をかけて回ろうと思ったが、お前達はそのかわい子ちゃんにやって貰った方が良いかもな」


 加護?


「え、ラウロさんって聖職者なんですか?」


「見たら分るだろ」


 言われて見れば確かに、戦闘用に着替えたラウロさんの服装は何となく修道服に見えなくも無いが、大斧を持ったりと他の要素がそれを全て打ち消している気がする。


「でも私よりもラウロさんが加護を付与してくれた方が、効果は高いのでは無いのでしょうか?」


 エイミーの質問にラウロが答える。


「お前も習っただろ、祈りの強さは思いの強さ、お前の方がこいつらへの思いが強いだろうが。自信が無いなら変わってやるけどな」


「いえ、私がやります!」


 ラウロに言われてエイミーが答えた。


 エイミーがこちらに振り向き祈る。


「皆さん、どうかご無事で」


「任せろ」「うん、大丈夫」「アンタもね」


 その祈りに三人とも答えた。

 

「さて、これで準備は整いましたな」


「じゃあ、野郎共!!あと女性方、行くぞぉ!!!」


 号令と共に都市を出て、戦地へと向かった。




 ヴィットーリアへと魔王軍が迫る。


 巨大なドラゴンは遠方にて待機し、ケーニヒは分厚い雲の近くに気配を示している。


 魔物達の行進が地鳴りを上げて迫る。


「我等の後ろには我等の故国そのものがあります!!敵は巨大なれど我等は引く事はありませぬ!!我等は恐怖に打ち勝ち、故国を守りし者!!四天に勝利する最初の人間となりましょう!!」


 バルトロの言葉に兵士達が雄たけびを上げる。


 それに呼応するように両陣営に数多の魔法陣が出現し、戦場に魔法の光が瞬いた。


 地上の兵と魔物がぶつかり合い、空は地上から放たれる魔法とドラゴンが制空権を奪い合う。


 地上をラウロが大斧を担いで突撃していく。


 自分にかけた強力な加護を使い、無理やり敵の前線を両断して行った。


 ラウロ曰く、聖職者の加護は本人に対してが一番効果がある。更に傷の回復も自前で出来る。

 

 ならば本人が前線で肉弾戦を行うのが一番効果的な戦闘方法であると。


 理屈としては間違っていないが、誰も真似しない強引な戦闘方法で敵陣を崩していく。


「手前等は前座なんだ!とっととくたばっちまえ!!」


 放つ光の槍と鎖で敵の動きを阻害しながら大斧で敵を次々と引き裂いた。


「おっと」


 暴れまわるラウロに上空からドラゴン達の魔法とブレスが放たれた。


 ラウロの加護を抜ける程の威力ではないが、それでも視界が阻害され動きを制限されてしまう。


「空は自分が行きましょう」


 隣で戦っていたバルトロがそう言い、マントを光らせた。


 生み出した風を蹴り出し空へと舞う。


 連続で空を蹴り魔法を避けてドラゴンを槍で串刺しにしていく。

 

「ゴツイ顔して戦い方はスマートなんだよなぁ」


 空を駆けて行くバルトロを見てラウロが呟いた。


 戦況はイサベラ国側へと有利に進んでいる。


 しかし、それは魔王軍側が切り札とする物をまだ切っていないからに過ぎない。


 その札の内の一枚が切られた。


 遠方に構えていた全長7、80メートルはあろうかと見える巨大なドラゴンが、唸る羽ばたきと共に戦場へと向かって来た。


 迫る巨大な敵に幾つもの魔法が飛来するも、その巨体は何も構うことなく戦場へと降り立った。


 地響きを上げてその巨体が戦場に参加する。


 ただただ只管に巨大な戦力は、それだけで優位に進めていた戦線を押し返してきた。


 一歩を踏みしめるごとに大地は揺れ、振るう尻尾はこちらの防護諸共薙ぎ払う。


 放たれる攻撃も、持ち前の堅さに魔力による防護でビクともしない。


 バルトロとラウロが巨大ドラゴンへと切りかかるも、その大きさと堅さに決定打を見出せずに居た。


「リーナ!」


 それを見ていたレオが堪らず戦線へと出てきた。


「あれは雷の刃では駄目かな?」


「微妙な所ね、何発も撃てば倒せるかもしれないけど、それだとケーニヒ戦に響いてくる」


 外からは破れない堅さか……


「なあ、一発だけ撃ってくれないか?隙さえ出来れば俺が何とか出来ると思う」


「なに?何か策があるの?」


 聞かれて答えた策を言ったらリーナが呆れ顔になる。


「それ成功すると思ってるの?」


「でも他に方法もないだろ」


「まぁ……そうと言えばそうだけど……」


 現状あの巨大ドラゴンを即座に倒す方法は涼が提示した方法以外は考えつかなった。


 ケーニヒが何時戦場に来るか分らない以上、あのドラゴンは早く倒しきらなくてはいけない。


 でも、だからって……


「ええい、アンタ死なないって約束できる!?」


「約束する」


「絶対よ?絶対だからね!死んだら怒るんだからね!?」


「分ってるよ!」


 答えて走り出す。


「リョウ、任せた!!」


 レオの言葉に拳を上げて答える。


「リョウさん、私も行きます!」


「えっ!?」


 後ろから共に走るエイミーからそう叫ばれた。


「これから行く場所に私は役に立てる筈です!それに脱出の時にも!」


「でも、エイミーが」


「約束できるんですよね?死なないって。なら私が行っても平気な筈です!」


 強い意志でそう言われた。


 くそ、そうだな。俺も腹括るか!


「走るから乗ってくれ」


 立ち止まり腰を下ろす。


「失礼します」


 エイミーが俺の背に乗ってしがみ付いた。


「振り落とされるなよ!」


 魔力を脚に込めて戦場を駆け出した。




 バルトロとラウロは巨大なドラゴン相手に攻めあぐねていた。


「クッソ、ちっとは効いた風を出しやがれよ!!」


 叫び渾身の一撃を放つも、ドラゴンの防護の前に弾かれてしまう。


 それでも立ち上がり再び向かおうとした時、涼の叫びが聞こえた。


「バルトロさん!ラウロさん!今から無茶しますから、後はお願いします!!」


 何の事だと聞く前に、涼が走ってきた方向から凄まじい威力の雷の一撃が放たれた。


 レオが振り放った雷の刃がドラゴンの頭部を直撃する。


 しかし、その万雷の一撃ですらドラゴンは耐え抜いた。


「だけど、それは分ってる!」


 涼が魔方陣を展開し風を作り出す。


「バルトロさん直伝の魔法を見せてやらあ!」


 風を踏み込み空へと舞う。


 それは必要になるかもしれないと思い、バルトロから教えてもらった魔法だった。


 風を蹴って、空を行く魔法。


 ドラゴンとの争いとなるなら必要になると教えてもらった魔法だ。


 先程のレオの一撃は囮、本命は涼が近付く隙を作り出す事。


 エイミーを背負った涼は、空を舞ってドラゴンの口の中へと飛び込んだ。


 ドラゴンの体内の中を落ちていく。


 エイミーが鎖を放ち、それに掴まり何とか無事に着地した。


「はー、無事入ってこれた……」


 エイミーを下ろして周りを見る。


 明かりで照らされた空間は赤黒く蠢いている。


 エイミーが展開してくれている防護に何かが垂れてジュージューと音を立てていた。


「これは一人で来なくて正解だったかもな」


「でも、危ない事に変わりはありません。早く終わらせましょう」


 エイミーが指差す方向へと向いて魔法陣を構えてありったけの魔力を込める。


 向こうがこのドラゴンの弱点か。


「こう言うのはな、俺の世界だと割りとお決まりなんだぜ」


「そうなんですか?」


「そうさ、こういうデカ物は、内側からぶっ壊すのさ!」


 エイミーの光の槍と共に全力の爆炎をドラゴンの中でぶっ放した。


 内臓を抉られドラゴンが苦しみに身をもがく。


「何が起こったのでありますか!?」


 突然苦しみ始めたドラゴンを見てバルトロが声を上げる。


「すげぇ、すげぇぜあいつら。ドラゴンの中で戦って居やがる!発想が異世界人過ぎるだろ!!」


「中に?という事は、後は任せるとは!」


「ああ、出てくるからその手伝いって事だ!!」


 バルトロ達がドラゴンへと駆ける。


 思いもよらぬ内側からの攻撃にドラゴンの集中は途切れ、防護が弱くなっていた。


 そこを二人が切り裂き、周りの兵士達も二人に続き攻撃を放っていく。


 無敵とも思えた巨体が人々の攻撃に揺らめいた。


「ようし、お出迎えだ!」


 ラウロが一際大きくドラゴンの胴を切り裂いた。


 そこから光の鎖が外へと伸びる。


 それをバルトロが渾身の力で引き抜き、涼とエイミーはドラゴンの中から脱出した。


「こいつで、ラスト!!」


 外へと出た涼が炎の大槍をドラゴンへと放つ。


 唸りを上げる炎が数多の攻撃で揺れるドラゴンの頭部を貫いた。


 ドラゴンが最期の声を上げて、音を立て沈む。


 それをケーニヒは空から見ていた。


「この前よりは楽しめそうだな」


 放たれた雷の一撃は前に見た物よりも強力な物だった。


 少しは期待が出来るかもしれない。


 小型のドラゴンから下りて戦地へと舞い降りていく。


「さあ、やろうぜ!お前の存在意義がまだあるなら、それを俺に見せてみろ!!」   

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る