7-4 目覚めの路地裏
目が覚めると何処かの路地裏で全員倒れこんでいた。
起き上がり周りを見渡すと晴れたとても良い天気と、街の賑やかな声が聞こえてくる。
「ここは何処だ?」
俺の声に他の皆も起き始めた。
「うー、気分は良くなってるけど口の中が変な感じ……」
「先程光に包まれて……それから……」
「僕達って船の上に居たよね?」
皆して状況の飲めない頭を振って起き上がる。
「とりあえず路地から出てみましょうか」
リーナの提案に頷き外へと向かう。
路地を出た先には多くの人通りと、信号機が点灯し車が走る道があった。
「え……なんだこれ?」
走る車は一昔前な見た目の車が走っているが、それでも確かに車として走っている。
見れば道行く人の服も何処か近代的な雰囲気の服を着ている。
俺達は目の前の光景に唖然となっていた。いや、一人を除いてだが。
「すっご!何これ!?え、え!?これあれでしょ!?アンタが言ってた車ってやつ!凄い!ほんとにあんなに速く走ってる!」
周りの人の怪訝に思う目も気にせず、リーナがぴょんぴょんと跳ねて目の前の光景に喜んでいる。
「あっち!あっちとか!でかい箱で人が喋ってる!」
リーナが騒ぐ方に向くと、店の前にあるテレビらしき物で何やら化粧品らしき物のCMが行われていた。
その店にリーナが猛ダッシュで駆けて行く。
「凄い!凄い!これ魔法で動いてる!えっどうやって作ってるの?どうやったらこんな絵が動くの?」
展示品に齧り付く様にリーナが見ている。
「リーナちょっと、周りの人が見てるから」
レオが騒ぐリーナを止めに行く。
確かに先程から周りの人の目線が痛い。
なにかこそこそと声も聞こえてくる。
いや、声は聞こえるというよりも頭に直接声が聞こえるようだ。
「なぁエイミー、周りの声って聞こえるか?」
「はい。聞こえると言うよりは、頭に直接入るっと言った感じですが」
成る程、多分レオ達も同じような感じだろうな。
前ではリーナがレオにテレビを買って欲しいと駄々を捏ね始めている。
「ねぇねぇ良いでしょ?一個買っていきましょうよ!」
「いや、ここが何処かも分らないし、そもそも僕達が持っているお金が使えるかどうかも」
「そうだけど、物々交換とか何でも良いから何としてでも買いたいの!」
店の前で騒いでる俺達を囲うように人だかりが出来始めている。
騒ぎを聞いてか何やら警備らしき人もやって来た。
こりゃそろそろ移動した方が良さそうだな。
「レオ、無理やりで良いからリーナ引っ張ってけ。ちょっと移動するぞ」
エイミーの手を引いて人混みの中を分けて進んで行く。レオもリーナを連れて後を追う。
ひとまず何処か落ち着ける場所に行くか。
人混みを抜けて人気の少ない公園に辿り着く。
公園に設置されている時計は9時半を示していた。
「ぶっちゃけこれって何が起きたと思う?」
公園の椅子に座ってリーナが状況の整理を行っていく。
「一応アンタの世界ではないのよね?魔法使ってるし」
「そうだな、物も何と言うか俺の居た世界よりは古い感じかな」
「ちなみに移動した時の感覚はアタシ達の世界に来た時とは似てた?」
移動の感覚か……
「うーん、いや違うかな……あの時は引きずり込まれるって感じだったのが、今回は突然光って出てって感じだし」
あの謎の空間を通って世界を渡った感覚とは、今回の謎の移動は大分違った雰囲気であった。
そもそも今回の移動は魔方陣が展開していた事からも、恐らく誰かが何らかの魔法を使って俺たちを移動させたんだろう。
「僕とリョウが聞いた女性の声、あの声の人が多分僕達をここに連れてきたんだとは思うけど……」
「呼んだ割にはその後の扱いが雑な気がするわね。ここが何処だか分りもしないし、呼んだ相手も見当たらないし」
皆して「うーん」と頭を捻るも答えは浮かんで来ない。
考えていると公園に設置されているゴミ箱が目に入った。
ゴミ箱の中を見て探ってみる。
「なーにやってんの」
ゴミ箱を漁る俺にリーナが呆れた声を掛ける。
「いや、こういうゴミ箱には大体……あった」
取り出したのはこの世界の新聞紙だ。
「ロメアタイム?ここの情報誌でしょうか」
エイミーが持って来た新聞の文字を読んでいく。
話す言葉と同じく、文字も問題なく読めるようだ。
「これなら何かしら情報が書いてあるだろうし、読んでみようぜ」
新聞の内容を読んでいく。リーナは新聞に掲載されている写真に興奮していたが、それは置いておこう。
読んでいった結果分った事はこの国の名前がロメアと言う事、レオ達の世界と同じく魔物が居て時折問題になっている事、レオ達の世界よりも魔法的にも科学的にも発展している世界だという事。
その三つは少なくとも読んでいって分った。
「俺は聞いた事ないけど、ロメアって国の名前はそっちでは?」
「いえ、そのような名前の国は私が知っている限りでは聞いたことはありません」
情報は増えはしたが、現状を打破出来るような情報は手に入らなかったか。
「この建国記念日って書いてある所に映っている城に見覚えない?」
レオが聞いてきた。
明日建国記念の式典があるのだと言う記事が書かれている。
そこにある写真を見てみると、とても美しく大きな城の写真が目に入った。
見覚え……見覚えは無い。しかし、何処か一つ頭の中で引っかかる物がある。
「あの朽ちていた城か……?」
俺の言葉にレオが頷いた。
「僕もあの城の事を思い出した。写真の城とは見た目に面影がないように思うけど、何か気になる」
一度気にするとどうもこの城が気になっていく。
そうだ、ここに来る前に持っていた情報は「朽ちた城がある島に誰かが呼んでいる」と言う情報だけなんだ。これを元に探索した方が良いだろう。
「よし、この城に行ってみよう」
方針を固めて出発する。
俺とレオの剣はマントにくるんで隠し、防具は手に持ち移動して行く。
やはりそれでも目立ってしまっている気がするが、装備したまま歩くよりは大分ましだろう。
人に道を聞き、しばらく歩いた所に大きな門と城が見えてきた。
恐らくは観光目的の人なのだろう。周囲は人で溢れかえっている。
「これは近づくだけでも一苦労しそうね」
遠巻きに人々を見てリーナがぼやく。
「レオはあの城を見てどう思う?」
「やっぱり何かが気になる」
「だよな」
実際に見てみても、やはり頭に浮かぶ城とは似ても似つかない。
果たして目の前にある城が朽ちたところで、頭に浮かぶ光景にはなるようにも思えない。
しかし、どうもあの城に呼ばれている気がする。
「どうしましょう?説明によると敷地内に入るには事前予約が必要だと書いてありますし」
エイミーが係りの人が配っていたパンフレットを見ている。
「式典が明日に控えていて、今から城に入ろうというのは難しいかと」
エイミーからパンフレットを受け取り中を見てみる。
確かに入場には予約が必要のようだ。
一応記念式典の際は自由に入れると書いてあるが、前日でこの人の数だ、式典当日は更に人の数が増える事だろう。
「城の中は見てみたいけど、これはどうするかな」
「警備ぶっ倒して侵入してみる?」
リーナが物騒な提案を出した。
「普通に返り討ちにあって捕まるだけじゃないかな?」
「そうかもしれないけど、他に方法も考え付かないし」
まぁ確かにそうと言えばそうなんだが、何も分らない土地で突然犯罪者になるのはちょっとな……
「とりあえず何処か宿を探して食事を取りませんか?お金が使えるかは分りませんが、何か換金出来るものもあるかもしれませんし」
「そうだな、拠点は構えておいた方が良いかもな」
エイミーの意見に賛成する。レオとリーナも「そうしよう」と頷いた。
お金に関しては持っていた金貨を換金する事が出来たので、何とか問題なく済んだ。
遅めの昼飯を食べて、宿を確保する。
やはりと言うかリーナがテレビを買いたいとレオに駄々を捏ねたが、なんとかレオがリーナを説得した。
「しっかしこれからどうするか」
宿も確保した所で散策を再開する。
これと言った目的も無く四人で街を歩いて行く。
見慣れぬ世界としての発見はあるのだが、元の世界に戻る方法も、聞こえていた声の主も分らない。
夕方になり日も沈み始めている。
人で賑わっていた通りも帰る人が多くなっているようだ。
街の様相が変わり始めてきた頃、空に膨大な魔力を感じた。
周りの人も含めて一斉に空を見る。
街を覆うような魔方陣がそこにはあった。
「これは、あの時の!」
そうだ、今まで気が付かなかった。
あのパニックの中で薄っすらとした幻影をハッキリとは見ていなかったからだ。
俺達が今いる場所は、あの幻影で映っていた世界だ!
ならばこの後に起る事も分っていた。
反射的に防壁を張り、エイミーを守るように覆いかぶさる。
空から破滅の光が降り注いだ。
四人で張った防壁はいとも容易く溶け消え、何かをする事も何かを思う事も出来ず、俺という存在はこの世から亡くなった。
目が覚めると何処かの路地裏で全員倒れこんでいた。
起き上がり周りを見渡すと晴れたとても良い天気と、街の賑やかな声が聞こえてくる。
「ここは何処だ?」
俺の声に他の皆も起き始めた。
「うー、なんかリアルな夢を見た気分……」
「先程光が空から落ちて……それから……」
「僕達って街道を歩いて居たよね?」
皆して状況の飲めない頭を振って起き上がる。
全員が「はっ」となり、一斉に状況を理解した。
路地を駆け出て街道に出る。
そこには見覚えのある人の多い車が通る道があった。
記憶とまったく違わぬ風景がそこにはある。
近くの店に目を向けると、テレビで化粧品のCMが行われていた。
「「「「えーーーー!!?」」」」
戻ってきた破壊された筈の世界に全員が驚きの声を上げた。
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