7-1 海の見える街
俺達は馬車に揺られて道を行っている。
先日の告白騒ぎはリーナが返事保留と言う形で決着が付いた。
「あんな勢い任せで、突然で、ムードもなくて、必死な告白は絶対いや!待ってるから、もう一回改めてアタシに告白しに来なさい!」
そうリーナが顔を真っ赤にさせながらレオの告白を突っぱねていた。
「わかった、待っていて欲しい。絶対にまた伝えるから、その時にもう一度キスをしよう」
真剣な顔でレオがそれに答えている。リーナが更に顔を赤くしながら「フンッ!」と腕を組み顔を背けた。
なんともまぁ言うようになったもんだ。
ロンザリア達が居た洞窟は俺達が伝えたその日から捜索が行われていた。
捕まっていた人々は全員救出されるも、精神汚染が激しく復帰には時間が掛かるとの事だ。
洞窟では何かを製造していたのだろうが、設備の大部分が何者かの手によって破壊されており、作られていたであろう物は発見する事は出来なかった。
しかし、一つだけ見つけられたものがあった。
それは今俺達が持っている呪いを発生させる円盤状の道具だ。
俺達も捜索に参加した時に俺が気付き見つけたもので、軍に渡すのなら事情の知る人が持って行くのが良いとシルヴィオ市長が俺達に預けている。
シルヴィオ市長は街を救ってくれたお礼も含めてと、多額の報奨金に軍への紹介状やバルレッタまでの船のチケット、さらに港町ヴィエステまでの馬車まで貸してくれると大盤振る舞いで送り出してくれた。
そんなこんなで俺達は残りの旅路をゆったりと馬車の中で過ごしている。
馬車に揺られて旅の思い出を語らい、町を一つ経由し港町へと向かう。
風に潮の香りが混ざってきた。
「よーし、出来た!」
裁縫を続けていたリーナが声を上げた。
立ち上がり出来上がったマントをこちらに掲げる。
「どーよこの出来。我ながら完璧ね」
赤い生地に金色の刺繍で太陽等の紋様が描かれている。夜空を思わせるリーナのマントとは違い、とても派手なマントだ。
「すげぇ……これ、俺のなんだよな?」
「そうよ~ほらほら、着てみなさいって」
言われて嬉々として身に着けてみる。
リーナの体を覆うタイプのマントでは無く、肩口までの前面が開いた形となっている。
「とてもお似合いだと思います」
自分がどんな見た目だろうと体を捻り見ていると、エイミーが手を合わせて褒めてくれた。
お世辞かもしれないが、女の子に褒められると嬉しい。
「アンタは近距離でも戦うから、手の邪魔に極力ならないようにしておいたわ。レオとか他の剣士の人みたいにインナー式でも良かったんだけど、アンタはどちらかと言うと魔法寄りだからこの形ね。その分アタシの持ってる技術はトコトン突っ込んだから性能には期待してなさい」
「着けてるだけで魔法が強化させるんだよな?」
「そうね、魔力の強化に魔方陣作成の補助、後は自身の防壁を相手の攻撃に合わせて自動発動とかも付けておいたわ。後でレオとでも戦ってみて性能は確かめてみなさい」
「よっしゃ、今日こそは目に物見せてやるぜ」
「ああ、楽しみにしてるよ」
レオがこちらに爽やかな余裕の笑顔を見せてくる。
今度こそはマジでその鼻を明かしてやるからな。
「皆さーん、そろそろヴィエステに着きますよー」
御者がこちらに呼びかけてくれた。
皆してぞろぞろと馬車から外へと顔を覗かせる。
正面に大きな街と海が広がっていた。
「おー!あれが海なんだ」
「さっきから変な匂いがすると思ってたけど、これが海の匂いってやつなのね」
「凄いです、本当に視界の端まで全部水なんですね」
三人とも目の前にある海にとても興奮していた。
内陸の方の生まれで、特に遠出もしていないしで、海という物は知ってはいても本物を見るのは初めてなのだろう。
街の前に着き、御者の方にお礼を言って街の中へと入っていった。
前の鉱山の麓の街も大きく賑わっては居たが、それ以上の大きさの街だ。
物資や人が行き交う中継地、至る所に人と物が溢れている。
ここまで賑やかだと何か祭りでもやってるのではないかと思いたくなってくるほどの賑わい方だ。
「よーし、それじゃあアタシ達の乗る船はまだ3日後の予定だし、お金もたんまりあるし、今日明日と遊ぶわよ!」
「「「おー!」」」
ここを過ぎたら旅の終着地だ、目一杯楽しもう。
その日一日は買い物と観光で時間を全部費やしていく。
ちょっと先の事を考えてないのではと思うぐらいに女性陣は私服だったり、色々な小物を買っているが、帰り道など本当に大丈夫なのだろうか。
夜はこの街一番だというレストランに入り豪華な料理を楽しみ、宿へと戻って充実感に浸りながら眠りについた。
日も変わり、俺達は海で泳ごうと水着を買って海岸に来ている。
俺とレオは悩んでいる女性陣から先に行っておいてと言われたので、一足先に海へと走った。
「いやっふーー!!」
砂浜を蹴り出し海へと飛び込む。天気も良いし最高の気分だ。
「うっ、げほっげほっ!」
飛び込んだ後ろでレオがなにやら咳き込んでいる。
「なにやってんだよ」
「いや、本当に海の水ってしょっぱいのかなって飲んだら、思った以上だった」
「うえー」と顔をしかめてレオが答えた。
「本当になにやってんだか」
思わず笑ってしまう。
「確かめたかったんだ、そこまで笑う事はないだろ」
そうは言うがレオも笑う俺に釣られて笑い始めた。
「よっしゃ、マジで海には慣れてないみたいだな。じゃあ泳ぎで対決しようぜ。えーと・・・ゴールはどうするか」
今ならレオ相手にも勝てるのではと勝負を仕掛ける。
「一度向こうに泳いで浅瀬までって形で良いんじゃない?」
「そうだな。そうすっか」
俺が頷くとスイーッとレオが泳いでいった。
「お前海は初めてじゃないのか!?」
「別に海には来た事が無くても、川や池で泳ぎは慣れてるよ」
答えて結構な速さを出して泳いでいく。
くっそ、負けてられるか!
水泳勝負は中々に白熱した戦いになった。
勝負は次が五本目、最初二連勝からの二連敗、負け越しは避けたい。
次の勝負へと向かおうと二人して泳ごうとした時、後ろか声を掛けられた。
「あっいたいた。お~い、レオ~、リョウ~、お待たせ~」
呼ばれ振り返った。
あぁ……何て素晴らしいんだ……
水着を買いに行ったときにこの事は解っていた……でもなんて素晴らしいんだ……
神よ……いや、本当に居るらしいからそれじゃなく、なんか別の神よ……ビキニをこの世界にも作り出したことを感謝いたします……
リーナとエイミーはビキニ水着姿で立っていた。
堂々と立って眩しい肢体を晒しているリーナと、パレオも身に付け恥ずかしそうに後ろに隠れてるエイミーの反応の違いもまた素晴らしい。
やべぇ……冗談じゃなく鼻血出そう。
「海で着る水着ってこんな形なのね。最初はビックリしたけど他の人は普通にこれで歩いてるし、アタシも慣れちゃったわ。ほらエイミーも後ろに隠れてないで」
もじもじとしながらエイミーがリーナに押されて前に出た。
「あ、あの……リョウさん、どうですか?」
思わず座り込み、頭を下げて拝んだ。
「なによそれ」
「いや、あまりの神々しさに思わず」
リーナのツッコミに頭を上げて答えると、エイミーが腰を下ろし目線を合わせてにっこりと笑った。
「喜んでもらえたようでなによりです」
脚に大きく実った胸が潰されている。
見るなと言う方がこれは酷な話だ。だが、見るな。耐えるんだ!
それでも完全に目が不審な動きをしている事に気がつき、エイミーの顔が少し赤くなった。
「で、アンタは何か言う事無いの?」
リーナが固まっているレオの顔の前で手を振る。
それでもレオは完全に固まったまま動かない。
ため息をつき、砂場へと手をやり、砂を振りかぶりレオの顔に投げつけた。
砂に咳き込み、ようやくレオが戻ってくる。
「感想は?」
聞かれレオの顔が赤くなっていく。
「すごく、似合ってる」
その言葉を聞いてリーナの顔も赤くなった。
「そっ、それは良かったわ!アンタの為に選んだんだからね、ちゃんと目に焼き付けなさい!」
レオがぶんぶんと頭を縦に振る。
「あーっもう、早く遊ぶわよ!リョウ!アンタは海に来たことあるんでしょ?何か良いものないの?」
「えーっと、スイカ割とか、向こうでやってるようなビーチバレーとかかな」
「スイカは探してあるかは知らないけど、ボールは向こうで貸し出しの看板が出てたわね。後はあの波乗りもやってみたいわ。よし、今日で全部満喫するわよ!」
テンションが上がっていくリーナを先頭に、海でのバケーションが始まった。
遊びまわった後、昼時の時間になったので俺とレオは海辺に作られている屋台に昼飯を買いに行った。
戻るとリーナとエイミーが水際で水の掛け合いをしている。
「いやー、なんかさ、この光景だけでも海に来て良かったと思うよな」
「うん」
俺の言葉に深くレオが頷いた。
このまま眺めて居たいが、二人を呼んで昼飯としますか。
「おーい」と呼びかけたその時、大きく地面が揺れた。
なんだ?と疑問が起こる前に辺り一面の風景が一変した。
いや、辺りは海岸のままだ。しかし、それに重なるように半透明の大きな街が広がっている。
今まで海だった場所に半透明の家が、人が、幾つも見える。
周囲は突然の現象に騒然となっている。
だが、俺とレオにはその騒ぎは聞こえなかった。
頭の中で幾つのもの人の声が響いていたからだ。
「今日ってなにか予定ある?」「すみませんこれ一つ下さい」「王女様の演説楽しみだな」「あーそこのやつは向こうの倉庫に持っていってくれ」「いらっしゃいませー」「おかーさんただいまー」
多種多様な人々の何気ない会話が頭の中を駆け巡っていく。
なんだ……これは……
頭を抑えて倒れこむ俺達にリーナとエイミーが駆け寄り声を掛けるが、何も聞き取れない。
周りの光景は街に居る人全員が気付いていたが、声が聞こえるのは俺とレオだけだった。
響く雑多な声が一つの事を喋り始める。
「なんだ!?あれはなんだ!?あの上空の光はなんだ!?」
人によって言い方は違っても、響く声全てがそれを示していた。
声のままに空を見上げる。声が聞こえていない人も、全てがそれに気が付いた。
空を覆うように巨大な魔方陣が幾つも作り出されている。
魔方陣が瞬いた。
破滅の光が降り注ぎ、街を、人を、飲み込み消滅させる。
人々の死の慟哭が頭の中で弾けた。
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