鰐梨

作者 黄間友香

就活は戦争だ。

  • ★★ Very Good!!

私は文学の分類には詳しくないのですが、日本においては個人の心情をつづった小説が純文学とジャンル分けされていたことが多かったようです。私小説ともいいます。
そういった意味ではこれも純文学に属する作品なのかもしれません。

胃の痛みに慣れるほど、就職活動に神経をすり減らしていた私は、ある夜奇妙な夢を見ます。夢と言うのはだいたいいつも奇妙なもの、とあったのはカフカの変身でしたっけ。
体の中から押される感覚。何かが外へ出てこようとしているようです。痛みに耐えていると、指先からふと小さな花が顔を出しました。「なんだ」彼女は声に出します。耐え抜いた痛みにくらべると、花がとてもちっぽけに思えたのです。

花の出現で驚いたのもつかの間、痛みは一層激しさを増し、体を突き破らんばかりです。この激しい描写は、内側の変容を意味しているのかなと思いました。
やがて花は実をつけます。まだ熟さない黄緑の鰐梨(アボカド)。彼女はそれを引き抜いてしまいます。若く青臭い実。「なんだ」彼女はまたもや落胆します。

目覚めると胃痛は引いていました。なぜか清々しい気持ちで朝食を胃に収め、面接へ向かいます。

でもいざ会場へ向かってみると、やはり胃は痛むのです。私は朝口にしたカツが効いたのだと思うのですが―――、緊張もあるのかもしれません。胃腸が弱っているときは温かく消化によいものを食べるといいですよ。話が逸れました。主人公には面接官の反応は冷たく見え、うまくいかない、と感じているようです。

ふと、面接の中で、なぜか面接官は「あなたが最近見た夢は」と尋ねます。主人公はそこでさっきの夢を解釈する。「そうですか」と相手は答え
、主人公はひらめいた一言をのみこみ、以降は比較的冷静に面接に挑むことができたようでした。

最後に彼女はもう一度「なんだ」と呟いたあと、のみこんだ一言を口にします。


私はこの小説を、社会との折り合いをつけようとする若者の変化を描いたものだと思いました。変化には痛みが伴います。物語の中で、若いまま摘まれた実は何を暗示しているのでしょうか。ひとりの青年が、大きくて得体のしれない世の中と向き合おうとするとき、違和感や痛みに飲み込まれそうになることもあるのかもしれません。それを制御しようとする、同時に制御されているようだとも感じている。誠実に現実と向き合っている、向き合おうとしている。ひとつの人格を描いた作品だと思います。

私は好きです。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

阿瀬みちさんの他のおすすめレビュー 235