イリヤの空、UFOの夏

作者 秋山瑞人/電撃文庫

秋山瑞人という魔法使い

  • ★★★ Excellent!!!

白い手を引いて夏の道を歩いた。南を目指したのは、死に逝く夏を追いかけようとしていたからだ 。
――『イリヤの空、UFOの夏 その4』275P


夜の校舎のかびっぽい匂い。塩素の突くような匂い。セミの死体のかすかに香ばしい匂い。バス停の鉄臭い匂い。夕焼けに炙られた丘の上の草っぱらの匂い。中華飯店の汗と油の匂い。線路の間に敷き詰められた砂利から香る土と砂の匂い。遠い遠い海の匂い。すべての夏の匂い。文章で書かれているはずなのに、どうしてそんなものを確かに感じるのでしょうか。

ご存知の通り、文章という形式には、魔法が秘められています。他のどのような表現形式にも代えることの出来ない、とびきりの魔法が。

「俺が死んだらこの作品を墓に入れてくれ」
カクヨムでの掲載というニュースを聞いて、今も交友の続いている友人がかつてそう言ったことを思い出しました。この作品とは無論、『イリヤの空、UFOの夏』のことです。もう10年以上前の出来事です。

彼に「今でも『イリヤの空』を墓に入れてほしいか」と尋ねました。彼はにやっとして、それから30を迎えた成人男性とは思えないほど、きらきらした眼で、こう答えました。
「あたりまえじゃないか」と。

秋山瑞人は、21世紀の日本で、最高の魔法使いです。
僕は今でもそう認識しています。

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