正しい原チャリの盗み方・前編 8/12

 無線で確認を取った。


「どうやら、」


 えのもとがつぶやく。楽しそうだった。


「おれたちのあずかり知らねえところで巨大なインボーが進行している案配になってきたな」


「予想すべき事態ではあったかも」


 しいが指摘する。


「確かあなたから聞いたのよね、夏休みに殿とのやまの中腹から第四エプロンをかんしてる二人組がいたって。その二人組、浅羽くんと水前寺くんだったんでしょ?」


「しっかし水前寺『くん』ってガラじゃねえぞありゃ。あいつほんとは二十八くらいじゃないのか? あのガタイで何が中学生一枚だずーずーしい、おれがチケットの売り子だったら絶対信用しねえ」


「ひど。実は本人ひそかに気にしてるのかもよ」


 榎本はバリバリと頭をいて散々にフケを散らした。実はもう三日に入っていない。


「──いや、半分はめてる。オツムの中身はすりや今日びの二十八じゃきかない。進路希望調査表に『CIA』って本気で書いて職員室を混乱に陥れたらしいなあいつ。やめときゃいいのにCIAなんて」


「うちよりマシよ。進路指導では何よりまず本人の希望を尊重しなきゃ。ところでさ、」


「あ?」


「どうして排除しなかったの? あの二人が殿山に陣取ってたとき」


 榎本はまさに下等生物を見る目つきをした。


「これだもんな女は」


「なにそれ」


「お前よくそんなヤボが言えるな。いいか、裏山の秘密基地だぞ。なぞの渦巻くそのはら基地をひと夏かけて監視すんだぞ。近くの畑にスイカ盗みに行ったり盛ってるアベックの車にばくちく投げたり野生のタヌキをけしたりとイベントだって目白押しなんだぞ」


「あ、あのふたりそんなことしてたの?」


「おれも混ぜてほしいくらいだった。白状すると八月の頭くらいについに我慢できなくなってな、本気で混ぜてもらいに行こうとしたんだがむらのアホに止められた」


「──いいですもうわたし女で。そしてアホで」


 そこでしいは再び真顔になって、


「でも、やばくなかったの? 確かにすいぜんくん鋭いところあるかもね、第四エプロンなんて目の付けどころ抜群じゃない。写真やビデオ撮られたらどうするつもりだったのよ」


「そのへんに抜かりない。だいたいお前、一体なんのためにあのころタイコンデロガが岬沖にいたと思ってんだ」


「──ちょ。ちょっと待って、どういうこと?」


「ああ、ただ、七月の終わりにいっぺんだけ、ミサイルキャリアをきんきゆうで第四に降ろしたな。明け方だったし、あいつら気がつかなかったみたいだが」


「あ、あんたまさか、あのふたりのためだけに空母呼んだの!?」


「ああ呼んだね。そしてマンタのソーティー全部そっちに移したね」


鹿じゃないの!? あんたやっぱおかしいわ絶対!!」


「──けどまあ、」


 すいがぶり返してきたのか、えのもとの声から力が抜けた。座席にもたれて目を閉じる。


「あのころ、スカンクの連中からトーチのテストやりたいとかって話が来てたしな。あのふたりが殿とのやまにいなかったらその話ったかもしれん──ってのがまあ、ほんとのところではあるんだけどな」


「トーチって何?」


 榎本がうすく目を開けた。


「なんだっけな、正式名称は忘れた。マンタを超高空から空母めがけて降ろすためのナビゲーションデバイスか何かで、あんときのは──その改良型の発展型のバグフィックス版、とか、何かそんなだった。忘れてもいいようなシロモノだったってことだけはよくおぼえてる」


「スカンクって最近そんなんばっかりよね」


「けどマンタ作ったのもやつらだぞ」


ちゃんかわいそう。いいモルモットじゃない」


 榎本が細いため息をついた。椎名真由美には「何をいまさら」と言われたように思えた。そのとき無線機が『かじわらです』と名乗り、榎本はいかにも身体からだむち打つ感じで身を起こして、


「どうした」


『──あの、いい感じになったら知らせろ、とのことでしたので。一応』


 そういやさっきおれそんなこと言ったな、と榎本は思う。あさゆうと水前寺くにひろの乱入で少々浮かれていたと思う。完全な断眠ハイだ。


 が、椎名真由美の目がぎらりとかがやいた。榎本から無線機を奪い取り、


「いい感じってどんな感じ!?」


『いや、ですから頭をですね、肩にこう、』


「入れる!?」


 無線の向こう側でかじわらが苦笑する気配がした。


『──いいですけど。西側の裏口を確保させます』


 しいがいそいそとシートベルトを外すのを見て、えのもとがぽつりと、


「やめとけ」


「どうして?」


「気づかれたらおじゃんだ」


「大丈夫よ!」


ほかが気づかなくてもが気づくぞ。それであいつが発作的に世をはかなんで校舎の屋根から身投げでもしたらお前に下で受け止めさせるぞ」


「だってあんた見たくないの!?」


 榎本は、疲れきったように座席にもたれていた。やがて、


「見たい」

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