第68話・長谷寺先生

 長谷寺がこれから何をするのか、高山以外の2Dの生徒たちは注目している。柔らかな笑みを浮かべ、腰を抜かしている生徒たちの前でかがんだ長谷寺の、豊かな闇色の髪がゆらりと揺れた。彼は真っ先に暴行を受けていた生徒の手首を掴むと、ひょいと後ろへ向かって少年の身体を放り投げる。少年の驚きの声が少し聞こえたが、コンクリートに打ち付けられる音はしなかった。いつでもこうなって良いように、高山は長谷寺の後ろのほうでのんびりウロウロとしていたのだ。流石のコンビだと黒腕は感激していたが、2Dの生徒たちは[教師がそれで良いのか]といった感想をいだいた。


「拷問、楽しい?僕のトモダチはね、拷問の楽しさについてよくこう言ってるんだよー」


 彼の言う[トモダチ]は、拷問好きな時点で尋常でない異様さを持つ者に違いないと、誰もが思った。そこにツッコミを入れられる人物はこの場では高山だけだが、そもそも彼は、長谷寺の言葉をさえぎろうなどとは小指の先程も思いはしていない。不良生徒たち向かって、教師は口を開く。


「首は最後のお楽しみ、はじめは死なない部分を少しずつすり潰す、ぜーんぶ潰したら、少しずつ切り落としてく、死ねない薬を注射して、首だけになるまで丁寧に切ってく、首だけになったら、脳みそを潰す、そのあとは瓶詰めにして飾ってもいいし、誰かに売り飛ばしてもいいし、誰かに送り付けてもいい。ぜんぶ、スゴく楽しいんだって、よく話してくれるんだー」


 まるで、その拷問の場に居るように感じてしまった一同から、サーッと血の気が引いていく様子が見られる。高山は彼がいま話している[トモダチ]が、一体誰を指しているのか記憶を辿り、あっという間に思い出した。喰闇鬼一族暗殺部隊の別働隊・抜刀隊副隊長の魅夜乃みやのだ、長谷寺が語った拷問の内容は、彼女がどんな拷問方法よりも好んで使うもの。長谷寺は、更に楽しそうにわらって言葉を続けた。


「で、さっきのは、あのボウヤに拷問をしてたってコトっぽいけどー、センセーとしてはキミ達に注意をしなきゃいけないと思うんだよねー」


 この場にいる全員が、彼は自分が教師である自覚は持っているのだと初めて知って唖然とした。やり方は滅茶苦茶であるが、長谷寺は確かに生徒たちを大切に思っている事が垣間かいま見える場面は何度かあった。そんな彼が少年たちに対して二つの選択肢を提示した、一つは暴行された少年と同じ目に合うこと、一つは少年に土下座をして謝り今後この様な拷問をしないと誓うこと、一つ目の条件は、教師として有るまじきモノだったし、二つ目の条件のほうが圧倒的に楽なのは明白だったが、少年たちが持つプライドがそれを選ぶことに耐えられなかった。だから、長谷寺の単純な思考回路を知らない彼等は震えながらも一つ目を選んだ。


なんの他意もなく教師は頷いて、取り敢えず全員まとめて一蹴りすれば痛みも分かるだろうと立ち上がり、長いあしを振り上げる。生徒たちが見守る中、予備動作のないそれに高山が反応した。くうを切る猛烈な音がした次の瞬間に聞こえたのは、何か大きな物が崩れるような轟音だ。生徒たちは我が目を疑った、フェンスが一部綺麗に切り取られて無くなり、少し手前を見れば校舎の角が削り取られたようにゴッソリと崩れ落ちていた。何が起こったのか理解が追いつかなかったが、少年たちは恐る恐る校舎の状態を視界に入れて、次に目の前の教師を見上げた、彼等を守るように長谷寺の蹴りを腕で受け止めていたのが、高山だ。彼が居なければ、少年たちの身体は文字通りミンチと化していただろう。恐怖に支配されているその場にそぐわない声音こわねで、高山は優しく長谷寺に注意をした。


「あのねぇ…紫陽花、キミがそれやると、この子たちミンチ肉になっちゃうよ?死んじゃうんだからね?」


「そうなの?いっつも首だけ切り落としてたから知らなかった。ごめんねぇ〜?」





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