第7話

 機体は損傷を受けているにも関わらず問題なく飛行している。

 雲がちらほらとあるが周辺警戒の邪魔になるほどではなく、味方の姿はないが敵の姿もない。だが、機体は飛べば飛ぶほど燃料を消費する。もちろん、燃料は爆弾や魚雷を積んでも空母まで問題なく帰投できるように余裕をもたせて積んできているが、燃料漏れをわずかでも起こしていると空母まで飛べないかもしれない。

 そうなると海上への着水しかないわけだが、できるだけ味方の艦船や航空機が通る場所、せめて無人島や海の浅い場所に降りて漂流は避けたい。

 思い出せるだけどのように飛行してきたか思い出して、できるだけ空母に近づくべく方位は修正したが不安は拭いきれず、海上に艦船の姿はないか探すのに必死になっていた私は機体上方の警戒を疎かにしてしまっていた。


 突然、力の限り機体を叩く音がして緊張が走る。後ろの仲間が何か見つけたらしい。だが、海上には何もない。

 上方を見れば少し傾き始めた太陽を背に機体が向かってくるのが見える。

 火に包まれる僚機を思い出して、向かってくる機体が敵だと頭は叫ぶ。敵ならば逃げなければならないが、後部機銃と機銃手は戦えるのだろうか。私自身は防弾板によって後ろからの攻撃にはある程度耐えられるが、後ろの二人はそうはいかない。無事でも負傷しているだろうし、機関銃が故障しているかもしれない。

 このまま下手に飛行すれば敵に味方の空母の位置を教えてしまう可能性もある。それだけはどうしても避けたい。ならばここで着水すべきか。


 その間にも向かってくる機体の影は大きくなり機関銃を撃ってくる距離まで近づいてきたが、その機体はそこで太陽を背に飛ぶのをやめてこちらに並ぶように近づいてきた。

 見れば、味方のF4Fワイルドキャットではないか。細長い機体が多い日本軍機と違って、機体全体のバランスがそうさせるのか胴体が膨らんでみえるこの機体をなぜ頭は敵機と判断したのだろう。

 緊張が緩んだ途端に少し疲れを感じてしまった。この機体は護衛役のF4Fでも空母の防衛にあたるF4Fでもないが、記憶が確かなら私たちが作戦を行うために前もって周囲の警戒を行う空母より小さな護衛空母がいたはずだ。そこの機体だろう。

 味方のF4Fは全部で4機確認でき、うち1機のパイロットが心配そうにこちらの様子を右側から見ている。そこで私が挨拶がわりに右手を上げると相手も返事をしてくれた。その後左手で何か仕草をしている。どうやら空母か護衛空母まで案内してくれるらしい。

 笑顔でお礼と案内のお願いをすべくグッドサインと敬礼をすると、相手のパイロットも安心したのか笑顔を返してくれた。

 味方のF4Fは私の機体を守るように飛行してくれている。とても心強い。


 だが……、今後は私の記憶と勘を信じるのは危険だなと苦笑いをこぼす。なにせ、後方の空母を目指すつもりがより敵に近い最前線を航行する護衛空母のいる方角へ飛んでしまっていたのだ。一歩間違えればその先は何もない太平洋のど真ん中でサメと魚たちのご馳走になるところだった。

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