第152話 少年、思考
――テネシンは思考していた。否、計算していた。
どこから狙撃すれば、この弾が的確に相手の腹を貫ける?
――いや、そもそもどうして腹なんだ?
殺そうとするのなら、心臓など致命傷になりやすいところを狙うべきだろう。それを、わざわざ腹を狙った理由とは――。
テネシンは、思考した。脳を最高速度で回転させた――ところに、雑音が混じる。
「ねーねー、早くしてくれる?」
魔獣の頭を潰しながら話しかけるルミナの言葉に、テネシンは一度思考を止めかける――しかし、何も答えずに考え続けた。
だが、雑音はさらに大きくなっていった。
「早くしないと、犯人が逃げちゃうじゃん!」
「マジこの化け物倒し続けるのもヤバいんだから……早くして!」
仲間たちからの急かす声に、テネシンは思わずかっとなって、怒鳴った。
「うるさい! 黙れ!」
このままじゃ答えを導き出せないじゃないか――言おうとして、彼ははっとした。
――彼女らを傷つけてしまった。偉そうに怒鳴りつけてしまった。
彼は、うつむいて、それから地面に額をつけた。
「……申し訳ございません」
「どうして土下座なんてしてるの?」
「…………」
思考は完全に停止した。
彼は半ば放心状態で、ナイフを取り出した。それを、自らの首にあてがう。
「皆さんの期待に沿えずに、すみません。僕みたいな人間など、必要ないですよね」
「どうしてそうなるのかな?」
ルミナが問う。
「誰にだって、失敗はあるし。ちょっと怒鳴られたくらい、私たち全然気にしてないよ? ちょっと急かしすぎちゃったのはむしろ私たちの反省案件だわ。メンゴメンゴ」
「……でも」
「『でも』も『なんで』もない! とにかく、私たちにはあなたが必要! だから今は死ぬな! それだけ!」
そういいながら魔獣を殴り飛ばす、目の前のどこまでもポジティブな少女に、孤独だった少年は小さく頷いて微笑んだ。
「というか、狙いがずれちゃうのも日常茶飯事だし!」
――その言葉を聞いた瞬間、彼の脳は思考を再開した。
「ルミナ、今の言葉もう一度言ってみてくれますか?」
「え、日常茶飯事……」
「その前、です」
「……狙いがずれちゃう」
「それだ」
「は?」
――何故それに気がつかなかったんだ。
心臓を狙おうとしてずれたのならば――辻褄が、合うのである。
「位置は二つに絞られた、なのです」
「本当!?」
テネシンはこくりと頷いて、口角を上げた。
「いきましょう。まずは、ここから南方にある、旧学園本部棟のビルです」
そのとき、レニウムが一枚の紙をテネシンに渡す。
「デストロイヤー先生、これは……」
「デストロイヤーじゃないが……通信魔術を書いた紙だ。いざというときに使え」
「はい。ありがたくいただきます」
「……犯人を捕まえて来い。わかったな」
「はい。必ず」
**********
「ねえ、起きてよジュンヤくん!」
アリスは赤く汚れた体で、目の前の、ベッドに横たわる男に呼びかける。
冷たくなった彼は、つぶった目を開けることなく、ただただ沈黙していた。
その様子を、二人の仲間が沈痛な面持ちで見守っていた。
「腹の傷は治したけど、意識は取り戻さないかもしれないね。永遠に」
アリスの、ベッドをはさんだ反対側で、笑顔を崩さずにユウは言う。
傷のなくなった少年の体を見ながら、少女は涙を流した。
「……ジュンヤくん……っ……」
――彼はもうこの世にはいないのだ。
部屋中を沈黙が支配した。
**********
――ここは、どこだ?
彼――いや、俺は口にした。
いや、口にしようとした、と言うべきだろうか。
(声が出ない……)
俺は困惑し……半年近く前にも似たようなことが起こったことを思い出す。
しかし、あの時とは状況が違う。
まず、見えない靄のようなものに体を縛られているようで、うまく体を動かすことが出来ない。
この場所に何故だか正座した状態で現れたとき、体が重くて立ち上がれなかったのだ。どうにか足を崩すことは出来たものの、かれこれ数時間ほどまともに動くことが出来ていない。
さらに、目の前に巨大なスクリーンがあって、みんなの様子が代わる代わる、音声付きで上映されている。
今まで、これを見て退屈をしのいでいたような感じだ。ちなみに今は俺の体を見つめる仲間たちが映し出されている。自分の血まみれの体が仲間たちによって運ばれているのを見たとき、驚愕を超越して唖然としたのを記憶している。
そして今、俺が死んだと思われ、アリスが泣くのを見てようやく状況がつかめてきた。
俺はまた死んで、なぜか魂だけがこの場所に送られたというわけだ。
(って! いつの間にか死んでおるではないか我ェ!)
俺は声高に叫んだ。いや叫べないけど。
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