第151話 狂気の真相
ラジウムは怒りを抱き、叫んだ。
「畜生! 卑しい悪魔め!」
そうして散弾銃を構える彼に、レニウムは言葉の刃を突きつける。
「自分の手は汚さないんじゃなかったのか?」
「状況が変わったのだ。悪魔が目の前に現れた以上、殺さぬわけにはいくまいッ!」
「その銃じゃ弾は届かないと思うのだが?」
「うるさいッ!!」
強引に追及を逃れた彼は、散弾銃の引き金を引く。しかし、弾は発射されない。
「クソッ! 何故だ!」
「……何故そこまで悪魔に恨みを持ってるんだ。専門知識を忘れさせるほどの怒りをお前に抱かせる理由とは、一体――」
「こいつらに! 悪魔に! 故郷を滅ぼされたからだ!!」
問いかけるレニウムに向かって、ラジウムはまくし立てた。
「ああ、思い出した。あの女だ。あの悪魔の女が毎晩のように大人を集めて……男も、女も……。集められた大人の人たちは……次第に働かなくなって――ああ、あの女のやったことが……今ならわかる……。無理やり虜にして、快楽漬けにしやがったんだよ! あのクソメス! そんで……みんなが、まるで魂を奪われたみたいに……働かなくなってから……村はだんだんと貧しくなって……。俺が十二のときに……悪魔が襲ってきたんだよ。悪魔に! みんな! みんな誰も抵抗せずに! 死んだ! 死んだんだよ! 父さんも! 母さんも! みんなみんなみんな死んだ! 抗わずに! 抵抗できない子供たちも! 爺さん婆さんもなァ! ……唯一、俺は父さんの猟銃を持って……逃げて……隠れて……生き延びたのさ。悪魔は! 俺から何もかもを奪ったんだァァァ!」
情緒不安定気味に、狂気を持って語られたそれは、魔獣をなぎ払うリリスの腕を止めるのには十分であった。
「おい、それは――」
おかしいのではないか。言いがかり、あるいは勘違いなのではないか。彼女はそういう風に言おうとする。
悪魔にとって人間は養分。ゆえに、精気を奪うために村人を快楽の沼に誘うまではすれど、精気を吸い尽くし村人を働けない廃人にしてから殺戮するなんてことはありえないはずなのだ。
しかし、目の前の復讐に燃えた狂人には、もはや誰の言葉も届かない。
「うるさい! 悪魔に与するものは皆殺しだ!」
ラジウムは散弾銃に大量の小さな弾が入った握りこぶし大の筒を側面から込め、流れるように引き金を引いた。
高速で拡散する極小のつぶて。それは広範囲に放たれ――魔獣、さらには逃げ切れていない生徒の命までもをあっけなく奪った。
――鉛の粒に打たれながら、リリスは怒りに震えた。
「……悪魔は、お前のほうじゃないか……ッ!」
ラジウムが銃の前方下部を引くと、弾の入っていた筒が飛び出した。その部分からまた新たな筒をいれ、戻す。さらにその筒を銃の本体の下部から込めていく。
――狙うは、淫魔に魅入られ、その力を人を救うため行使する、魔獣を蹴散らしている幼い少女。
そして彼はほくそえんだ。
「死ぬがいい、悪魔どもめ!」
引き金を引く。また、大量虐殺が起こる――その寸前。
「させるか!」
少年――いや、少年のような顔立ちの少女が目の前に現れる。
「だ、誰だ! ――いや、関係あるまい! 死ねッ!!」
引き金が引かれる。しかし――突風が二人の間を吹き抜けた。
それは、放たれた小さなつぶてを生徒のいない方向へと飛ばしたのである。
「お前は――たしか、あいつの……」
レニウムは呟いた。少女は慈悲の微笑で頷き――目の前の、銃を構えた男に宣言した。
「僕は、ノア。小等部、5年。――風の精霊の使い手にして、最強の悪魔の恋人だッ!」
「自らを悪魔の伴侶とまで言うか! この腐れ頭の狂人めッ! 今すぐ死ぬがいい!!」
「腐れ頭の狂人? その言葉、そっくりそのままお前に返す! 復讐に取りつかれた、残酷な殺人鬼め!!」
「馬鹿! よせ、ノア! あいつは――」
各者の想いが入り乱れながら――更なる戦いの号砲が鳴り響いた。
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