平穏・鼓動・告白

第129話 彼の正体


 この日、二人はとある屋敷の前に来ていた。

「ここであってるの? 見た感じ貴族のお屋敷みたいだけど」

「あってるみたいだけど……見るからにヤバい奴だよねここ」

「それな。本当に、ここにあいつが住んでいるのかな」

 彼女らは黒髪の転入生に興味を示していた。そして、偶然にも別の転入生の伝でこの屋敷のことを知り、この日の放課後に招かれたのだった。

 二人がさまよっていると、近くから爆発音。

「きゃッ! 何!?」

 見てみると、すぐそばの道路が陥没している。そして、その穴をはさんで二人の女の子が睨みあっている。

「今日は勝ってみせる!」

「望むところ!」

 そして始まる、人知を超えた大乱闘。

 衝撃波が最新式の“アスファルト”舗装を砕き、魔法の流れ弾は周囲に理不尽な破壊をもたらす。

「何これ……」

「ヤバ……」

 二人は座り込み、抱き合って震えた。

 そのときである。

「そこまでだ」

 別の女の子が現れ、空中で戦ってた女の子の攻撃を二つとも受け止めた。

「今日はやめとけ。お客さんが困っているだろう」

 そう言って金髪の女の子は二人のことを見つめた。


「ようこそ、我が屋敷へ」

『は、はぁ……』

 二人は困惑していた。

 金髪の偉そうな幼女にドヤ顔でそんなことを言われれば、それは困惑するだろう。

「私はリリスだ。ゆっくりとくつろぎたまえ」

 その小さな身体に似合わない尊大な台詞を吐くその金髪幼女。

 そこに一人の男が入ってきた。

「お茶です」

「ありがと……うっ!?」

「どうされましたか……あ」

 紅茶を入れてきたその男こそ、二人が気にしていた黒髪の転校生であった。


「紹介するね~。こっちの茶髪のほうがスズ、赤髪のほうがセレンよ~」

「よろしくお願いします。スズさん、セレンさん」

 そう言って微笑む黒髪の転校生、ジュンヤ。

 スズとセレンは早速、彼に疑問をぶつけた。

「ねえ、ジュンヤ君。君ってもしかして、昨日何か爆発させてた?」

「あと、その前の日に大量の依頼を一気にこなした冒険者がいたらしいんだけど、それってもしかして……?」

「ああ、あれか……。うん。両方とも俺です」

 そう言って彼は苦笑した。

「こう見えても、俺、現役の冒険者なんですよ。というか、この屋敷のメンバーは全員」

 スズとセレンが慌てて、隣に座るチェシャのほうを見ると、彼女は「えへへ~」と言いながら笑った。

「そ、そんな人が、な、なんでうちらの学校に転入したの?」

 スズがおびえながらも質問する。

「このせか……国の歴史や風土なども知っておきたいと思いまして……。国王と交渉して、ここに来ました」

 覚えたい魔法や魔術もあるしね、とジュンヤは笑って答える。すると、スズとセレンは絶句した。

 二人は相談する。

(ヤバい……。予想以上にヤバくない? この人)

(確かに……。そういえばこの前の転入生の中にあのアレーダンジョンの生還者もいるとかって噂だけど……流石にありえないよね?)

(……聞いてみる?)

(気になる……。お願いします!)

(ま、まかせて! がんばりゅ!)

(ちょっ、噛んでる!)

 そうして二人はジュンヤのほうに向き直り、セレンが質問する。

「つっ、つつつつかぬ事をお伺いしますが……!」

「そんなに硬くならなくても……」

「もしかしてアレーダンジョンを完全に踏破しちゃった人って……」

「ああ、俺です」

((ビンゴだった――!!))

 二人は驚愕した。開いた口が塞がらない、とはまさにこのことを言うのだろう。

 目の前ではにかんでいる彼はやはり相当にヤバいらしい。

「ま、まさかこの前の、王都が襲われた事件も!?」

「そのとき獅子奮迅の活躍をしたパーティーって!?」

「俺たちのこと、そんなに噂になってたんですね。照れちゃいます」

「エンテのほうで悪魔が襲ってきた事件も……」

「まさかあなたが……」

「ああ、そんなこともあったな。懐かしいです」

「それじゃあ、あのケーム地方で起きた冒険者の反乱事件も……」

「絶対この人……」

「え? なんですか、それ」

『いやそれは知らんのかい』

 ……何はともあれ、彼はとんでもない経歴を持っていたようだ。


「そういえば、武闘大会、出るの?」

「武闘大会? それってなんですか?」

「毎年恒例の、学園最強を決める戦いのことよ。賞金も出るの」

「へぇ。考えてみます」

 そんな風に話していたところ、ドアが二回、ノックされた。

「どうぞ~」

 チェシャが呼びかけると、入ってきたのは金髪の美しい少女だった。

「あ、お客さんいたんだ。ごめんね」

「いいんだ。お帰り、アリス」

「うん。ただいま!」

 そう言って微笑む彼女をジュンヤは紹介する。

「この子はアリス。俺の仲間……」

「彼女です! よろしく」

「ちょっと待ってくれ。彼女ではないと思うぞ」

「でも仲間よりかは深い関係だと思うよ」

「……とりあえずその話はあとにしよう。彼女らは学校のクラスメイトだ……って、三人とも、なんか面白い物でもあったか?」

 スズ、セレン、そしてチェシャの三人はその様子をニヤニヤしながら見ていた。

 すると、アリスは「ジュンヤくん、ちょっとここから出て行ってくれる?」と頼む。

「なんでだ?」

「なんでも……あっ、そろそろリリスたちも帰ってくるだろうし、お夕飯の準備」

「ああ、そうだった。もうそんな時間か。ありがと」

 ジュンヤはドアを開け、「失礼しました。どうぞごゆっくり」と言って、部屋を出た。

 アリスはそれを確認すると、ゆっくりと口を開いた。

「……ねぇ、あなたたちにちょっとお話があるんだけど、いいかな」

「な、なにかな?」

 チェシャも「あ、ちょっと用事を思い出したから出ていくね~」と言いながら猛スピードで部屋を出ていく。

「ふふふふふ。ジュンヤくんって、本当に……」

 スズとセレンは息を呑み――

「本当に、かっこいいんだよ!」

 ――目を丸くした。

 それから数時間、スズとセレンはアリスの彼氏――もとい片思いの相手ことジュンヤの武勇伝を長々と聞かされたのであった。

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