第124話 決闘と友情


「おはよう、お兄ちゃん」

 挨拶しながら起きてきたノアに、俺は「おはよう」と言って返す。

「友達は出来たか?」

「ま、まあね」

 そう言って濁すノア。

 俺だけは孤独か……、と一人物思いに耽っていたら、ノアが聞いてくる。

「そう言うお兄ちゃんは?」

 ……。

 俺は笑顔で答えた。

「俺に出来ると思うか?」

「思ったからきいたんだけど」

 ああ、うん。認識の違いか。

「……出来てないよ」

 俺は正直に答えた。

「なんか、意外」

「どうしてだ?」

 不思議そうな顔をするノアに俺は問いかける。

「だって、お兄ちゃんって……なんだかんだ、優しいじゃん」

「そうか?」

 自覚はないが、もしもそうなら……優しいだけじゃ足りない、ということか。

 自分で言ってて少しいやになるが、俺は人をひきつける才能は皆無だと思っている。そんな才能があれば、もっとたくさんの仲間がいるのだろう。

 そう考えると、今の暮らしは奇跡なのかもしれない。

「きっと、出来るよ」

 そう言って微笑む目の前の少女も。

 俺はただ一言だけ、言った。

「ノアだって、きっとできるさ」

 ノアは少しだけ驚きつつも、また微笑んだ。


 **********

 

 朝食。

「そういえば~、クラスの女子がね~、ジュンヤのこと~、『ヤバいくらいかっこいい顔してる』って~」

「え? うそだ」

「ほんとだよ~。ジュンヤはもっと自分に自信を持ったほうがいいよ~」

「そ、そうか?」

「……実際そんなにかっこよくないけど~」

「なんだよそれ!」

 そんな、他愛もない会話をしていた。そのときである。

 いきなり、窓が割れた。

 そして。

「うっ……!」

 俺の頭に何かが刺さった。

 一瞬気が遠くなったものの、すぐに持ち直し……。

「痛っ!」

 生死の狭間に立たされていたことを実感した。

 これだったらこのまま気絶したほうがよかったかも……はっ、いま何を!?

回復ヒール……これ、矢文だね」

 ユウが引き抜いて、さらに回復魔法をかけてくれたみたいだ。

「ちょっ、貸して!」

 俺はそれを半ば奪い取るように見て、驚く。

 そこにはこう書かれていたのだ。

 

 “決闘状”

 

 **********

 

「何のつもりだ、これを送りつけて」

 廃墟街の大通りにて。

 俺は決闘状の送り主に向かって叫んだ。

「何のつもりも何もないだろう。ただ、あんたと戦いたかっただけさ」

「じゃあ、なんでだよ」

「なにがだい?」

 目の前の怪しげな女と、彼女が率いる、大量の、臨戦態勢のチンピラたちに向かって、叫んだ。

「こんなに大量の仲間を引き連れて、何が決闘だよ。一対多とか……ただの集団リンチだろうがよ!」

「ふふふ、それがどうしたんだい? タイマンだとはどこにも書いてなかっただろう?」

「チッ!」

 俺は舌打ち。

「ただ、アタイの子分の礼がしたくてねぇ」

「……あの決闘状、“復讐状”の間違いだったんじゃねーのか?」

「それがどうした?」

 皮肉をぶつけてみても、さらっとスルーされる。

 この女、強い……。

「さあ、戦いを始めようか。行くぞ、子分たち!」

『オ――――!』

 迫ってくるチンピラたち。

 俺は恐怖に負けず、チンピラたちをなぎ倒していった。

 

「はあっ……はあっ……。やるな、お前……」

「はあっ……はあっ……。あんたもな……」

 俺は太い木の枝を片手に、女は古びたベルトを片手に、それぞれ息を荒くしていた。

 周りには動けなくなったチンピラたちの死屍累々とした姿。

 それを横目に、俺と女は睨みあう。

「あんた、名前は?」

「岩谷純也だ。お前は?」

「ネーゴ・ストラビア。覚えておくぜ、ジュンヤ」

「ああ、こちらこそ。ネーゴ」

 俺たちには、ある一種の友情のような物が芽生えていたのかもしれない。

 口角を上げながら、俺たちは武器を構え――。

「コラァァァァ! 何をやっている――!」

 厳しげな女声。それだけでわかった。

『デストロイヤーだ……』

 デストロイヤーこと、レニウム先生。

 半ば反射的に危機感を覚える。

「ネーゴ!」

「おう!」

 もはや言葉なしでも通じ合っていた。

 俺たちは走った。

 路地裏まで逃げて――捕まった。

 その後、厳重注意を受け、釈放されたときには、もう空はオレンジ色に染まっていた。

「綺麗だな」

「なにがだ?」

「夕日だ」

 廃墟街に戻り、ビルの谷間から見える夕日を見る。

「……正直さ、ここまで本気で戦えたのは、あんたが初めてなんだ」

「ネーゴ……」

「だからさ、今度また戦ってくれないか?」

 俺は少し間を置いて、答える。

「ああ、わかった。約束だ」

 笑いながら、俺は拳を差し出した。

 ネーゴは、一瞬きょとんとした顔をして、すぐに微笑み、俺の拳に拳をぶつける。

 それから、二人で笑いあった。

 日が暮れるまで。夕日が沈むまで。

 ずっと、ずっと。

 

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