第117話 常識に非ず
異世界の常識には普通ついていけない物だということを考慮すべきだった。
考えてみれば、俺が異世界転生したときも同じ様な状況だったじゃないか。何で忘れていたんだ、俺は。
何はともあれ、いろいろと説明しないと!
俺が慌てていると、足音が聞こえた。
「なになに? ナニゴト? あっ! しらないひとだ~!」
そこには、女の子がいた。
茶髪をショートカットにし、セーラー服を着ている可愛らしい美少女だ。しかし、俺の直感は「彼女とはあまり関わらないほうがよさそうだ」と警鐘を鳴らしていた。
彼女が駆け寄ってくる。
「なに!? 何があったの!? 外から来た人!? おっ、そこの白髪の人イッケメ~ン! やたー!」
頭の悪そうな感じしかしない。というか、絶対頭悪い子だ。
今度は俺も口をぽかーんとあけた。
「ん? をっ! どしたのそこのおにーさーん! をやっ!? その髪色、まさか異世界転生者だなッ!?」
俺のほうを見た彼女は突然俺のほうに駆け寄り言った。
とゆーかっ! なぜか髪色であっさりとバレタ――――!
俺は精一杯の理性を振り絞り、答えた。
「そ、それがどうした! ……ですかっ!」
さすがに初対面でタメ口はまずい。とっさに語尾を取ってつけた。
「おー! わーい図星だわーい! 略してWZWだゼっ(キラッ)」
わざわざうざい。
「それにそれにー、君は童貞だな!? 初対面の女の子に敬語で喋る男はたいていDT」
「おい」
俺はほぼ反射的に彼女の頭をわしづかみにした。
「な、ナニヲスルー」
差別と偏見だけで失礼なことを言うな。しかもそれで言い当てられたのがすっごい悔しい。
と、モノローグで言った。口には出さなかったが。
「わ、わかったわかった! つまり、こう言えばよかったのね!?」
わかってくれたか……と、一瞬安堵したのはやはり間違いだった。
「未経験の若々しい果じt」
「やめんかぁぁぁぁぁあっテガスベッタぁぁぁぁぁ!」
俺はついうっかり(を装って)その少女を目の前の建物に向かってぶん投げた。
「あははのは……ごめりんご……」
「ああ、こっちも失礼だったな。すまなかった」
俺は頭を下げる。すると、彼女はその頭をはたいた。
「いたい! なにをする!」
「目の前に頭があったら叩きたくなるよね!」
俺たちは一斉にこう思った、だろう。
(駄目だこの子早く何とかしないと……)
呆れていると、何かを察した顔をして、言った。
「あっ、大丈夫。私も未経験よん」
「聞いてないから。いまそれものすごくどうでもいいから」
一体なにを察したんだ。
「あ~いや、場を和ませようと思ってこの美少女ルミナさんのしんたいじょーほーでもと」
自分で美少女とか言っちゃいますか!? おかしくないっすか? 確かに見た目はまぁまぁ美少女といっても差し支えないですけれども。
とはいえ、ようやく名前がわかったな。
「もしかしていま目の前の女の子がやっぱり可愛いな~と思った感じっ!?」
「一瞬思ったことは認めざるを得ないけどやっぱり取り消すわ! ルミナって本当に意味がわからん!」
「な、何で私の名前を!?」
「言ってたことに気付いてなかったのか!?」
もう駄目だ……。疲れてきた……。
とりあえず、一旦落ち着いて周りを見渡してみよう。
後ろには仲間たち。揃いも揃って唖然としている。
いや、一人だけ。ラビだけは正気をたも……っていない! なぜかルミナとアリスを交互に見ながら目を爛々と輝かせて、さらに、息を荒くしている! どうしてそうなった!
そして、周りには誰の人影もない。あるのは、学園の施設と思われるビル群と、背後にはさっきまで乗っていた乗り物の駅。目の前のひときわ高い建物。そして、その入り口の前に立っているルミナと名乗る少女だけだ。
俺たちの用事は、そのうち目の前に立つ超巨大建造物、すなわち魔法学園の本部塔――
「で、ここに何のようなの?」
と、手を差し伸べる少女ではない。が、ここでその手を取っておくことも悪くはないだろう。
何しろここは初めて来る町なのだ。その町をよく知っている人物に案内してもらうのは、むしろ当然の展開といえる。
「ああ、魔法学園に入学する予定の者なのだが……」
話を通しておこう。
「ん? 本部塔? なんだっけ、それ」
…………うん。
案内人の人選ミスじゃあぁぁぁぁぁ!
「もういいっす。ありがとござっす。みんな行くぞ!」
固まっていた仲間たちが(いまだに状況をつかめないままのようだが)俺についてきてくれている。よし。
そして、仲間を引き連れて目の前の建物に入ろうとすると。
「おろ? その建物、ただの廃墟だヨ? 何もない建物に入ろーとしてんのなんで?」
俺は足を止めた。
**********
一方その頃。
「……ここまであいつらを追いかけたはいいですが……」
「ですよな。これは……」
魔族悪魔連合こと、ハーゲン・ヴァヴァコンガー・ヴェルオリの三人は新交通の駅にいた。純也たちも通った学園都市草原口駅である。
彼らは目の前の機械に困惑していた。
すなわち。
「この、ケンバイキという機械はなんでしょうかね……」
「ですな……」
券売機をはじめとする現代的な機械の使い方が一切わからない、ということである。
現代人ならほとんど誰もがわかるようなことも、異世界人は誰一人知らないのだ。
運営はその事実を知らないのか、機械使用方法の説明板を配置していない。それどころか、人件費削減のためなのか、主要駅を除いて駅員を配置していない。始終着駅である学園都市草原口駅も例外ではない。つまり、現時点でこの駅では限られた一部の知識人や異世界転生者を除いて、電車に乗ることはできない、というわけだ。
それが、現在進行形で、開業してからまだ一ヶ月ほどのこの鉄道を赤字にしている要因である、ということを未だに運営は知らないようだ。
「ぐぅぅ、何であいつらは乗る事が出来たのでしょうか……」
ハーゲンが敬語で呻く。
そうしている間に。
「あっ、よくよく考えるとこれ直接潜り抜けたほうが楽じゃないっすか?」
ヴェルオリがそう言い出した。すなわち、無賃乗車である。
無論明らかな犯罪行為だが、この世界にはそもそもこの行為が犯罪だという既成概念すらないのだ。
あいにく、この駅に駅員は居らず、防犯カメラ的なものの存在もない。あったとしてもその危険性というものを彼らは知らない。
そうなれば当然だろう。
『よし、名案だな!』
三人は改札機を突破した。
だが、それでも関門は付きまとうもんで。
「なんだ!? 自動階段だと!?」
「と、透明な板! どうやって立てているのですか!」
「ほう、動く長方体。意味がわからねーっす」
極めつけはヴェルオリのこの言葉だった。
「そういえばっすけどー、あいつらこの箱をどこで降りたんでしょーかね」
『あっ』
沈黙が彼らを包んだ。
その後、たまたま降りた駅は駅員が配置されている駅だったそうだ。
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