episode04 絶望の新世界


 僕はとにかく歩いた。町を目指して、前へ。

 まずは飲み水の確保、食べ物の確保、いろいろとやらなくては。

 そう思いながら歩き続けた。

 そうすると、突然目の前に謎の生物が現れた。

 スライム状の生物、というか、スライムそのもの。RPGではよくいる雑魚敵である。

 僕はそれを殴って倒そうとした。それを食べればとりあえずは生き延びられると思って。

 しかし、確かにそのゼリー状の体の中心を狙って放ったその拳は――


 つるんっ


 かわされてしまった。人間にはありえないようなスピードで。

 もう一発拳を放つが、それもかわされる。人間との戦いではそんなこと無かったのに。

 僕は、人間同士での戦いしかした事がなかった。向こうでは狩りなどする必要が無いのだから、当たり前のことではあるのだが。

 それゆえに、そのほかの生物がどれだけ強いかを知らなかった。

 こんな生き物は向こうの世界には存在しなかったが、考えても見れば、僕は熊などのほかの生き物も倒せるに違いないと慢心していた面もあった。

 それが、これを引き起こしたのだろうか。

 僕はスライムに体当たりされて、押し倒される。

 明らかな殺意。これは人もこいつも変わらない。殺そうとしているんだ、こいつは、僕を。

 それを自覚したとたんに、スライムを殴り飛ばしていた。僕の体にしがみついているところで避けられなかったらしい。

 間一髪で助かった。

 落ちてくるスライムにもう一回拳を振るう。今度は空中にいるから避けられない。

 スライムはぐしゃっとつぶれて溶けた。死んだようだ。

 殺した。苦戦して、勝った。そして、潰した。

 その快感は、すべてを忘れさせた。

 それから、僕はどんどん歪み始めた。


 それからしばらくして、町に着いた。

 スライムの死骸から出てきた小銭を使って食べ物を買い、水を汲み、寝床(となる路上のスペース)を確保し、寝る。その程度の理性はあった。

 翌日、近くにいた女に「日銭を稼ぐなら冒険者が良い」と教えてもらい、冒険者登録を行った。

 初仕事は、スライムの討伐。

 その前の日と同じように、素手で殺した。昨日よりもコツがつかめていたようで、すぐにこなせた。

 殺したときに味わう快感は、ほかの人間からは狂気といわれるそれと化し始めていた。殺すことが、楽しくてたまらなくなっていた。

 そんなことを繰り返すこと、10日。

 スライムじゃ足りなくなっていた。依頼の5倍くらいは狩っているというのに。

 なので、別のものを殺すことにする。ターゲットは、ゴブリン。

 やつらを殴ると、人間みたいな音がする。

 骨が折れる音、肉が潰れる音、そして、死を恐れる悲鳴。

 それを聞くのが楽しい。絶望に陥れるのだ。じわじわと、責めるように、少しずつ、まるで拷問のように。

 日に日についてくる力。それとともに、狂気に染まっていく。

 殺せ、殺せ、絶望、すべてを、陥れ、壊せ、すべて、周りを、すべてを、自分さえも、破壊せよ……!

 そんな声が自分の内側から出てくるのを感じた。

 ずっと守り続けてきた何かが、あふれ出すのを感じた。


**********


「アレ、どんどん雲行きが怪しくなってきたぞ?」

「そう、闇の人格が形成され始めたんだ。初めての敗北によって狂気が生まれたんだよ」

「え? ク○ゥルフ神話?」

「いや、現実でSAN値がピンチだったね。名状しがたい暗黒の闇のようなものが憑依したような気分だったかな」

「どんな気分だし」

「ニャ○ラトポテフ様~(笑)」

「クト○ルフ神話か(笑)」

「じゃあ、話を続けよう。どんどん狂気に飲まれていった僕は――」

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