七月二十一日、二十二日

 二十一日。

 林芙美子『放浪記』『稲妻』を読む。知っている土地の言葉が出るのでなつかしいような気もち。

 交流のあるかたのおすすめで、新しい文学にれられるのがうれしい。紀行集も探そうと思う。


 二十二日。

 夕前。くもり。外に出ると思ったよりもすずしい。西の山へと登ることにする。

 きゅうこうでんはすぐに背高せいたかの草だらけになる。かいったのを干す間もしく、黄いろいけむりをさせながら、ぼんぼんしている。


 竹林にはいると、ぐっと涼しい。この辺りには、この頃元気のよすぎるヒワもいないらしい。ひぐらしと、なにぜみかの声が混じるなかを黙々もくもくと歩く。

 雑木が増えるにつれて足もとがこけっぽくなってくる。緑。あちらこちら、びかびかした緑で一人前だ。青い柿がごとごと音をたてて落ちてくるし、いきちがったつるがひとりでねて挨拶あいさつをしてくる。

 じっとりと汗をかく。水筒をかたむけて休憩きゅうけい


 貯水池へ出る。めずらしく、ひとのすがたがない。水面は碧緑へきりょくで一面鉱石こうせきになっている。カエデの実も青い羽を広げている。

 半周歩かないうちに、空気は雲の向こうの夕日をひろって薄桃うすももいろになる。さっきまで落ちついていた水面みなもにも、おなじ色のさざ波が立つ。金色もだんだんそこへと混じってくる。風はいっそう涼しくなる。


 だれが忘れたのか虫捕りのあみがさみしく桜の木にもたれかかっている。

 あたりは褪せた赤のいろ。まるで自分が古い写真のえきひたされているように思える。いつか、今日を思いだして懐かしむ日がくる。

 久しぶりに気もちのいい散歩だった。はっきり夜になる前に山をおりる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る