第19話 『難民』その18
結局、2日がかりで91階を歩き回ったところでは、なにも、それ以上の収穫はありませんでした。
次の日から、92階に移動しました。
まあ、しばらく順番に行こう、と話し合ったのです。
92階の組合事務所に入り込みました。
例の超小型ラジオ、ICR-120は、本来、14時間充電して、6時間くらい聞くことが出来る能力があるのですが、なにしろもう100年以上前の品物で、鳴る方が奇跡に近いものです。
『充電池交換しといたから。』
と、ラジオヤのおやじさんは言っていました。
まあ、よく充電池が見つかったもんだとも思いましたが。
しかし、肝心の放送が、ありません。
ラジオヤさんに行くか、自宅で放送するしかないのですが、そうは言っても使ってみたくはなります。
で、その組合の部屋で充電させてもらっておりました。
雑音だけでも受信出来たら、結構な事です。
そうして、92階の捜索開始、2日目の夜のことでした。
あなたが、夜中に台所に冷たいジュースを飲みに行ったとき、たまたま、ごきぶりさんに出くわすことがあります。
あと2分遅かったら、あるいは早かったら、出会わずに済んだものを。
そういうものでした。
92階の大噴水の周囲のベンチで、ぼくとキューさんは休憩しておりました。
もう深夜12時です。
ほかの二人は、先に部屋で休んでいました。
確かに、音はどうも小さいが、イアフォンを通して、ラジオは雑音を感じました。
そうして、何気なく周波数ダイヤルを少し回してみたのです。
すると、聞こえたのです!
いや、びっくしでした。
『あす夜、25時、実行する。93階靴販売コーナーにて。用意ぬからぬよう。おわり、さようなら、くりかえします。 あす夜、25時、実行する。・・・・・』
周囲を見回す限り、ラジオを聞いてるらしき人は、他にはいませんでした。
「なんだこりゃあ。・・・・・キューさん。」
「あいよ。」
ぼくは、その内容をキューさんに伝えました。
「ふうん。中波を使って連絡するのは、つまり、このなんらかの計画をしている連中は、おそらく、この階にいるということですね。それか送信器を複数置いてるかもね。」
「何の計画だろう?」
「さああて、まあ、張り付くしかないしね。あそこの副店長は、ぼくの、お友達だからね。」
「その人は、ロボットさん?」
「はいー。そうですね。型は違うけども。いいロボットね。」
「キューさんを襲ったみたいなことするのかも。」
「それなら、本屋の店長代理が知ってるはずね。朝になったら。聞いてみるといいね。」
******* *******
「そうした計画は、我々の関係では。ない。間違いなく。」
店長代理さんは、翌朝答えました。
まあ、すぐ下の階なので、直接行って見たのですが。
それでも、けっこう遠いのですがね。
往復1時間近くは、かかります。
「また、そういうことがあるなら、君たちには話す。」
「ふうん、じゃあ、やりそうな、他の組合とかは?」
「いやああ、それは分からないよ。・・・まあ、たしかに『人類小売革命的平和連合』あたりは、そういう細かいテロを、やるかもしれないがなあ。」
「変な名前ですね。」
これは、ぼくが言いました。
「まあね。一応情報は聞いてみるが。」
「思うに、意外とあんたが言うように、中央警察あたりが、絡んでるかもしれないねぇ。」
お嬢が言いました。
「可能性はあるね、推測ならばね。なんでもありうるね。アナログAM波をわざわ使うかどうか、わからないね。」
「それって、いいがかりかい?」
「ロボットは、因縁付けないね。でも、ロボットの工作員なら、まずデジタル波を使うね。自分が受信しやすいね。危険性も少ないね。」
「あ、そう。」
「まあまあ、裏をかくかもしれないから。とにかく、その店員さんには、一応、注意を促した方がいいなあ。で、張り込む段取りしようよ。」
ぼくが、主様らしく提案しました。
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