第18話 『難民』その17

 少し待ってると、彼女と男が帰ってきました。


「おや、済んだかい?」


 彼女が言いました。


「すみません。」


「いいさね。謝るこたぁないさね。」


「まあな、『ぷち・ブルジョワ』のおじさんだからな。」


 ちょっと、しゃくに障りましたが、いくらか心に突き刺さるものもあり、ここは我慢です。


「このすぐ下の階の階段際の店にも、ちょっと確認してたんだな。もし。」


「それは、さすが、すばやい。」


 男は・・・つまり『スワン』さんが、ちょっと嬉しそうに言いました。


「まあな。」


「で? どうでしたか?」


 キューさんが尋ねました。


「いやあ、まだ目撃情報は出てないなあ。」


「あたしも、周辺聞いてみたけど、そうした話はなかったねぇ。ただ、確かに3年くらい前には、ちょこちょこ、このあたりでも見かけたというけど。」


「それは、ぼくもそう。」


 キューさんが答えました。


「ああ、ぼくもそのころはよく見かけたもんね。やはり3年か。そうすると、ここのご主人が、1か月くらい前に見たというのは、やはり突出してるよね。」


「見間違えの可能性も大きいね。」


「キューさん映像はないの?この階段。覗いたいた時のとかも。」


「写っていた映像には無いね。それに、ここは、管理の管轄が違う。モールの管理じゃないね。」


「え? じゃあ誰?」


「中央警察ですね。」


「はあ??? そりゃあ、大事だな。なんでまた。」


 『中央警察』は、ロボットが運営するこの国の基幹警察です。


 普段人間地区では、あまり目に見えない活動をすることが多く、姿も滅多に見せません。


 しかし、ときどき、ふいに行方不明になる人の内のいくらかは、『中央警察』に連行されたとも、言われます。


 あいかわらず、U.F.O.の仕業という方も、いますけれど。


「それは、彼らの言う、『重要犯罪者』が使う可能性が高いと見てるから。」


「はあ・・・・。」


「われわれ『難民』は、逆によく使うのさ。当てつけだけどね。」


「なんか危ないような。」


 気の小さい、ぼくが言いました。


「それは、彼らはちゃんと認識して区別するね。」


 キューさんが言いました。


「じゃあ、我々は無視されてるだけかいな?」


 彼女=お嬢、がむっとして言いました。


「まあ、そうね。気にする必要はないね。ロボットは気にしない。」


「そりゃまあ、そうだろうけどさ。 なんか、それも、やな感じ。ちったあ気にしてほしい。」


「そりゃあ、ぜいたくね。」


「くそ!」


「あのう、キューさん、その映像って、絶対に見えない?」


 ぼくが割り込みました。


「ううん。ちょっと難しいねぇ。セキュリティーきついからね。」


「でもさ、すると、もし神様がここを使っていたら、警察側は知ってるってことかい?」

 

 お嬢が尋ねました。


「まあ、そうね。でも、それだけのこと。彼らにとって、もと『地主様』とは言っても、関係はないね。無力。無関心。」


「ふうん。もしかして、そうじゃないのかも。」


 ぼくが、ささやきました。


「ふうん。それは、人間の勘ですか?」

 

 キューさんが尋ねてきました。


「勘まで行かないよ。思いつき。」


「人間の思いつきは、ロボットにとっては、時にやっかいなモノね。論理が通らないからね。」


「あのさ、この階段って、下から最上階までずっとあるんだろう? 全部歩いたことなんかないけど。」


 ぼくが当たり前のことを言いました。


「あるね。でも、人間にはかなり大変。ただ、屋上から始まる『天井人』の建物には、直接は上がれないはずね。でも、実はつながっていると言う噂はあるね。データも秘密になっていて分からないね。」


「なんかさあ、やっぱりさあ、『天井人』の棟がさあ、怪しい気は、するけどねぇ。」


 お嬢が言いました。



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