第16話 『難民』その15

 なぜ、店長代理さんは,『難民』に対して、寛大だったのか?


 ぼくは、ちょっと意外に思いました。


 意外じゃないのかもしれない、とも思いました。


 あのおかしな儀式に参加していた人たちに、『難民』さんが入っていた可能性も


十分あるだろうなあ、とも推測しました。


 とりあえず、ぼくらは、慣れ親しんだ91階を、二手に分かれて探索してまわり


ました。


 91階と、簡単に言っても、この階だけで、3000以上のお店や歯医者さん、


さらに眼科さんなどの外来病院が10以上あり、外食関係が20店舗はあります。


 そのバックヤードには、さらに多くの事務所などがあります。


 バックヤード方面には、ぼくも知らない未知の世界が広がっているのです。

 

 ただし、ここには食品コーナーはありません。


 90階も、92階も出店しているお店の傾向は違いますが、その数は似たようなものです。


 なんで、首都でもない辺鄙な街であるここに、こんなお店があるのか?


 それは、実は、最大の謎だったのですけれどね。


 ぼくは、地主さんの写真を持って回りながら、彼の消息を訪ねてゆきました。


 なにしろ有名な方ですから、店長さんクラスの方ならば、知らない人はまずいま


せん。


 しかし、どこのお店の答えも、こうでした。


「いやあ、最近見ないですなあ。」


 最近見ないのは解っています。


 一番最後に、どこの誰が、どこで見たのか、が、問題です。


 監視カメラのデータは、すでにキューさんが、ばっちり握っていました。


 しかし、監視カメラは実は完璧ではありません。


 特に、バックヤードの空間は、非常に弱いのです。


 ある意味これには、意図的な部分があったのだと思うのです。


「モールの店舗は、微妙な競争関係にあるね。見られたくないこともある。でも


共同の監視も必要。お互い話し合って、カメラの位置を決めてるね。」


 キューさんが言います。


「ぼくなら、カメラに、ほぼ映らないように移動できるね。偽装工作も可能なので


すね。」


 まあ、ロボットさんならば、もちろんそうでしょう。


「人間でも、詳しい人なら、ある程度可能ですね。あの地主さんは、その方面は


マニアだったね。もし、監視カメラにアクセスできる権限をもらっていたら、なお


さらそうね。きっとそうね。」


「はあ・・・・・やっかいな。」


 しかし、もうひとつやっかいだったのは、ぼく自身の事でした。


「ああ! 『主様』でしょう! あの人!」


「『主様』よ! ほら!」


「おお、『主様』だぜ。」


 たった一日なのに、ぼくは俄然、有名人になっておりました。


「無理ないね。『モール内通信』で、『スパホ=スーパー・スマホの略称』でも、


ばんばん報道してますね。電子掲示板でモ、ほら、出てますね。」


「迷惑な話だ。」


「まあ、あまり意味はないね、名誉職だからね。でも、みんな、そういう楽し話題


を求めてるね。」


 まあ、人間たちはこの国の実質的な政治には参加できません。


 すべて、ロボット政府が決めます。


 人間側の政府は、ただのお飾りと同じで、まあ、人間側だけの、ごく限られた事


項に関する権限しか持っていません。


 立法に関する権限は、とても限定的で、最終的なことはロボット政府がほとんど


すべてにわたって、握っています。


 つまり、人間は国に関して、何も決めることが出来ません。


 人間のフラストレーションは溜まる一方です。


 しかし、ときにロボット政府は、そのガス抜き政策を、色々と行うのです。


 『主様』も、人間側が勝手にやっているのでしょうけれど、ロボット側は、きっ


と無視して、容認しているわけです。


 ちなみに、ぼくは携帯電話は持っていますが、『スパホ』は嫌いでした。


 それは、ロボット政府が人間を操るための、ツールのひとつになっているのです


から。



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