第12話 『難民』その11

 ぼくは、当然知るわけがなかったのです。


 しかし、実は、キューさんの修理が行われた時点で、彼は『平常モード』から『警戒モード』に切り替わっていたのです。


 これが、『準戦闘モード』になっていたら、攻撃した相手は、たちどころに『無力化』されていたところでした。


 もしも、『戦闘モード』になっていたら、事前に指定されている『味方』以外のすべての攻撃可能な動くものは、たちどころに『無力化』されます。

 その攻撃力は、小型核爆弾にも、匹敵するというのです。


 まあ、おかげで相手は殺されることはなく、まとめて拘束されました。


 さらにいえば、ぼくも無事で、これまで済んでいたわけですが。


 どうやらぼくは、長年のお付き合いのおかげで、『非敵対友好想定人物』となっていたらしいのですが、それは後々に、分かったことなのです。


 捕まえたのは四人の人たちでした。


 キューさんは、どこから出したのか、とにかく、よく素材の分からない

透き通ったロープで、彼らをまとめて、拘束していました。


 男3人と、女が1人。


 ぼくは、女性の扱いが苦手です。


「どうしますか。警察に突き出しましょうか?」


「それは、ちょっと、どうかしらねえ。」


 ぼくは、キューさんの事が心配だったのです。


「まあ、まずは、ちょっと話を聞こうかなあ。ねえ、あなた方、なんでここに侵入したのかな?」


「われわれは、91階の『難民』である!」


 ひとりは、そう言いました。


「『難民』である以上、住処を欲するものであり、したがって、ここを襲ったのである。だべな。」


 もう一人の男性が続けました。


「なんで、ぼくなの?」


「あんたが、91階の『主様』と認定されたからである。ぞな。」


 三人めの男が、きっぱりと、言いました。


「そこのところの繋がりが、さっぱり分からないよ。ぼくは、一方的に『主様』とかにされた。で、一方的に攻撃された。なんで?」


 ぼくは、自然に、その若い女性を見ました。


 彼女は、いかにも憎々しげに、ぼくを睨んでいました。


「『主様』とは、あきらかに権力の一端であるのさ。我々難民は、一切の権力とは縁がないのさ。ふん。」


 彼女は言いました。


 この『ふん』が、よく効きました。


 ぼくは、敵視されるのが苦手です。


「ああ、補足いたします。」


 キューさんが、話しに割って入って来たのでした。


「『難民』の人たちは、自らそう名乗ってはおりますが、定義上は『お客様』であります。しかし、買い物をした事は一切なく、飲み物も有料では購入していません、食事は残り物を収取し、お水はお手洗いなどで調達します。常にモール内に所在します。しかし24時間365日営業中のモールに在っては、別に違法ではありません。」


「じゃあ、ぼくだって『難民』に近い。」


「あなたは、お買い物を、少しはします。そこが違うのです。」


「なあんか、すっごい、差別のような気がするなあ。」


「いいえ、難民だから非難されているのではありません。ここの敷地内に勝手に入り、建物内に侵入しようとしたことが、明らかに違法だからです。」


 キューさんが指摘しました。


 でも、ぼくがそう言うのを聞いた、一人の男が、言いました。


「こいつ、敵とは言えないかもしれん。」


「騙されちゃあ、いけないよ。所詮は資産所持者なんだ。『難民』ではないわ。」


「まあ、そうだよなあ。我々の同志ではない。」


「やはり、突き出しましょう。問題ないね、ぼくのことなら、心配ないね。」


 キューさんが再度提案してきました。


「こいつ、レコード屋にいたロボットだろうが。」


 一人が言いました。


「ああ、そうだなあ。きっとそうだべ。」


「うん。人間に寄生する寄生虫さね。」


「こらあ、キューさんに、なにを言うか。」


 ぼくが怒りました。


「こいつ、まじに、怒ってやがる。」


 最初に難民宣言した男が、小さく笑いました。



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