第3話 『難民』その2
「あなたは、お名前は? ご住所は? 免許証とかは?」
教える義務はないでしょう、何て言うと怪しまれるのは確実なところですから、ぼくは、『空中自動車免許証』を提示いたしました。
「はい、どうも。」
それから、ぼくが見たことを警備主任さんにお話しました。
その隣で聞いていたのは、このショッピングモールの担当刑事さんなんだそうです。
このくらい、でかい施設ですから、担当の刑事さんがいても、別におかしくはないのでしょう。
しかも、ここは国内でも最新鋭の施設ですからね。
「ふうん・・・それは、男でしたか、女でしたか?」
「さあ、わかりません。」
「でも、となりに来ていたら、雰囲気とか、何か感じるでしょう?」
「ぼくは、専門家じゃあないから、確信できる根拠がありませんでした。どっちつかずのお声でしたし。」
「ふうん・・・・」
警備主任は、人間様でした。
刑事さんも、そうだとのこと。
このところ、ロボットが進化していて、簡単には区別がつきにくいのです。
「あなた、お仕事は?」
「もっか、離職中です。希望退職に、応じまして。」
「ああ、希望退職ねエ・・・最近多くて・・・」
「それが、何か?」
「いえいえ、事実を述べたまでです。」
「ときに・・・・」
こんどは、刑事さん(警部さんなんだそうですが・・)が聞いてきました。
「あの、壊れたロボットとは、親しかった? つまり、なじみでしたか?」
「ええ、長く応対してくださっていたから。地上のお店の頃からずっとですからね。」
「ふうん。確かに、あそこは古い店ですからなあ。ぼくも買いに行ったことがありますよ。ぼくはジャズが好きです。あなたは?」
「ほとんどクラシックです。」
「ほう、それはまた、よい御趣味ですなあ。」
刑事さんは、人なつっこそうに言いました。
「で、なんか思い当たる事がないですか?最近おかしな人物が出入りしていたとか、なんでもいいですから。」
「そうですねえ。特に変わったことは気が付きませんでしたね。ああいういでたちの人は、最近多いですし。珍しくはないですよ。」
「確かにね。大気が良くない。ぼくは、政府が悪いと思ってますよ。あまり言えないけれども。おほん・・・・ははは。」
警備主任を見ながら、刑事さんは言いました。
なかなか、したたかな人です。
「まあ、なにか気が付いたことが、後からでも思いついたら、ここに知らせてください。また、変わったことが起こっても。」
「変わったことが、あるのでしょうか?ここは、危ないのですか?」
「いえいえ、ああ、それはご心配なく、というのも変ですが。このようなことは、稀ですよ。ははは。」
「はあ・・・あの、キューさんはどうなるのですか?」
「ああ、あのロボットね。まあ、オーナーが直す気があれば、修理するでしょうけれど、その気がなければ、廃棄でしょうかねえ。でも、直せるものかどうかも、今のところまだ、分かりませんけれど。これから検証しますから。」
「はあ。そうですか、可哀そうに。」
「まあ、皆さんそう思いますよ。今頃は。ロボットも、人間並みになりましたから。いや、ありがとうございます。」
ぼくは、型通りの質問を受け、それで解放されました。
しかし、警備室を出がけに、警備主任さんが言いました。
「実はね、あなた常連さんだから言いますが、今回のような事は、もう起こらないようにしますから、今後も是非お買い物には、おいでください。ただ、商店街のストリート以外には、絶対、立ち入らないでくださいよ。実は、このところ裏通路で怪しい人影が出るとかのうわさがありますので。これは、念のためですよ。」
「幽霊とかですか?」
「まさかね。でも、メインストリート街は、警備も強化して、もう、事故のないようにいたします。お客様が減るのは困るので。」
「あのお店が閉まっていたら、他には目当てもないしなあ。」
「まあ、オーナー次第ですが、休んでも二日程度でしょう。今回は器物破損で、人的被害はなかったんです。あなたには、ご迷惑をおかけいたして、もうしわけないです。また、改めて、えらい人が、謝罪に行くんじゃないかと思いますが。」
実際に、翌日、なんと店長さんと、さらにモールの運営会社の取締役という方が、ぼくの自宅まで謝罪しにやってきたのです。
ぼくの大好きな『おせんべい』を、大量に持ってきてくれていました。
口止め料にしては、多すぎるくらいだったのですが。
なんで、ぼくの大好物がわかったのか、そのときは、あまり気にはしませんでしたが。
************ ************
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます