第216話 李儒(理樹)と内気な姫殿下【魔物】(26)

 お姫さま、弁姫殿下の目の前、と言うか。相変わらず弁姫殿下は、李儒(理樹)の肩に自身のシャープな顎を乗せ。いつでも李儒(理樹)の喉元を噛み。噛み千切れる位置にいるので、真横と言った方がよいかも知れない位置で。弁姫さまは「はぁ、はぁ」と、荒々しく息。威勢、覇気のある掛け声を。この場の様子を呆然と佇みながら凝視している李儒(理樹)の真横でいつもの彼女らしくない振る舞い。


 そう。ひ弱で、貧弱、貧相。俯きながら上目使いで周り。弁姫殿下を取り囲む者達の様子を窺い。怯え、だけではない。


 次世代の漢帝国の太后殿下となるはずの彼女が、自身の臣下達の様子、顔色を窺い。媚び諂うように振る舞ってきた、自分自身ではなく。凛とした、ないか?


 相変わらず李儒(理樹)の背にしな垂れ、寄り添う形、様子……。


 そう。まるで、何処かの誰かさんこと、黒き魔王さまに。この少年アダムは自分の物だと言わんばかり、だけではないよね。ここには李儒(理樹)の自称元嫁──。彼女の美しい金髪の縦ロールを、フワフワと揺らしながら、黄金色に光り輝く神々しい。防御障壁を展開。張り。臣下の紀霊将軍を援護──。


「姫様。弁閣下。申し訳御座いません。有難う御座います。助かりました。感謝! 感謝~!」と。


 安堵した表情で、お礼を申してくる紀霊将軍の言葉を聞けば。


「いいえ。いいえ。主が臣下の者を助け、庇うのは当然。当たり前のこと。だから気にするようなことはありません。紀霊……。だからさっさと、この大きな木偶の棒を攻撃しなさい! 貴女は……。そして私(わたくし)と姫殿下。殿をお守りしなさい。わかりましたか、紀霊」と。


 これまた弁姫殿下ではないが、いつもの彼女らしくない気丈な振る舞い。


 自分本意。唯我独尊。自分自身だけ可愛ければよい。お嬢さまの袁術お嬢さまの容姿ではなく、臣下に優しい上に、自身の周りに気を遣う。守ることもできる仕様になっている。心優しくなった? 袁術お嬢さまが、弁姫殿下のように、金色の魔法弾を埴輪の巨人兵へと放ち──。


「はぁ~!」と。


 威勢良く咆哮をあげ、放ちながら攻撃まで、展開を始めだした彼女、袁術お嬢さまにも、『これ、この者。この男、オスは、わらわの物だから触れるではないぞ』とでも、言いたい様子でいる弁姫殿下なのだが。


 相変わらず呆然と佇む。不抜けた状態、様子の李儒(理樹)へと。


「あなたも、いつまでも、呆然と佇んでいないで、わらわ達。この場にいるメス達を、あなたはオス。主なのだから守りなさい。わかりましたか~? あ・な・た」と。


 弁姫殿下は李儒(理樹)に対してくすくすと、忍び笑いを漏らしながら。耳元で囁いてきたので。李儒(理樹)はハッ!と、我に返り。


「ご、ごめんなさい。弁姫さま……。そしてみんなごめんね。迷惑をかけたようだね」と。


 この場にいる戦姫達へと謝罪──。


「ありがとう」と。


 李儒(理樹)は心からお礼も告げる。呟くのだ。


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