第187話 李儒(理樹)と内気な姫殿下【乱】(11)

 今迄盲夏惇が、『あのクソガキ!』と、悪態しながら何度も叫んだ。呼んだ。まあ、俺戦姫さまなりの親しみを込めた言い方。呼び方の李儒(理樹)を筆頭に、彼と一緒に、お手手を繋いで仲良く、『フフフ』と微笑。【鬼ごっこ】を楽しむ誰なのかはわからない女神さま、と言うことはないのか?


 後漢三公の一つの名家、袁家のお嬢さま、姫さま、袁術嬢が『何故、あの御方が?』と、怪訝な瞳で睨んでいた女神さまと。今話題に出た彼女、お嬢さま……。


 そう、自身の主を、女性の、メスの色香で奪われて、嫉妬心を募らせていることすら気がついてない状態……。



「(う~ん、何? 何でしょう? 私(わたくし)のこの心の中に募る、モヤモヤ、イライラ感と。己の、自分自身の業務、任務を破棄してまでも、『あの御方』を八つ裂きに……。バラバラに引き裂いてしまいたいと悪意に満ちた想いが募るのは何故? 何故なの? 教えて、誰か教えてよ。このモヤモヤ、イライラ感……。そして? 切なく想う。この感情、感覚は……)」と。


 自分自身の心の奥底で募る。悪意と殺意……。特に意思を持ったばかりの上に、名家、謀反者。三國志演技の話、物語で、漢に背き、最初に国を建国した御姫さまだから。この世界、【三國オンライン戦記】の世界を製作した神、プログラマー達も彼女の様子を思い出してもらえればわかる通りで。金髪縦ロールのお嬢さま設定の彼女、袁術嬢だから大変に気位が高く、見栄っ張りに設定をされている彼女だから。【あの御方】、女神さまに対して憎悪、悪意に満ちた嫉妬心を募らせていること自体に気がついていない。いない状態で、武器を持たぬ二人を救出する為に後を追う、ではないか?


 袁術嬢はもう既に業務破棄をしているから。己の主だけ助ければいいと思っているふしがある。


「(あの御方がどうなろうが知ったことではい。ないけれど。私(わたくし)の殿だけは、助けないといけない。いけない……)」と思う。


 だから。


「貴方達~! どきなさい~! 私(わたくし)の邪魔をするなぁあああ! 前を塞ぐなぁあああっ!」、


「ハイ!」、


「ハァ!」、


「ハィ~! ハァ~!」と。


 威勢の良い。物々しく、荒い、声音を出し、叫びながら。偃月刀を振るい、舞い──!


 そう、蝶が舞うように、リズム良く、偃月刀を振るい舞いしながら。おチビ! 埴輪仕様の一向一揆を駆除しながら駆け足──。


「殿~!」、


「あなた~。待ってぇえええっ!」と。


 悲しい声色で李儒(理樹)を呼び、叫びながら。仲の良い二人の後を追い。そんな我儘姫さま、お嬢さまの後を。


「姫様~。待ってくださいよ~。一人で、そんなに先走ると~。怪我を~。その美しい顔と肢体に怪我、傷を負っても知りませんよ~」と。


 相変わらず気落ち、落胆。己の肩を落とし、だけではないか? 紀霊将軍の場合は? 最初から我儘姫さま、お嬢さまの、悪しき策には、乗り気がなく。


「姫様~。そんな危険な行為はやめた方が良いのではないですか?」と。


 袁術嬢を諫めた彼女だから。紀霊将軍はやる気なおしをチャンなのである。


 そんな彼女も、自身の前に立ち塞がる一向一揆のおチビちゃん。埴輪仕様の匪賊、町民、農民、一向一揆には手加減することも無く。


「退けぇえええっ!」、


「退けと言っているだろうに──!」、


「貴様らにはぁあああっ! 私の声が聞こえぬのかぁあああっ!」と。


 怒号! 罵声! を吐き。放ちながら。


「姫様~。待ってくださいよ~」と。


 気の抜けた声音で後を追う。


 だから盲夏惇も馬上から自身の目に映るおチビな一向一揆達──。彼女、夏侯惇の片目に、独眼の瞳に映る緑の大地。オアシスを破壊、壊す、だけではないか?


「ピキー!」


「キャァアアア!」


「キョ、エェエエエッ!」と。


 甲高い声音で叫び、威嚇しながら。各自各々が剣や槍、戟と、農具を……。



 そう、鎌や鍬、斧を握り振るいながら盲夏惇へと荒々しく。物々しく迫りくる一向一揆達に対して。








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