第184話 李儒(理樹)と内気な姫殿下【乱】(8)

 高貴な家柄、後漢の三公の一つ袁家の令嬢さまの一人である袁術嬢や、彼女の臣下の一人である三尖刀の使い手、紀霊将軍も何食わぬ顔と、言いたいところではあるのだが。先程も説明をした通りだ。


 紀霊将軍は、先程迄のやる気の無い顔、憂鬱な顔、表情から一変して、「うひゃ~」、「うひゃ、ひゃ、ひゃ、ひゃ」と歓喜! 喜び勇んで、この、ああ、無情な殺戮を、「早くかかって来いよ。お前等。チビ共」と、己の顔を艶やか、昇天、逝ったように桜色に染め、緩ませながら歓喜、堪能をしている。


 まあ、しているから良いんだけどさ、紀霊将軍の方はね。でもオーガの彼女の主さまであるエルフな御息女、お嬢さまの方はと言うと?


 己の、彼女の、大変に神々しく麗しい、顔を歪ませ、強張らせながら怪訝な表情で、今の自分達の状態。只今置かれている状態に対して不満を漏らすのだ。こんな感じでね。


「もう、本当に切りがない。切りがないですね。このままだと、逃げ回る二人にいつまで経っても追いつかない。追いつかないではないですか。早くあのひとにおいつき。追いつき警護をしたいのに。切りがない。切りがないですね」と。


 自身の臣下であり。この場の雰囲気、自分達の置かれている立ち位置、立場を心から楽しみ、満喫。酔いしれながら堪能。「うひゃ! うひゃ、ひゃ、ひゃ」と歓喜! 喜び勇みながら修羅化している紀霊将軍とは打って変わって。袁術嬢はこんな不満を漏らすのだ、だけではない。


「……このままだと、本当にあのひと……。私(わたくし)の主さまの身が危うくなる。なってしまう」と。


 彼女はこんな独り言……。



 そう、自身が発動をした魔法スキル【扇動】なのだが。彼女が思い描いていた数よりも何故か、大幅に上回る数の一向一揆衆達を召喚してしまったようなのだ。と、言うよりも? 袁術嬢自身が有り得ない程、その時、魔法を発動。詠唱を唱えた時に魔力、妖力が桁違い。


 そう、この世界の魔王と女神に並ぶどころではなかったのかも知れない? 魔王と女神を凌駕するほどの魔力、妖力が増幅されたようなのだ。ある者の為……。


 この世界に一人しかいない異性、アダムである。元自分の主、夫を奪われた女心、嫉妬心と言う奴でね。


 まあ、彼女。高貴で気位の高い彼女自身は全くと言って良いほど気がついてはいない状態なのだが。


 彼女、袁術嬢が魔法スキル【扇動】を発動──詠唱を唱える最中に、「(あの女性(ひと)、あの女性……。あの女が憎い。憎い……。いくらあの女が、あの者であろうとも憎い。殺してやりたい。殺して……。私(わたくし)の大事な者、主、夫を寝取ったのだから。あの肢体を八つ裂き、バラバラに引き裂き、殺してやりたい……)」と、悪しき想い。と、いうか?


 袁術嬢は仲慎ましい二人の様子を凝視しながら。彼女自身すら気がついていない嫉妬心に狂い、憎悪を募らせながら詠唱を唱え、唄ってしまったから。彼女の予想を大きく上回る一向一揆衆達が召喚されたと言う訳なのだ。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る