壁の向こうを透過するデバイス

 パリで開催された軍事・セキュリティ関連見本市「Eurosatury 2022」に、イスラエルのCamero-Techという会社が透視デバイス「Xaver 1000」を発表したという報道がありました。レーダーとAIを組み合わせて、壁の向こうにいる人物の人数や距離、身長までつまびらかに判るシステムだそうです。


 すごいね、と思ったそこのあなた。


 実は、日本の防衛装備庁(当時は防衛省技術研究本部)も壁の向こうを透過する『壁透過レーダー』を開発しているんです。しかも2009年に。ま、当時からイスラエルなども壁透過レーダーを開発していたので、目新しいというものではありませんでしたが。「Xaver 1000」はAIと組み合わせたところに新規性があると思われます。


 防衛シンポジウムなどで公開された壁透過レーダーは、日本の電波法に準拠した周波数帯を使用し、かつ、日本の建築基準法に定められた壁(要するに耐震性を向上させるために鉄筋が多い)でも透過できるというもの。人間の呼吸による僅かな動きも検知できます。これ、テロ対策に有効というだけでなく、災害時に倒壊したビルの中から要救助者を捜すという手段にもなり得るわけで、災害大国日本としては、活用できるデバイスなのです。


 ところが、ところが。この壁透過レーダー、開発は終わっているのに未だに装備化されていません。2010年に公開された外部委員会の評価でも『本研究の成果は完成度も高く、今後、テロ対策、有事及び災害救助等への早急な実用化が強く期待される。』とされているのに、です。


 レーダー技術は、すでに枯れた技術ですから、民間企業なら製品化・量産化も容易いはずです。しかも、利用価値は高い。なぜ折角開発されたのに、それがイカされないのでしょうか。『球形ドローン』もそうですけど、もったいない技術がたくさんあります。私に資金があったら、防衛省と提携して、民生品として売り出すのに。


 余談ですが、壁透過レーダーの話を聞いた自動車メーカーの人が防衛省を訪れて、『曲がり角の向こうが判るようにならないか』と聞いてきたそうです。さすがにそれは無理と断ったそうです。

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