第4話
この事件を切っ掛けに、世界には小さな二つの変化が現れた。
一つは「ロンデボラ」という、青毛で勇猛果敢な馬にだけ与えられる称号が作られた事。
もう一つはラネイラを結果として護った猛獣が、生来の繁殖能力、環境への高適応性を活かし、時を経てラネイラを脅かす「害獣」へと変貌した事。
どれ程に小さな、意味の無さそうに思える事象や行動が、最終的には時間の中で意味を持ち、変質し……この世界に新たな「異常」をもたらすのである。
もし、大商人ガリンズが猛獣を放つ事無く、そのまま馬車を走らせて逃亡を試みたら?
恐らくは道中、彼は檻を破って襲い来る猛獣に襲われて死亡し、子孫を残す事は無かった。彼の子孫が「ある夫婦」に海沿いの町を勧め、引っ越しを促す事も無かったであろう。
そして――その夫婦が移り住んだ先の港町で、「魔法」とも呼べる薬品を格安で売り捌く事も無かった。残念な事に、その夫婦が夜逃げした港町では、奇跡を起こす薬を巡り、三件の殺人事件が発生している。
大商人ガリンズは、自らの英雄行為により……子孫の暮らす世界に争乱をもたらした。
時は移ろい、新たな「争乱の種」となった夫婦に、一人の女が刻一刻と近付いている。各地で惨劇を引き起こしているその女を、しかしながら夫婦は感知していない。自分達が逃げ回る為に、連日の不幸を生み出している事を彼らは知らない。
ある種の大罪人とも呼べる夫婦は、この世界では「ノグチ」「キティーナ」と名乗っていた。
無意識の災害をばらまく二人は今――幸福の頂点にあった。
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