第4話

 男達は代わる代わるに「何故、阿桑田ユリカという人物を知っているのか」「何故、眼前の女が阿桑田ユリカ本人である事を知っていたのか」を説明した。




「職業柄、俺達は普通の奴らが出入りしない場所にも顔を出すんだ。お国から貰える手配情報じゃ、満足に生きていけないからよ……あぁ、職業は獣猟師なんだよ。特に危ない猛獣専門の……な」


「昨日、俺達は猛獣の出没情報を役人よりも早く売ってくれる知り合いを尋ねたんだ。その時……見掛けない女がそこにいた。隣のお嬢ちゃんぐらいかな、目付きだけは……嫌に鋭いんだ」


「あぁ、全くだ。それで……その女が言うんだ、『ある人を捜して欲しい』ってな。名前も知らないのに出来ないと言ったら……『キティーナ』って名前を出せば、きっと見付かるはずだ……ってよ」


「それに……いや、失礼な話なんだが……その女はこうも言っていた。『私のような感じがすれば、その人だ』とさ。……あんた、さっき尋常じゃない空気を……ハッキリ言えば殺気だな、殺気を出していなかったか?」


「俺達は分かるんだ。何かを仕留めようとする生物の空気……みたいなものを。俺達は確信みたいなものを持っている。あんた……俺達と似たような仕事をしていないかい」


「間違っていたらすまない……どうだろう、一緒に来てくれないか? 女はあんたを狙っている訳じゃなくて、どうやら……話がしたいだけらしいんだ」


「あやふやな話で申し訳無い……けれども、ここは俺達を信じて欲しい。絶対に危害は加えない……いや、あんたには加える事すら出来ないと思う……」




 果たしてユリカはツキーニに向き直る。


「……という事らしいです、ツキーニさん。申し訳ありませんが、貴女とご一緒出来るのはここまで――」


「わ、私も……!」


 ツキーニは被せるように言った。男達は不安げな顔で少女を見つめていた。


「私も一緒に行きたい! もしかしたら、私の目的が叶うかもしれない……お願い、自分の責任は自分で取るから……!」


 素気無くユリカはかぶりを振って、「よく聞いてくださいな」と微笑んだ。


「ここからは貴女の立ち入る事が出来ない領分、いえ、立ち入る事は推奨されないでしょう……ツキーニさんは今、自分で責任を取ると仰りましたが……例えば私を捜している方が、貴女を攻撃したとしたら? 貴女一人で迎撃をする事が果たして可能かどうか?」


「……出来る、出来るわ!」


「何を持っているか分からないのに? どのような手段を講じてくるか不明なのに? 貴女の目的が叶う前に――」


 死んでしまうかもしれないのに?


 柔和な声質から飛び出た言葉に、ツキーニは年相応の震えを見せた。


「責任は簡単に背負えますが、しかし果たすのが実に難しいもの……ツキーニさんの背中は、キチンと責任を背負える程に広く、逞しいのですか?」


 ラネイラの道を行く者の喧噪が遠くに聞こえた。男達もばつが悪そうに立ち尽くし、やがて一人が「そうだよお嬢ちゃん」とか細い声でユリカに賛同した。


「その姉さんを誘っておいてなんだが……うん、お嬢ちゃんは来ない方が良いな。あの女、どうも不気味で……そこに連れて行く俺達が言うのもアレだけどよ」


「で、でも……!」


 しばらくの間――ユリカはツキーニを見下ろしていたが……。


「ツキーニさん、ありがとうございます。貴女の気持ちは本当に嬉しいのだけど……大切な親友であるツキーニさんを、少しでも危険から遠ざけたいのです」


 ツキーニは歯を食い縛り、俯いたまま――反論を口にする事は無かった。


「ゴーディス、お嬢ちゃんを見ていてくれ」


 仲間の呼び掛けに頷いた男――ゴーディスは、黙したままのツキーニの肩を叩き、近くの飲食店に引率して行った。

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