第27話 真白とテレビ

『ピピピピピピ、ピピピピピピ』

 寝室に置いていた目覚まし時計が鳴り、蓮は身体を起こしてアラームを止める。

 外からは鳥の囀りが聞こえ、カーテンからは朝日が差し込み、天気は快晴だった。


 休日の今日、蓮が起きた時間は平日と同じ時間帯だ。

 蓮は寝室からリビングに向かい、買いだめしてある軽食のパンを口にする。

 今日のやることと言えば、掃除に家事、休日分の課題、そしてモカと19時にVRをすることぐらいだ。


 朝食を食べ終え、簡単な掃除を終わらせた後に学園から出た課題に取り組んだ。


 そして、気付けば時刻は正午を過ぎていた。


「ふぅ……。休憩にテレビでも見るか……」

 休憩なしで課題に取り組んでいた蓮は、リモコンからテレビの電源をオンにする。


『さぁーて、ここで皆さんお待ちかねのスペシャルゲストの登場でーす!』

 その瞬間、一際テンションの高い声がテレビから流れ、蓮はテレビに視線を移す。


『それでは登場していただきましょう! 大人気女子高生アイドル、小桜真白さんです! どうぞ〜!』

「え……」

 テレビを付けた瞬間、番組司会者の口から知り合いの名前が発され、思わず声が漏れる。


 そうして、ゲストコーナーのカーテンが開きリボンやフリルの付いたアイドル衣装に身を包んだ真白、、が、笑顔を見せながら登場したのだ。

 真白が姿を現した瞬間に、客席に座っている人や複数の芸能人から大歓声が送られ、その歓声に答えるように真白は胸の前で手を振っている。


 そんな真白は軽くおめかしをして、サイドテールに結んだ明るい茶髪がとても似合っていた。


「…………今思えば、俺はこんな有名人と普通に会話したりしてるんだな」

 学園で身近な存在に居る真白だが、こんな昼間の番組に出演しているとなると非現実的な体験をしているように感じるもの。


『いやぁ、お久しぶりだねぇ真白ちゃん。その若さで相変わらずの大人気さ! 流石だ!』

『お久しぶりですっ!』


 テレビ番組の司会者と知り合いなのだろう、お互いに硬い雰囲気ではなかった。それだけではなく、おどおどした真白はそこにはいない。

 仕事のスイッチが入っているのか、高校一年生とは思えないほどに堂々としている。


『ではでは、こちらの席に』

『はい、失礼します』


 司会者から椅子に座るよう促され、真白はゲスト席に座った。


『おや、真白ちゃん。今日はいつも以上に表情が明るいねぇ。さては何か良いことでもあったなぁ?』

『は、はいっ。でも、よく分かりましたね……?』


『これでも、私は真白ちゃんのファンだからねん! 多分、ほとんどのお客さんが分かったと思うよ? ねぇ、お客さん?』

 司会者が客席にいる座っている皆に促し、演出とまでに全員が頷いた。


『そ、そんなに分かりやすかったですかね……えへへ』

 真白の言う『良いこと』が、あと数時間後にVRでデート《、、、》することだなんて誰も思うはずがないだろう。また、蓮も思うはずがない。

『真白ちゃんのような純粋な心、あの不倫芸能人にも学んで欲しい!』

『誰が不倫芸能人じゃ!』

 レギュラーの芸能人が慣れたように司会者に突っ込み、番組は進行していく。


『では、真白ちゃんには視聴者さんから頂いた質問に答えて頂きましょう!』

 真白がこの番組にゲスト出演したのは、番組内に真白の質問コーナーを埋め込まれていたからだった。


 昼間の時間帯に自分のコーナーが設けられること自体凄いことぐらい蓮にも分かる。そもそも、お昼の番組に高校一年生が出演すること自体滅多にあることではないだろう。


『えー、なになに……質問件数が多くて選別するのが大変だった? はいカンペさん、番組関係者さんありがとう! では、最初の質問はイニシャルKさんから!』

「あの司会者さん、勢いが凄いな……」

 そうして、質問コーナーが開始された。


『えっと……真白ちゃんは現在高校一年生とのことですが、勉強と仕事はちゃんと両立出来ていますか? とのことですがどうでしょうか?』

 司会者は寄せられた手紙を開封して読んでいく。


『は、はい。両立出来てると……思いたいです』

 勉強が苦手だと言っていた真白は、この質問に対し苦笑いで答えた。蓮からすれば真白は両立出来ていると思うのだが、真白は自分に対して厳しかった。


『少し微妙な回答なのが気になるところだけど……! 皆さん、真白ちゃんは楽屋でちゃーんと勉強してますから大丈夫ですよ!』

『な、なんでそんなことを知ってるんですか!?』


『楽屋をコッソリと……ね?』

『の、覗いたんですか……!?』


 パチクリとまばたきをさせる真白に、司会者はニヤリと不敵に微笑んだ。

 これが女性だからまだ良いのだろうが、司会者が男性だったらかなりの問題行動だろう。


『気にしない気にしない。それでは2つ目の質問はイニシャルTさんから!』

「司会者さん、こんなんで大丈夫なのか……」


 覗いたと言う司会者さんだが、あの様子を見るに一度や二度の覗き回数では無いような気がする……なんて蓮は思う。

 しかし、あの司会者は真白のファンであることは十二分に分かるものであった。


『えっと、もし真白ちゃんに好きな人が出来たらどうやってアピールしますか。……ほおー、これは私も気になりますねぇ!』

『え、えっと……そ、それは……』


 予想外の質問だったのだろう、その質問に真白の凛とした表情は崩れ、あわあわと日常の真白モードに入っていた。質問コーナーでその質問に答えないわけにはいかない。

 じわじわと顔が赤く染めながら、真白はこう答えた。


『て、てててて手を繋いで、か、彼に身体を……寄せます…………っ』


『ぬぁ、ぬぁに!?』

『マジかいマジかい!?』

『真白ちゃーん!?』

 ゲスト席の後ろに座っている有名な芸能人が大きなリアクションを取り、

「男性諸君! 真白ちゃんを惚れさせたらこんなことをしてもらえるそうですぞ!!」

 司会者の言葉に番組もさらに大きく盛り上がっていく。


『続きましての質問はイニシャルEさんから! 真白ちゃんに彼氏が出来ました!』

「……」

 蓮は、自然とテレビから目が離せなくなっていた。


 真白と友達だから、はたまた異性、、として内容が気になって仕方がなかったからか、それは蓮に分かるものではなかった。


『真白ちゃんの彼氏さんには何をしてほしいですか! とのことですが……なんか内容が男性からの質問っぽいものばかりで私、嫉妬しますねぇ……。まぁ私も気になるから良いんだけど……。さて、これはどうでしょうか!?』

『……あ、あの。そ、それは…………』

『それは……ッッ!?』


『……で、出来るだけ、わたしの側に居てほしいです……。わたしはそれが一番嬉しいです……」

 真白はVRの想い人、『レオ』を思い浮かべ照れ隠しをするように微笑んだ。


 VRの相手とはいつでも、毎日会えるわけではない。これが現実世界と違うところで、実際にレオは一ヶ月の間、ログインしなかった。

『モカ』である真白は、レオと会えなかった時の辛さを体験したがための回答だった。


『グハッ!? なんてええ子や……。なんてええ子なんや!!』

司会者は悶えたようなリアクションを取り、ハンカチで涙を拭く素ぶりを見せている。

「……真白に好意を向けられてる相手って、誰なんだろうな……」

 気付けば蓮は、そんなことを口にしていた。


 そうして質問コーナーが数問続き、真白からの宣伝があって番組は終了した。


「……お仕事、お疲れ様」

 番組終了と共に蓮はテレビを消し、空になったコップにお茶を継ぎ足した。


 今さっきテレビ出演していた真白が、あのVRの『モカ』でこれからデートをすることなど、その蓮は知るよしもない。


 ーーただ、『モカ』に好意を向けられているのに薄々気付くのは、この質問コーナーを視聴したからでもあった……。

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