No.18『それじゃ、作戦開始よ』
校長に歯向かうと決め、俺は春夏秋冬から雲母坂さんを救うために練った策を聞いた。その策は事実なんて全く関係ない理不尽且つ不条理なもので、他人から見えた印象が全ての春夏秋冬らしいと言えば春夏秋冬らしい気がする策だった。
春夏秋冬は説明を終えると己の肘の抱き、俺に確認してきた。
「……って感じの作戦で行くつもりなんだけど、どう?」
「大方は良いと思う。ただ、一番重要なとこが抜けてるぞ」
「重要なとこ?」
眉を顰め、首を傾げる春夏秋冬。確かに春夏秋冬の策はこの現状を打破するに関してはかなり良い。だがしかし、肝心なその後のケアが出来ていないのだ。要するに。
「脅迫状を送ってきた本当の犯人を探さないと今後も雲母坂さんは命を狙われるかもしれない状況に陥るかもしれない」
「でも、そんなの見つかるわけが……」
「犯人の目星は何人か付いてる。俺に任せてくれ」
「……わかった。でも、絶対無理はしないで。何持ってるかも、何してくるかもわかんないし」
「おう」
俺はゆっくり首を縦に振り、春夏秋冬からの心配を素直に有り難く受け取った。そして春夏秋冬は組んでいた腕を解き、俺に向かって言う。
「それじゃ、作戦開始よ」
「りょーかい」
春夏秋冬はスマホを耳に当て、体育館の方へ走っていく。俺もスマホを取り出し、とある愛後輩に電話をかける。
『もしも〜し? 乱子だよ〜。葬哉くんどうしたの〜?』
「今どこだ」
『体育館ですよ〜。もうすぐ私服ファッションショーの大トリが来るから、見るなら急いで来た方がいいよ〜』
「わかった。今から俺も体育館いくから、外で待っててくれ」
『えぇ〜? どうして外〜?』
「ちょっと貸して欲しいものがあるんだ」
そう答えながら俺も春夏秋冬の走っていった方へ足を動かし始めた。春夏秋冬の作戦は高い確率で春夏秋冬の考えている通りに成功するはず。
問題は俺の本当の犯人探しだ。別に今日だけを切り抜けるなら春夏秋冬の作戦だけで良い。でもそれでは殺されるかもしれないという恐怖はいつまでも続く。それなら今、今日のうちに解決しておく方が良いだろう。
春夏秋冬に任せてくれと言った以上、男を見せるしかねぇ。俺は自分を奮い立たせ、体育館へ向かうスピードを上げた。
△▼△▼△
体育館のステージ上には、顔面偏差値の高い男女それぞれ数十人が制服ではなく私服姿で立ち尽くしていた。皆、劉浦高校伝統の私服ファッションショー出場者である。
『さてー! ここで例年通りなら皆さんの拍手の量で優勝を決めるんですが……今年はある特別審査員をお呼びしております!』
司会の
『この方に審査していただきます! どうぞ!』
『こんにちはー!』
綾がステージ袖へ手を振りかざすと、明るい印象を与える元気の良い挨拶で登場した
黎來の登場は生徒たちを大きく盛り上がらせた。マル秘ゲストとして文化祭実行委員しか知らなかったため、当然ながら生徒たちは雲母坂黎來が来るという情報を一切知らず、突然現れた同年代の人気美少女芸能人に興奮を隠せない。
『今回お忙しい中お越しいただいたのは、大人気歌ウマモデルティックトッカーの雲母坂黎來さんです!』
『雲母坂黎來ですっ! よろしくお願いしまーす!!』
ぺこりと頭を下げる雲母坂黎來に、会場の生徒から『可愛い!』や『ファンでーす!』『黎來ちゃーん、手を振ってー!』などといった歓声が飛び、
『早速ですが、雲母坂さんには一番オシャレだという人を男女ひとりずつ選んでいただき、優勝者を決めたいと思います!』
『はい! 新人ですがモデルのプライドもかけて全力で審査させていただきますっ!』
そうして黎來登場からの流れは何の問題もなく恙無く進行した。黎來はちょこちょこ笑いも取りながら、しかしモデルとしての知識も活かしながら真剣に審査を行う。最後には男子と女子それぞれの優勝が黎來の口から発表され、男女優勝者二人に綾が感想を尋ねたが、黎來の存在感に圧されたのかどちらも大したコメントは出来ていなかった。
そして黎來のステージ上での振る舞いは、つい先ほど脅迫状が送られてきたとは思えないほどに自然で、完璧なものだった。誰も彼女が命の危険に晒されているとは思わないだろう。ここまで段取り通り完璧にこなした黎來は、ここ数年のうちに芸能界に入ったばかりの新人モデルではありつつも、芸能人としてのプライドを守ったのだ。
黎來自身、マネージャーから脅迫状が送られてきたと紙を手渡され、中身に目を通した時、もちろんながら多少の恐怖はあった。だが不思議とステージに立つことを拒否する気にはならなかった。マネージャーやボディガードはステージには上がるなと言うのだが、黎來はその反対を押し切り、ここに立っている。
何故恐怖を感じていないのかは黎來にもよくわからない。普通殺されるかもしれないと思ったら絶対にステージに立ちたくはないはずだが。黎來はステージに立ちたいと、自分のショーを行いたいという気持ちの方が勝ったのだ。
それがプロ意識と呼べるのか、はたまた自殺行為と言われるのかはその人の感じ方次第ではあるが、殺されるかもしれないという恐怖よりも自分が目立つ方を選ぶのは、親戚である朱々と似通った点なのかもしれない。
『はいそれでは雲母坂さん、実は何やら我々にサプライズがあるらしいですね……!』
綾の煽りに、会場が『おぉ!?』と声を揃える。黎來はその反応が素直に嬉しく、ニンマリと笑って上機嫌に大声で叫んだ。
『はい! 今日は特別に何曲か歌わせていただきたいと思いまーす!』
その宣言に大きな拍手と大歓声が巻き起こる。ここからは完全に黎來だけのショー。ここまで進行役だった綾も降段し、ステージには黎來の姿だけ。脅迫状には黎來のショー中に殺すといったニュアンスが含まれていたのもあり、舞台袖にそれぞれひとりずつボディガードが立ち、生徒も全て立ち入り禁止となっている。なのでボディガード二人以外、舞台袖に人の姿は無い。
『それでは聴いてください。一曲目はカバー、HYで『366日』です』
曲のタイトルを聞いて再度どっと湧き、盛り上がる体育館。しかし曲が流れ出すと皆口を噤み、黎來の歌に耳を澄ませた。
観客は黎來の歌に聴き惚れ、会場には黎來の歌声だけが響き渡る。黎來の歌声は透明感のある美しく綺麗でありながらも力強い。よって歌詞のひとつひとつが胸に届いてくる。口パクしながら一緒に小さく歌う生徒や心のこもった上手な歌に涙する生徒もいた。会場は一気に黎來のものとなったのだ。
『ありがとうございました』
曲が終わり黎來が頭を深く下げると、パチパチと拍手が送られる。生歌が相当上手く強烈だったのか、観客は呆然としており若干まばらではあった。
しかし黎來は気にせず進行する。笑顔を作り、マイクに向かって言葉を発した。
『それじゃあ次の曲っ! タイトルは……』
「ちょぉ〜と失礼しますね〜ww!」
刹那、黎來の言葉を遮りマイク無しでも不思議とそこそこ通る声で乱入してきたひとりの男子生徒。突然の乱入者に体育館はざわつく。彼はそんな様子を眺めてニヤニヤと締まりのない顔をし、観客に向けてこう言った。
「ごめんなさいね生徒諸君! ボク
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