第3話『俺みたいな陰気質強めのヤツは学校行事に恐怖すら覚える』
No.13『ブロックとかさすがにヒドイんですけどぉ!!』
九月もそろそろ下旬。来月の第一土曜日には劉浦高体育祭が開催されるということもあって、生徒らの気分はずーっとふわふわしている。まったく、何が楽しいのやら。
俺みたいな陰気質強めの人間には体育祭はどうでも良いの極みなんで、マジさっさと終わって欲しい。出る競技も次のHRで決めるって言ってたし、原則ひとり一競技らしいから、去年同様目立たなそうな団体競技にしれっと参加しておこう。運動音痴でしかも陰キャの俺は、こういう行事ごとは静かに息を潜めて空気になっているに限る。全ての学校行事は陽キャの独壇場なのだ。あ、今かなり名言っぽいの出たな。
「「けーがれやくーーん!!」」
「ぐっはっ!?」
放課後、靴箱に向かいながら名言出した自分に酔いしれているとバカデカい二つの声で名を叫ばれ、振り返ろうとした瞬間、俺の背中に二つの衝撃が走った。俺はそのまま勢いで床に膝をついてしまう。
背中をさすりながら改めてしっかりと振り返ると、そこには三度の飯より恋バナ大好きバレー部マネジ二人組、
「どうだ! ウチらの必殺ヒジエルボーは!」
「お前らそれ意味被っちゃってること気付いてる? 頭痛が痛いとおんなじだぞ」
「あひゃひゃひゃひゃ! やっぱ気付いてくれた! さっすが穢谷くん、違うわ~」
手を叩いて爆笑する籠目。流石は箸が落ちても可笑しい年頃日本代表だ(今決めた)。
「で、何の用? まさかヒジエルボーネタをしたいがために俺に突進してきたわけじゃ」
「「あるまいよもちろん!」」
「お、おう。そうか……」
相変わらずのハモり具合に気持ち悪さまで覚えてしまう。何なの、君たち前世双子だったりとかするの?
「穢谷くん、ウチら二人とものラインブロってるでしょー?」
「うん」
「やっぱり! ブロックとかさすがにヒドイんですけどぉ!」
と言ってはいるが、大してヒドイとは思っていなそうな輝かしく素晴らしい笑顔だ。陽キャの笑顔眩し過ぎる、目が痛い、見えん。
「あのなぁ。ブロックしたのはお前らが『ボケて』画像めっちゃ送ってくるからだからな? その上スタ爆までされたらそりゃブロックするだろ」
「だって穢谷くん全然反応してくれないじゃん」
「いやお前らの送ってくる画像反応に困るんだよ! 全部陰キャネタだったじゃねぇか! 馬鹿にしてんのかよ!」
「えー、穢谷くんの陰キャ具合はイジっていいヤツだと思ってたんだけど、違うんだ」
「陰キャにイジって良いも悪いもねぇ! 陽キャは絡むな、陰キャはキョドって死んじまう」
すまん、それは流石に盛った。死ぬまでなくともキョドったの馬鹿にされてないか夜布団の中で死ぬほど心配になる。何なんだろうねアレ、別に好かれようが嫌われようがどうでも良いって思ってるはずなのに、馬鹿にされるのは嫌なんだよね。現代の
「なるほどねぇ。穢谷くんの熱い思いは受け取った! だからブロック解除しといてね!」
「おいその感じは全然受け取ってねぇだろ」
「まぁいいじゃん! ウチらと穢谷くんの仲だろぉ?」
「あっおい、くっつくな……!!」
俺が馴れ馴れしく腕を絡めてくる華一を振り解くと、二人はケラケラ楽しそうに笑い声をあげる。チクショーめ、童貞でここぞとばかり遊んでやがるなお前ら。
「でも実際ウチらと穢谷くんって結構相性良い感じじゃん?」
「相性ねぇ……。相性が良いって、それはつまりどういうことだと思う?」
「「へ?」」
俺の突然の問いに、阿保面で首を傾げる華一と籠目。
「穢谷くん。やっぱオモロいなぁ、そんなこと誰も気にせぇへんで」
「なんで急に関西弁なんだよ……」
「関西弁話す女の子って可愛くない?」
「可愛いか可愛くないかは結局顔だ。性格可愛いとか言う野郎はみんなブスと結婚しときゃいい」
「ブスと結婚ww! さすがは穢谷くん口わっるいわ〜!」
「穢谷くん、性格可愛いって言う人のことめっちゃ嫌いなんだね」
まぁ嫌いっつうか、本音がブスくても良いから性格良い子が良いなんて言うヤツ頭おかしいと思うんだよね。最初ブスだなぁって思ってて後々関わっていくうちに性格の方に惹かれていくってのならわからなくもないんだけど、
「……あれ、そういや何の話してたんだっけ」
「ホントすぐ話逸れるなお前らは」
「相性が良いって詳しく言うとどういうことなんだろうねって話だよ」
「おぉ〜。さすがは夏込さん、いつもいつもホント悪いねぇ」
「いやいや構わんよ匁さん。困った時はお互い様じゃあないですかい」
「……」
「ちょっと! 穢谷くん白々しい目で見過ぎ!」
「あひゃひゃひゃ! 辛い、辛いわ〜その目w!」
相変わらず大爆笑のお二方。悩みとかマジ無さそうだなーコイツら。
「でも相性かぁ。考えてみると、説明するの難しいね」
「そう? 相性良いかどうかなんて、一緒にいて面白いかどうかっしょ。つまらないってなったら相性悪いとまでは言わないけど、良いとも言えないし」
「あー、それは確かにねー。結論出ましたよ穢谷さん! 相性良いってのはその人と一緒にいて面白いって思った時です!」
「面白いって思った時か……」
華一と籠目は俺と相性良い感じと言っていたので、つまるところ一緒にいて面白いと思っていることになる。俺からしたら面白がられてる感が否めないんだが。
「んでさ。穢谷くんはどうなん? ウチらと相性良いと思う?」
「うーん、まぁ、話しててつまらなくはねぇかな」
「え〜なにそのツンデレ感!!」
「ちょっとギャップ萌えなんですけどぉ!」
うん、その一々うるさいところだけはいつまでも気に入らないんだけどね。
ま、一口に相性と言っても色々な解釈の仕方がある。特に人間関係においての相性は。友人としての相性、先輩後輩の上下関係としての相性、この二つは≒とも言えるが、恋人としての相性と夜の営みにおける相性などなど。
俺とこの二人の相性について言えば、この場合もちろん友人としての相性だ。しかしこれの良し悪しを決めるにあたり、まず友人としての相性が良いとはどういう状態にあれば、そうなるのか。そこを定義する必要がある。
例えば上下関係としての相性だったら、そこそこに砕けた会話も出来て、両者が相手をイジることも出来る状態だったり、恋人であれば相手と一緒にいて気が休まるとか、夜の営みにおける相性ならば他方がイクだけで片方はイケない、ではなくお互いにヤって気持ち良いと言える状態など。こうして例を挙げてみると、その全てが
「てことは俺は華一と籠目と仲良いのか……?」
「え、なになに?」
「今ちょっと聞き捨てならない発言をされましたな〜」
ボソッと呟いただけのつもりだったが、小賢しいことに華一と籠目はしっかり耳にしていた。
「でもマジな話、穢谷くんの性格ウチらの好みの感じなんだよねー」
「これからも仲良くしましょーや穢谷くん」
「交友関係広く浅くがモットーって言ってたお前らに仲良くしようって言われてもなぁ」
「いやいやそんなウチらだからこそだよ。仲良くしようねとか滅多に人に言わないから」
「ホントは?」
「「基本的に関わった人への常套句になってるかな」」
真偽を問うと、全然包み隠さず言っちゃう二人。まぁ、正直常套句だろうとそういう大雑把な感じが俺的には好感持てるんだけど。
「ていうかお前ら部活は?」
「バレー部は毎週水曜日オフなんだよ」
「あー、そういうことか」
「そういう穢谷くん、部活は?」
「してねぇよ。してたらお前らの合宿手伝いとかしてないだろ」
「まぁそりゃそっかー」
劉浦高は部活動が強制じゃない。なのでサボたがり中学生が受験しがちだとも言われている。
「あ、そういや今日は朱々と一緒に帰らないんだね」
「は? なんで春夏秋冬が出てくんの……?」
「いつだったかに一緒に帰ってなかったっけ。一週間経たないくらい前だったかな」
「……あぁ、アレか」
おそらく
それに今日はやけに遅くまで放課後教室に残っていた。多分、恒例のストレス発散をなさるのでしょう。怖や怖や。
「いいよねぇ~。学校一の人気者で学校一の美少女と一緒にボランティアすることになった陰……じゃなくて日陰者が次第に惹かれ合い、そしてゆくゆくは恋仲に……みたいな!?」
「ヤヴァイ! それはヤヴァーイ! 超ドラマティックなんですけどー!」
「妄想で勝手に作った話で盛り上がるのやめてくれる? あとさっき完全に陰キャって言いかけたよなお前」
事実はそれとは全く違って弱み握られてボランティアさせられてるんですけどね。まぁしつこく聞いてくるからボランティアってことにしたのは俺なんだけど。
「ん、てことは今日は穢谷くんフリーってわけだ!」
「……そうですけど?」
ハッと気付いたように目を見開く華一。若干嫌な予感がした俺は華一の真意を探る感じで首を傾げる。
「よし、じゃあこうして放課後かち合わせたことだし、どっか遊びに――」
「じゃあな」
「「待てい!」」
二人がかりで首根っこを掴まれたが、俺は火事場の馬鹿力で何とか切り抜けることが出来た。華一と籠目が悪いヤツらじゃないってことはわかってるんだけど、彼女らのような輝かしい毎日を送ってらっしゃる、それこそ俺の嫌いな青春真っ盛りの陽キャの日々に、俺が介入するなんてことしたくない。俺は他人の中に俺、穢谷葬哉という存在をなるべく残したくないのだ。これはどうしてか、なんでそんな風に考えるのかと問われても論理的にこれこれこうだからと説明することは出来ない。何故なら、俺がそういう性格をしているから。変えようがなく、説明しようにもそういうものとして自分の中に設定されている考え方を、どうしてそう考えるのかと訊かれても説明の仕様がない。だからこういう性格を産まれ持った俺は、元来日陰者気質な人間なのだろう。
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