『笑顔』
世間一般的にお盆休みというのは八月の十三日に始まり、十五か十六日に終了する。本日十五日は、Uターンラッシュのピーク。その混雑に揉まれ、すっかり疲弊した爆乳コミュ症リケジョ、
定期的に
「あれ……おーい! 祟ちゃん!?」
「はへっ!?」
突然呼ばれ、ビクっと肩を震わせる雅。振り返るとそこには、ヤンママで劉浦高校(定時制)の先輩、月見うさぎが娘のよもぎと手を繋いでもう片方の手を雅に振っていた。可愛らしいことに、よもぎも母親の真似をして繋いでいない方の手をしきりに振っている。
「あ、月見さんっ。よもぎちゃんも、お久しぶりですっ……!」
「おー、久しぶりー。何してんの? 買い物?」
「いやはいっ。ついさっきまで両親と、いたんですけどっ。別れてひとりで……」
「あぁ帰省してて戻って来た感じ?」
「そ、そうですっ!!」
雅はうんうんと激しく首を縦に動かした。自分の言いたいことを先読みして理解してくれるのは、自分で喋る必要がないためコミュ症的にとてもありがたいのだ。
「かーしゃん! かーしゃーん!!」
「はいはいどしたよもぎ。立ってるの疲れたのか~?」
「ちあれたー! だっこ」
「よもぎちゃんっ、見ないうちにすっごい喋ってるっ!?」
「だろー? もうすごいんだよ最近。女の子の方が男の子より言葉覚え早いって言うけど、よもぎはそれよりも早い気がすんだよなぁ。ちょっと前なんか『やられたー』って言ってたからな」
それもこれも昼間預けている幼馴染の学校長のせいなのだが、そんなこと知る由も無い。
「おいらん、おいらん!」
「この姉ちゃんは花魁じゃないだろ? 祟ちゃんな、たたりちゃん」
「おいらーん!」
「あははっ、自分のこと校長先生だと思ってるんですかね……?」
「おっ! 今の祟ちゃんすっげぇレア! 祟ちゃんの笑い声聞いたの初めてだわ」
「ひぇっ!? 自分、今、笑ってましたか……?」
自分で自分が笑っていたことに自覚がない雅の問いに、うさぎはニッコリ優しい笑顔でこくりと頷いた。
「祟ちゃんはもっと笑ってた方がいいと思うよ。きっと春夏秋冬以外にも友達出来るんじゃないかな」
「そ、そうでしょうか……」
「笑顔の力って意外とすごいんだぞー? よもぎが泣いてもこっちが笑顔で慰めてやったら泣いてたのが嘘みたいに笑い出したりするんだって」
「笑顔の力……ですか」
雅は自分の口角を無理矢理手で上げてみる。ショーウィンドウに反射した自分を見ると、口だけが笑っていて、目が笑っていなかった。そしてそんなことをしている自分が可笑しくなり、雅はまたクスっと笑みがこぼした。
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