No.21『浴衣の柄にもそれぞれ意味がある』
「それじゃあ夏祭りに……ではなくて、少し寄り道をしましょぉ!」
ファミレスを出た瞬間、
「寄り道って、どこ行く気?」
「朱々ちゃん! い~い質問ですっ!」
「……チッ」
「明らかにイラついた顔し過ぎだろ……。もっと感情隠す努力しろよ」
「実は浴衣の着付けを予約してあるんですっ! ……女性陣だけ~」
「「おぉ~!!」」
お盛んなキモオタと脳筋バカが感嘆の声をあげた。しっかり高校生やってんなー。やっぱり男子高校生はみんな猿だ猿。特大ブーメランなのは重々承知だが。
「
「え? なんで?」
「浴衣を見るのは後からのお楽しみってことにしたほうがいいじゃないですか~?」
「いや、まぁ……そうなのかな」
「はいっ! それじゃあ、駅で落ち合いましょう~」
いつものように小悪魔的な笑みを浮かべる一二は、春夏秋冬たち女性陣を引き連れてどこかへ行ってしまった。後ろで浴衣姿を想像してウホウホ言ってるアホ二人と俺は一二の言っていたように駅へと足を向けた。
△▼△▼△
時刻は五時を少し過ぎたくらい。あれから俺たち男三人は駅のベンチに座って女性陣の到着を待っている。暇過ぎて何をするでもなく、テキトーに会話をしていると、夫婦島がこんな話題を切り出してきた。
「穢谷パイセン、人嫌いなのに人多いとこは別にいいんっすね」
「人嫌いって時点でちょっと人としてどうかと思うけどな」
一番合戦さんにツッコまれてしまった。俺も終わりか。
「別にいいってわけじゃないぞ。むしろ全然人多いとこ嫌いだ。特に夏祭りなんて人間でごった返してるとこ、絶対自分から行こうとは思わないな」
「え、じゃあなんで今日はオッケー出したんすか?」
「墓参りの帰りに一二と会ったんだけど、その時に夏休み何してたかとか色々話して、俺が合宿の手伝いとか海の家でバイトしてたとか言ったらアイツ『あたしもみんなと遊びたいです~』って言ったんだよ」
「一二のモノマネ、若干似てるっすね……」
なんで若干引いてんだよお前。俺が一二のモノマネ似てたらキモいかよおい。
「じゃあ今日は一二を思って行くことにしたってことか! ははっ! やっぱり穢谷優しいなぁ!」
「いやまぁ優しさって言うか、俺だって夏祭りそのものが嫌いなわけじゃないし」
「ツンデレっすねーパイセン!」
「黙れ、それ以上俺をイジってみろ。その口二度と開かないように溶接してやる」
「そ、そんな青筋立てなくてもいいじゃないすか……」
でも確かに優しさと言えば優しさということになるのかもしれない。数日前に一二とスタ〇で話をした時に、一二はほとんど風俗店でのアルバイトで夏休みは全く休めていないと言ってたのだ。さすがにそれ聞いた後にこうして『みんなで夏祭りに行きたい』って言ってんのに断れるほど、俺も人間の心失っちゃいない。もっと言えば、と言うか俺がこんなこと言うのもアレだけど、一二にはクラスに友達がいない。むしろクラスのヤツらには煙たがられてるらしい。そんな彼女が、唯一夏祭りに誘えるメンバーのひとりとして俺が呼ばれたわけなのだから、『いや、俺は人混み嫌いだから嫌だ』とか絶対言えない。
まぁ祟みたいに気分悪くなるほど人混み嫌いなわけじゃないからいいんだけど。俺だって夏祭りの楽しさを知らないことないわけで。何なら女子の浴衣見れてラッキーなわけで。花火なんかより女子見ちゃってもおかしくないわけですよ。
「ん、あれ一二たちじゃね!?」
一番合戦さんが奥の方でカランコロンと小気味いい下駄の音を鳴らしながら歩いている浴衣女子たちを指差した。するとそれに気付いた小柄ながらもパイオツカイデーな一二が駆け寄ってきた。
「遅くなっちゃいましたぁ~。すいませんっ!」
「いやいやいいっすよー! 何がいいって、浴衣姿がいいっすよー!!」
「一二ぁ! ナイス!」
「えっへへ~。ありがとーございま~す」
一二の浴衣は黒を基調とした
「うーん、初めて着たけど動きやすくはないな」
「で、でもっ。月見さん、すっごく似合ってます、よっ」
「お、そう?」
「にあうー、にあうー、にっあうー! かーしゃん、にあう! あぁ〜にあうー!」
一二の後方から後れてやって来た月見さんとよもぎを抱いた祟。月見さんがトンボ柄で祟のは、蝶かな? なんだったっけなぁ、確か浴衣の柄って花言葉みたいにそれぞれ意味があるはずなんだけど、思い出せない。そしてよもぎは壊れたラジオの如く『似合う』を連呼しているが、今の時期は人の言った言葉をすぐに真似するんだろう。女の子の言葉覚えは男の子より早いって言うし。
「あれ……祟パイセンのパイオツが、消えてる……!?」
「ひぇえっ!? 夫婦島くんっ、セク、セクハラですよ!」
「浴衣の着付けってのは大抵胸つぶすもんなんだよ」
「あ、そうなんすね。良かったっす……」
月見さんに浴衣の着方について教わり、何故かホッと胸を撫で下ろす夫婦島。てめぇは祟の胸の何なんだよ。その祟へのセクハラ芸は俺のだろうが、取ってんじゃねぇよ。
「あー、かんっぜんに下駄のサイズミスったわ、もう足痛い。穢谷、四つん這いになって」
朝顔柄の浴衣に身を包んだ春夏秋冬がやっと俺たちのところまでやって来て、イラついた声音で俺に言った。やけにチンタラ歩いているなと思ったが、なんだ。下駄のサイズミスか。
「俺はいつお前の馬と化したわけ?」
「今よ今。光栄に思いなさい、スクールカーストの頂点に君臨するこの私の馬になれたのよ。その辺のドM共が泣いて喜ぶポジションなんだから」
「頂点に君臨するとか自分で言っちゃうんだ~」
「はっ! お生憎様、俺はベッドの中じゃドSなんだよ」
「え、あんた童貞じゃん……」
いやそんなガチで何言ってんのみたいな顔しなくても……。こっちはあくまでIfで言ってますから。
「それじゃあ今度こそ夏祭りに向かいましょうか~」
「よっしゃ! オレ、早くなんか食いてぇ!」
「そう焦んなよ一番合戦。まずは切符買わないとだろ」
「穢谷、切符代払っといて。後で返すから」
「お前それ永遠に返ってこないヤツな」
そうは言いつつも足が痛くて動きたくなさそうなので、代金は後で頂戴するとして、春夏秋冬の分まで買ってあげることにした。
すげぇ、俺ってば今日は優しさに磨きがかかってるわ。明日は何かしら降ってくるかも。
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