第41話 TwelveThinkr

 海洋都市MUには軍隊が存在しない。その代わりドローンの襲撃の際は戦略級オブジェクトを使用できるアーティスト達を、MUを管理する量子コンピュータ、カトレアが敵性人材を選抜する。戦略級オブジェクトを使用できる人員は凡そ20名、THAADが約50名いるのに比べれば半分も満たない。


 今回はラスティとクロス。TwelveThinkerが元々12名いたが現在10名が所属していて、その内戦略級オブジェクトを使用できるのは5名、頻度確率は低いが、今年で5回襲撃を受けている内、2回はTwelveThinkerの人間が選ばれている。どうやら当たり年という奴らしい。


 黒煙の雲が空を覆い、破壊されたドローンがぼろぼろと海へと落ちていく。


「派手にやりやがって……あいつら、廃材を回収する団体の事も考えろよ……」


「あの二人も結構戦闘狂よね? なんか荒れているって感じね。あの日かしら?」


「あれって、兄貴たちの仲間? すげぇ……」


「花火だっ! 花火だっ!」


「ダメよっ! サクラちゃんっ! アレを花火なんて言っちゃっ! お父さんみたいに皮肉屋になっちゃうよ?」


 マリアの言う通り、こういった光景は子供の情操教育上良くない。


 殲滅完了したので、さっさとこの場を離れた方がよさそうだ。




――海洋都市MU、第26区画商業エリア――



「まぁ、こんなもんだろう」


 少し邪魔が入ったもののMUの帰路への途中で片付け、事務所に着いた我々はクロウに提出を済ませた。


「ようっ! アキラっ! お盛んだなっ! 女の子を二人も連れ込みやがって、やるじゃねぇか」


「うるせぇよ。チンピラかあんたは? 子供ガキがいるんなら少しは自嘲しろよ」


 アキラを立てに伸ばしたようにして、嫌らしさを10倍にした男。ちょっと頬骨が高く、鼻筋が通り、太目の眉、無精ひげを蓄え、ヘアブラシのように短く切られた固い黒髪、俳優にも成れそうな二枚目風のスペイン男性。


 ディック=ロブレス、TwelveThinkerの中で一番の年長者、今年で30歳になる。二年ほど前からアンドロイドの娘、ネージュという少女を預かることになってからというもの、女癖の悪さは以前と比べて落ち着きつつある。以前と比べればであるが……


「正確には三人だ。見るからに妖しい、CIAのエージェントではないか?」


「てめぇ、それもう一度言ったらマジでぶっ殺すぞ……」


 失礼すぎる発言をした無表情の男はカアディル=エスファニ。瞳の色はヘーゼル、少し癖の付いた黒髪の短髪、背格好はアキラと同じような高身長で筋骨隆々、愛銃のAK-47のカラシニコフが無いと落ち着かない性格で、もちろん弾は抜いてあるが、非常に、否、病的なまでに疑り深い性格で、そのおかげで危険な状況を回避できたこともあるが、同じぐらいトラブルもあり、TwelveThinkerのトラブルメーカーの中でも一、二を争う。


「大丈夫ですよ、先輩。この間CIAとは話しましたけど、今、内の人間でマークしている人物はいないそうです」


「……おい、ちょっと待て、なんだその世間話、初耳なのは気のせいか? しかも何だその諜報機関とまさかの友達感覚っ!」


 もくもくと電脳空間に潜りながら端末を動かし、重要なことを淡々と口走る少年。イェレミーアス = ボット、金髪碧眼で、アキラの妹キサキと同じ17歳でありながら、未だ無垢であどけない中性的な顔立ちで、特殊な趣味の女性に受けそうな――実際受けている少年だ。


「安心しろ、既に報告受けている、ところでキリルはどうした?」


「すげぇ大事なこと、スルーしやがったな。それに内容は……どうでもいいや」


「いませんよ、今日8月9日じゃないですか、4日分有給取って休んでますよ。女性陣からいくつか頼まれごともあったみたいで、夕方には戻るそうです、あの件については参加するって言ってましたよ」


 もう一人キリルという男がいるのだが、インドネシア系なのでファミリーネームは無い、イェレミーアスに負けず劣らず童顔で、口も顔も五月蠅いが、憎めない男だ。この場にいない理由はオリンピックに続いて、長く続いている祭りに参加しているためだ。その祭りは戦争中は流石に小規模になりはしたが、有志達の情熱と努力により根強く続いてる由緒正しい祭りだ。


「そうか、ではその女性陣はどこ行ったのだ?」


「ああ、俺に書類を押し付けてサクラとシオンの服を買いに行くって、みんなで出ていったぜ、そろそろ戻ってくるんじゃねぇか」


「たっだいまーっ!!」


 勢いよく扉を開いて、無駄に元気なクロスを筆頭にぞろぞろと女性陣が腕にいくつもの服を抱えて現れる。


「しーちゃんもサクラちゃんも可愛いから、つい買いすぎちゃったよ」


「ちょっ、この服で面接するんかよっ! ゆー姉ぇ」


「大丈夫よ。シオン、そのワンピース似合っているわよ?、ねぇ? ラスティ?」


「面接なんてする必要ないっ! 男性陣の様子から見て合格っ!」


「今まで花が無かったからなぁ、良いんじゃね?」


「「あ゛?」」


「同年代の女の子なら大歓迎っス、採用」


「中々の肉付きだ。採用」


「うむ、採用だ。写真1枚いいか?」


「なぜだろうな、お前らが言うと何の面接か分からねぇよ」

 

 ラスティとクロスに踏みつけられているディックの発言は論外だが、同年代の女の子が単純に嬉しいイェレミーアス。肉体の鍛えぐわいを評価するカアディル。証明写真用の顔写真を求めるクロウ。誰をとってもアキラの耳には卑猥にしか聞こえなかった。


「わーい、見て見て、おとーさん、どう?」


「明日の面接用にと思って見繕ったんだけど、どうかな?」


 サクラはピンク色のボレロとワンピースでくるりと1回転して、無垢な満面の笑みを見せる。


「悪りぃ、誰か、カメラもっていねぇか、デジタルより写真という形で残しておきてぇんだけどっ!」


 親バカを発揮するアキラの目の前に、すっと一眼レフカメラが差し出される。


「これはアタシのだけど使っていいよ。一緒に愛でようじゃないかぁ?」


 一眼レフカメラを差し出した女性、カアディルと同じ中東系の褐色肌の女性、エレノア・ニマ。ウェーブがかったブラウンのセミロングで、豊満な胸を強調線とばかりに胸元が大きく開けたトップスに白衣を纏っている。少し間延びした口調で気だるそうにして、何事も面白がる享楽的な性格がたまに傷だが、TwelveThinkerの技術開発担当で仕事はきっちりやる女性だ。


「ところで場所は決まったのか? クロ?」


「もちろん決まっているよっ! クロウっ! 許可も取れてるよっ!」


「ちょっと待て、何の話だ? これからってどこ行くんだ?」


 アキラは状況が読めず、周囲を見渡すが、不思議と全員が首を傾げる。


「何って、場所はアキラの家で3人の歓迎会」


「はぁっ!? 聞いていねぇっ!?」


「安心しろ、地雷やトラップのたぐいは設置されていなかった」


「そんな家があってたまるかっ! カアディルっ! てめぇ何度も言っているく癖にまた調べたのかっ! 」


「まぁまぁ、良いじゃないですかアキラ先輩、こんな大人数が入れる店なんてそうないんですから?」


「イェレ、お前ぇはキサキ狙いだろうがっ!」


「どうせ、マリアの嬢ちゃん達を親御さん紹介するつもりだったんだろ? いいじゃねぇか別に、なぁ、ラスティもそう思うだろ?」


「ディック、それ禁句」


「マリア。中学生じゃないんだから照れてどうするの?」


「だって、ゆっち……」


「おかーさん、お顔真っ赤っ!」


 年甲斐も無く顔を赤く染め上げて蹲るマリアを後目に、自分で肴を用意することになろうと察したアキラは人数を再確認する。


「あ~、分かったよ。歓迎会参加メンバーの確認を取りてぇんだが、TwelveThinker全員の他には、ディックのところのネージュが来んのか?」


「あと、ツェツィーも来るよっ、ねっ!? エレ?」


「ああ、そうだねぇ、あたしの方から連絡入れといたから問題ないさぁ、あんた達3人は先に行ってなぁ。アタシ等はキリルを拾って行くからねぇ」


 成果を確認するためだなと、アキラは内心思っていだろうが、腐った女性陣は放っておいてマリアとサクラと共に実家へと向かうことにした。



――海洋都市MU、第34区画居住エリア、日本ブース――

 

 アキラの実家は温泉旅館を経営している。家庭環境については少し複雑なので、マリアとサクラにしっかりと言い含めとなければならないため、アキラは人差し指を立てて囁くように二人へ説明を開始する。


「実は俺の両親について話をしておかなきゃならないことがあんだ。実は俺とキサキには母親が二人いる。生みの親と育ての親だ。親父は行方不明だけど、二人は親友で、一緒に旅館経営をしてんだ。特に俺と同じ赤毛で琥珀色の瞳をした人には注意してくれ……いいか、サクラ、もしその人に会ったら、お祖母ちゃんっていっちゃだめだぞ? セオリさんって言うんだ、おとーちゃんとの約束だ」


「うんっ! 約束っ!」


「でも、アキラ。いきなり行っても大丈夫なのかな?」


「ああ、その変は心配ねぇよ。すげぇ大らかな二人だから」


 実家の玄関に赴くマリアの顔は少々強張っていた。サクラはアキラの実家に来れて子供だけあってウキウキしているようだった。それを更に興奮させるような存在が、アキラの実家の玄関にいた。


「あっ! わんわんだっ!」


 アキラの実家は『刹那セツナ』という犬を飼っている。犬種はウルフドックという種、狼とハスキー犬とのハーフで狼のように体も大きく賢いが、犬のように比較的温厚だ。アキラの家族や知り合い以外決して懐くことは無いが、それ以外の人間を吠えることもない。威嚇するのは不審者だけという、よく出来たペットだ。


 決して初対面の人物には懐かない筈の刹那セツナが、マリアとサクラにすり寄って匂いを確認してくる。


「……いい子ね」


 座り込んだマリアから素直に刹那セツナの頭を撫でられているところを見て、彼女がカーナであると本能的に感じ取ったのだろう。


「わっ! わっ! 凄いっ!」


 刹那セツナはサクラの股にすり寄って、彼女の身体を持ち上げて背に乗せて、玄関に案内する。


「連れて行って、アキラ」


 その微笑ましい光景に流石のマリアも緊張が解けたようで、アキラと手を取り玄関へと向かった。


 アキラとカーナが数年結婚生活を過ごした家でもあるアキラの実家。


 アキラの後目から見える彼女の何かを偲ぶような横顔は、久しぶりの我が家に思いを馳せているようであった。

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